第二十五話
体が震える・・・それもそうだ。俺は上着を着ていない。このクソ寒く、白い息が
口から上がる中で半袖一枚なのだから。ただデパートは著しく劣化はしているものの
壁に大きな穴が空いていたりはしていない。風が吹かないだけでも、マシなのだろう
早く上着の一つも見つけたい。
デパート内には電気は来ていない。当然エレベーターは動いていない。俺は非常階段を使い
二階へと足を進める。途中の踊り場で、俺は鞄から銃の弾を取り出す。
とりあえず、こまめに装填して弾倉をいっぱいにしておこう。弾が無くて咄嗟に
撃てないのは生死に関わるからな。俺は辺りを伺いつつ、弾倉に弾を込めていく。
カッ・・・・
!? ・・・・・・・・何かの音がした。足音か? はっきりしないが、音がしたのは
確かだ。・・・慎重に。ここは慎重に行こう。さっきの男との戦闘でひどく疲れている。
あまり無茶な戦いはできない。気休めかもしれないが、薬でも飲んでおくか。
俺は緑の瓶から錠剤を手のひらに乗せ、口に含み、水で流し込んだ。
二階・・・おもちゃ売り場と近くに紳士服売り場が見える。棚が倒れ、ごちゃごちゃと
物が散乱している。服自体は大量に見つかったが、どれも臭いがひどい。何かの
液体がかけられているのか、シャツやジャケットに赤黒い塊のようなものが見える。
あの男の仕業か? 理由があるとも思えないが・・・
この服はやめておいた方がいいな。
俺はさらに奥へと足を進める。
奥には個人のブースだろうか。ここにも服が置いてあるようだ。
・・・ここの服は使えそうだ。とりあえずこの赤のパーカーと黒のジャンバー
をもらっていこう。靴もくたびれているから、新しいものがあればいいが、
残ってる物では、サイズが合いそうにない。
これで寒さは凌げるだろう。後は食べ物か、これからのサバイバルに役立つ物でも
見つけられれば、車に戻ってここを離れよう。俺は非常階段を戻り、一階の食料品売り場へ
進んだ。
一階、ここは食品売り場のようだ。生鮮食品などを冷やしておく冷蔵棚が並んでいる。
ただ、今はなにも置かれていないが。俺はゆっくり棚を見ながらフロアを歩いた。
しかしなにも置かれていない棚がここまで並んでいると、少し寂しく感じるな。
何もないか・・・だが、お菓子売り場に、ひとつの包み紙を見つけた。
手の平サイズのお菓子だ。「黒い雷」と名打たれたこのお菓子。
俺は袋を開け、一口かじった。
ココアの甘さが口に広がる。以前に食べたチョコバーとはまた違う、
甘さは控えめだが、しっかりと意識することができる。
くどさが無く、ザクザクとしっかり噛み砕くクランチの食感が良い。
それに食べ切りやすいサイズ。このくらいがいいな。
陳列棚を見ると他にも種類があるようだ(現物はないが・・・)
ピンクな・・・とか。ゴールド。三世? なんてものもあるのか?
白いって商品名のものもあるのか!? 白なのか黒なのか
これもぅわかんねぇな? しかしダークマターというのは
食べてみたかったな・・・そそられる名前をしている。
他に・・酒か何かあればと思って探索するも、無駄なようだ。他には何も残っては
いない。諦めて車に戻るか。
カッ・・・
・・・まただ。また何かの音がした。今度はハッキリと近くだと認識できるくらいに
大きな音だ。いる・・・何がいる? ゾンビか。いや・・ゾンビがあんなハッキリ
動くだろうか? 可能性がなくはないが・・・
ここは無駄な戦闘は避けたい。俺は姿勢を低く、慎重に歩きながらも、急いで
この場所を離れた。
車に戻る際、フードコートに目が向いた。吊るされた男・・・
・・・・・いないッ!? いなくなっているッ!!
吊るしたはずなのに、そこにはあの不気味なツギハギのマスクだけが、ぶら下がっていた。
そして地面には、まだ新しい血液が残っている。転々とその血は、今から向かう
外へと続いている。
・・・・勘弁してくれ。
俺は駐車場に出て、他の車の残骸に身を隠しながら進んだ。今のところそれらしい
人影はない。今なら安全に車でここを離れることができそうだ。俺は車の傍まで行き
運転席のドアを開けた。
「・・・・・・あの・・・・・」
俺は咄嗟に銃を構え、引き金に指を掛ける!!
声を掛けてきたのは女性だった。およそ十六~二十くらいの女性だ。
俺は思わず
銃を下げた。
「え・・・えっと・・・・・その・・・・」
言葉が見つからなかった・・・女性は困っているようだったし、それに
なんというか・・・すごく・・・・・・・・・可愛かった。
そんな女性が声を掛けてきた。偶然だろうか? たまたまこの場所に居合わせた?
そんな出来すぎた話はあるはずがない。どう考えたって怪しい・・・
本来ならば警戒しなくてはいけないのだが・・・上手く頭が働かない
なんにしても、悪い人には見えない。俺は女性に尋ねた。
「どうしたんですか? こんな・・・」
女性は俯き、しばらくその状態が続いた・・・
「ごめんなさい・・・突然、その・・声をかけてしまって・・・
ですけど状況がわからなくて・・・あの・・・この車、あなたの車ですか?」
俺は頷き、反対の助手席の方のロックを開けた。
「えっと・・・困ってるんだよね? もしよかったら・・その・・・」
俺はそれ以上の声はかけなかった。だが女の子は察したのか、一回頷いて、助手席に乗り込んだ。
俺はエンジンを掛け、アクセルを踏み込んむ。
車は勢いよくこの場所を離れ、みるみる先ほどのデパートが小さく闇に消えた。
どのくらい走っただろうか・・・?
しばらく俺と女性は無言の状態だった。
なんとも言えない空間がそこにはあった。
こんな状態で居合わせて、怪しいとは思うのだが、
それ以上に・・・
なんというか・・・この子は・・・その・・・・・
可愛かった・・・・
甘い考えなのはわかっているんだが
仲良くなりたいかなって・・・・・
直感的にそう思っていた・・・。




