06. くまさんとたぬき
くまさんが帰った後、ゲンとコンはまだ話しているようです。
一方、くまさんは…?
現さまの手の手当てをする。
「くまさんは、また私に会いたいと、言ってくれました」
私は現さまに言った。現さまはくまさんを危険だとおっしゃったけれど、言いたかった。
「彼に、言わなかったのかい?…この神社は時空の狭間にあって、意図的に来ることは出来ないのだと」
「はい。…私も、また会いたいと思ったので」
「そうか」
わかってる。くまさんとは、もう二度と会えないかもしれない。それ位不思議な空間なのだから。
でも、そんな奇跡も起こるかもしれないから。敢えて、口には出さなかった。これは私なりの願掛けだ。
「でも、彼が神に縁があるのなら…また来れるかもしれないね。また、会えるといいね」
現さまは私の頭を撫でた。私は、くまさんを遠ざけたいと思っても、私の願いを尊重してくれる現さまが、少しだけ嬉しくて、こくりと小さく頷いた。
※※※
「コンに、また会えるかな」
何だかさっきまで自分があの神社にいたのが夢のようで、つぶやいた。もう周辺に、あの大きな鳥居は跡形もなかった。
「それは運次第だろう」
後ろから声がする。
「誰?」
振り返ると、ちょうど神社があったところあたりに小さな祠があった。中を覗いてみると、小さなお地蔵さんの形をした像が置いてある。すると、
「あー、そっちじゃない」
とまた声がした。
「じゃあどこ?」
「隣、隣」
祠の横にはたぬきの焼き物が三つ置いてあった。信楽焼だ、と思った。みぃちゃんの家のテレビで前に言っていた。
声がするのは一番前のたぬきで、首には紐で繋がれた小さな鈴がかけてある。
「たぬきさん?」
僕が目の前に行くと、
「違うよ」
とたぬきさんは目玉をぎょろりとさせて答えた。
「違うの?」
「昔はね」
「動けないの?」
「今はね」
一言ずつしか話さないので、あまり情報が入ってこない。不思議な感じだった。
「さっきは稲荷像の子に会ったよ。その子も付喪神だけど、動けてたの」
と僕が言うと、
「ふうん」
とだけ答えた。このたぬきさんはゲンが言ってた「念動力」がないのか。
「ねえたぬきさん」
「たぬきじゃないと言っただろ」
たぬきさんはムッとしたようだ。目がじとっとする。
「今はたぬきじゃん。なら何て呼べば良いのさ」
「…まあいいや。好きに呼べ」
変なの。たぬきなのにたぬきじゃないって言ったり、たぬきと呼ぶなと言ったりやっぱり良いと言ったり。
「あ、さっきの、『運次第』ってどういうこと?」
聞きたかったのはそれだ。いきなり話しかけてきて、何が言いたいんだろう。
「言葉のままさ」
たぬきさんは必要以上に語らなかったし、必要なことも話さなかった。
「じゃあ僕、行くね」
「ああ。困ったらここに来ると良いよ。おれはあの神社と違って、ずっとここに居るからね。話くらいは聞いてやる」
「うん」
※※※
僕はまた歩き出した。
今は不思議とみぃちゃんの家までの道がわかる。頭がすっきりして、みぃちゃんとの思い出がありありと思い出された。
ここはみぃちゃんがよく行っていた公園。ここはよくオマケしてくれるお豆腐屋さんで、こっちは安くておいしいお肉屋さん。そしてこの広場──みぃちゃんがよく遊んでいて、あの砂場がお気に入りなんだ。そこを抜けると、みぃちゃんの家だ。
どれも、みぃちゃんとみぃちゃんのお母さんで歩いた道。僕の大切な思い出のカケラだ。ゲンの神社でお風呂に入ってから、そんなことたちが思い出されてくる。
それにしても、「付喪神」っていうのは思ったよりも沢山いるんだな。鳥さんに、コンに、たぬきさん。
みんな、鳥さんの言うように誰かに愛されて生まれたんだろうか。
考えていると、みぃちゃんの家の玄関前についた。よいしょ、と段差をよじ登って、ドアの前に出る。
「おーい」
呼んでみても、返事はなかった。仕方がないから、ドアの前に座って誰かが来るのを待とう。
また眠気に襲われて、まぶたを閉じた。
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