第二十四話
目の前にはグロテスクな見た目の物体。横にはこの目の前の物を料理だと言い張る
変態男・・・絶望だ。
これを口に運ぶ事は考えられない。口に含んだ時点で何かの病気でももらってしまうかも
しれない。なんとかしなくては・・・この場をなんとか凌がなくては・・・!
横では、男が料理をよそった大きなお玉を持ち、こちらを凝視している。
まずはこいつの注意を逸らす必要がある。その上で、この椅子の背もたれにくくりつけられた
ナプキンを外さなくては、体勢を変えることさえ難しい。
俺は右手に銃を握り、膝上に準備して、もう一度声を掛ける。
「あ~・・と、他の人にも料理をよそった方がいいんじゃないっすかね?」
男は口角を上げ、不気味な笑顔を見せる。
「ウンッ!!あと 後だよ!! まず、君が一口タベルのを見たいんンだぁ!」
なるほど・・・どうあっても俺に、このえげつない物体を食わせたいわけだな。
・・・勘弁してくれ。
俺がマゴついているのが、煩わしくなってきたのか、男の
表情がだんだんと険しくなっていく。まずいな・・・・とりあえず食べる雰囲気だけでも
見せておくか。俺は目の前に置かれた、フォーク?のようなものを左手に取る。
俺にはどう見てもフォークではなく、車か何かの部品の一部に見えるんだが・・・
俺はこの部品のようなもので、目の前の物を突き刺してみた。
グニャリとした感触、溢れ出る灰色の汁、そして突いた瞬間匂う、腐敗臭! うげっ・・・まるで
さっきの缶詰のような匂いだ!! (まぁそれよりいくらかマシだが)
俺が料理を口に運ぼうとする仕草に、徐々に興奮してきているようだ。
男は俺の口元を見ながら、鼻息荒く、顔を近づけてくる!! 生暖かい息が顔に掛かる。
だがチャンスだ! ここまで引きつけることが出来た! ここが限界だッ!
この距離なら、この体制からでも弾を喰らわせてやることができる!!
喰らえッッ!!!!!
ガゥンッ!! ガゥンッ!!!
近づいてきた男の額めがけ、俺は二発の弾丸を発射したッ!!
まただ・・・
また一瞬・・・時間の流れがゆっくりに感じる。男のツギハギマスクを貫通し、
額に小さな穴が開く。さらに二発目の弾丸が目の上辺りに着弾した!
男は吹き飛び、寸胴鍋をなぎ倒し、そして隣にあったテーブルに大の字になって倒れ込んだ!
はぁ~・・・・・
これで安心だ。俺は左手に持った物を投げ捨て、括り付けられたエプロンを外す為
手を掛けた。
「り・・・・・
りょう・・
りょ・・うり・・・・おでの・・・・オデノ・・・・・・
オデノリョウゥリイイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイイイイイイイィィッ!!!」
何ッ!? ちょっとまてッ! 今、確実に額を打ち抜いたぞ! それで死なない人間が
いるわけないだろ! いい加減にしろッ!!
って、文句言ってる場合じゃないな! やばい早く外さないとッ!! 思ったよりも
しっかりと背もたれに固定されている!
奴はお玉を拾い上げ、俺に向かって振り下ろす!!
バキャアァンッ!!
間一髪ッ! 固定されていたナプキンを外し、俺は椅子から飛び退いた! お玉を
振り下ろされた椅子は無残に砕け散る!! なんて威力だ! まともに喰らったら
骨折だけじゃ済まないぞ。
しかし危険だな・・・銃弾を受けてもピンピンしてる。怪力も厄介だが、それ以上に
こいつの精神状態。これがやばい。自分が撃たれた事よりも、自分の作った料理まがいの
物をひっくり返してしまった事に怒っている。普通じゃない。まともじゃない!
今・・・
こいつから逃げても、追ってくるかもしれない。確信があるわけじゃないが、
こいつはこの場で倒さなくてはならない。・・・・そんな気がする。
この男との戦闘は避けられない!
生き残る為に、こいつを今、ここで殺さなければッ!!
落としてひっくり返した寸胴鍋を見ながら、男は唸っている。そして何やらブツブツと
言っている、唇が小刻みに揺れているのが分かる。
ここでこいつを殺る・・・さて、どうしたものか。銃が効くなら、今ので起き上がって
来ないはず。撃ち所が悪かったとは思えない。何か銃弾を防いだカラクリでもあるのだろうか?
考えてもわからない。もう一度、この弾丸を撃ち込むか・・・
男は俺を睨む。そして発狂とも取れる奇声を上げながら、俺めがけて、走ってきた!
しかし足が遅いな。これなら・・・
俺はしっかり狙いを定める。まずは一発目。狙いは胸元。相手の鳩尾よりやや左胸辺りだ。
引き金を引き、次の狙いを定める。次は足だ。左足、膝の皿よりやや上あたり。
二発目の引き金を引いた。一発目、二発目、共に着弾。胸元と膝上に小さな穴が
開いている。・・・・だが、怯む様子がない! 男は俺めがけ、お玉を振り下ろす!!
俺は飛び退き、後ろにあったテーブルが音を立てて砕ける! 椅子に縛り付けて
あったゾンビも一緒に巻き込んで男は転倒する。そして何事もなかったかのように
立ち上がる。どうやら効いていないらしいな。穴は空いていても、そこから流血は
していないことを考えると、下に何か着込んでいるのか? 何にしても銃弾は効果が
薄いって事はわかったぜ。なら別の方法を取るしかないな。俺は周囲を見回し使えそうな
物を探した。
・・・・ひとつの機材が目に留まる。
おそらくゾンビを吊るす時に使用したのだろう
・・・・・あれならいけそうか。けどその前に、
一瞬でも動かないでいてもらう必要があるな。
息を荒げ、男は尚もにじり寄ってくる。俺はゾンビのテーブルに盛られた料理の前に立つ
「正直、あんた料理の才能ないぜ。糞の方がまだマシだ」
俺はテーブルを蹴り、ひっくり返した。男の表情がさらに険しくなる。そしてさっきのように
腕を振り上げ、俺を目標に突っ込んでくる。そうだ・・来いッ!!
芸の無い男だ。俺は拳が振り下ろされる寸での所で、身をかわす。男は勢いでそのまま
イベントステージの中に転がり込む! 置いてあった配線やら照明、黒い袋も全て巻き込んで
倒れる。間髪入れず、俺はすぐにこいつの上に跨る。男は俺を押しのけようと背中に手を回す!
俺は胸倉をつかまれたが、首に巻く事ができた。男はそのまま片手で俺を持ち上げ、投げ飛ばす!!
ガショアアアアアアアンッッ!!
ステージにあった配線や機材に、俺は体を打ち付ける! 背中に痛みが走る。なんて力だ。
しかし投げ飛ばされたのは幸運だな。あれでさっきの黒い袋みたいにハグでもされてたら、
ひとたまりもなかっただろう。
投げ飛ばされダメージを負うだけの価値はあった
この「ワイヤー」を・・首に巻くことが出来たんだからな。
これなら・・・俺は上手く動いてくれる事を祈りながらウインチのスイッチを入れる。
ウイイイイイイイイィィィィィィィィィ・・・・
男の首に食い込み、体がゆっくり持ち上がる。男は苦しそうに手足をバタバタと動かし
藻掻いている。俺が男の首にくくりつけたワイヤーが首元を螺旋り上げ、首元から肉が
ブツブツと切れる音が響く! 口から泡を吹き、口の泡がだんだんと赤く染まっていく
どうだッ!? 吊るされたゾンビと同じ状態になるって気分はよぉッ!!
宙に吊るされ、男が足掻き、その大きな体が振り子のように揺れる。
俺はしばらくその光景を眺めていた・・・。
男の手足の動きが無くなり、だらりと力なく垂れる
・・・死んだ・・・だろうな。確信が持てないが・・
まぁ死んでいなくてもこの状態なら、何が出来るわけでもないか。
さて・・・椅子にくくり付けられているゾンビはそのままで良いとして、
ここに着るものと、使えそうな何かがあるか。
それと、いないとは思うが、この男の仲間がいないかどうかも・・・
探ってみるか。
ふと・・・ステージに違和感を感じた。黒い袋・・・二つあり、ひとつは
血まみれの状態のもの、そしてもうひとつ・・・中身が・・・ない!?
動いていたはずの袋の中身がなくなっている。中身はゾンビか?
それとも・・・なんにしてもあるはずの中身が消えている・・・・
はぁ~・・・・・・・・・・・・・
まだまだ緊張が続きそうだな・・・・・・・・・・・・・・・まったく・・・・。




