07. くまさんの帰還
くまさんはみぃちゃんの家を見つけることが出来ましたが、中に入れません。玄関前で人が来るのを待っているようですが…
「きゃあァァァァー!!」
悲鳴と共に目が覚めた。もう夜になっていた。
目を開けると、みぃちゃんのお母さんが尻もちをついていた。
「なんで…捨てたのに!あと何か綺麗になってるし!」
みぃちゃんのお母さんは顔面蒼白だ。
玄関のドアが開き、みぃちゃんが出てくる。
嬉しい。みぃちゃんだ。大きくなったな。昔は二つに結んでいた髪も伸ばして下ろしたんだね。制服を着ている。ガクセイってやつなのかな?
「何でくまさんがこんな所にいるの?」
みぃちゃんはただ困惑しているようだった。
嬉しい。みぃちゃん…みぃちゃん!
言葉にならない思いが溢れた。僕、動けるようになったんだよ。みぃちゃんに抱きつきたくなって、思いとどまる。
そうだ、ぬいぐるみは動かない。動いたら気味悪がられる。僕は一生懸命動かないように、でも自然にだらりとした。
「え?お母さん、何か言った?」
「えっ…いや!?何も!」
「家の中に入れてあげよう、可哀想だよ」
こうして僕はみぃちゃんの家に帰ってきた。
それにしても、みぃちゃんは僕のことが嫌いになったのではなさそうだ。ゲンの言っていたことが当たらなくて安心だ。
※※※
みぃちゃんの家は、よく見ると前と様子が違っていた。
暗い室内。物が散らばる床。紙やゴミが山積みの机。鳥さんが以前いた窓辺には、分厚いカーテンがかかっていて、光が差していなかった。
「…ふう」
みぃちゃんは室内を見渡し、暗い目をしてため息をついた。
電話が鳴る。ドタドタと足音を鳴らしてみぃちゃんのお母さんが電話を取った。
「…はあ?だいたいあなたが…」
初めは小さな声だったが、だんだんとみぃちゃんのお母さんの声が大きく、荒くなる。
みぃちゃんはソファーから立ち上がり、それを見たみぃちゃんのお母さんはキッと睨み付けた。
「みぃ?どこ行くの!?」
「部屋に戻るね」
みぃちゃんはリビングを出た。
廊下も真っ暗だった。壁際に物が集められていて、どうにか足場があるようだ。
「くまさんか…昔はよく遊んだなあ」
みぃちゃんの部屋で、みぃちゃんが寝転びながら僕を持ち上げる。
「あの頃はわたし、幸せだったな」
どうしたの?何かあった?大丈夫?
僕は声を出そうとする。聞きたいことがいっぱいだし、心配なことも増えた。
『付喪神と人間の感覚は、違うんだ。』
ゲンの言葉を思い出す。言葉を飲み込んだ。
「あーあ…くまさんも喋れたらなぁ」
ああ、みぃちゃん。
動けるようになっても、みぃちゃんにまた会えても、もどかしくて、辛い。
※※※
「行ってくるね、くまさん」
みぃちゃんが僕に笑いかけて部屋を出る。僕はみぃちゃんの勉強机の上だった。
行ってらっしゃい、みぃちゃん。
心のなかで送り出す。
心なしか、みぃちゃんの顔が少し明るくなったような。それが僕のお陰だったらいいな。そう思って、少し誇らしかった。
この時僕は、まさかこれが、みぃちゃんを見る最後になるとは、思ってもいなかった。
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