05. くまさんは喧嘩別れをした
「もし良ければ…この神社に住まないか?」
ゲンからそう提案されたのは、次の日の朝のことだった。
「僕はみぃちゃんのところに戻るよ」
僕はきっぱり言った。僕はみぃちゃんにまた会いたい。
愛される、というのはよく分からない。鳥さんが言っていたときからずっと考えているんだけれど。
「…彼女は君を求めていないんじゃないか?」
ゲンが言う。そして僕を見つめ、眉間にしわを寄せた。僕はどんな顔をしていたんだろう。
「…根本的なことを教えてあげよう。付喪神は…『神』を名に冠しているが、実際のところは物怪の類だ。念動力を手に入れてしまえば、人に害を与えられる。君だってその子に危害を加えたくは無いのだろう?なら、そんなことに縛られずに、自由に生きれば良い。」
「『そんなこと』って何?僕にとっては大事なことだよ?僕は僕の自由に生きれるのなら、みぃちゃんに会いたいと思っちゃダメなの?僕はみぃちゃんに何かしようとは思っていないよ?」
ゲンの言葉に、だんだんと腹が立ってきた。僕のことを、まるで悪者みたいに言うなんて。
「…違うんだよ。世の理を外れたものたち…付喪神と人間の感覚は、違うんだ。干渉してはいけないんだ。どうしてそれが分からない…?」
「…」
ゲンは疲れたように目を閉じた。
「わかった」
ゲンは目を閉じたままそう言い、少し息を吐いた。そしてゲンが僕に手を伸ばし、頭に手を置こうとしたその瞬間──
バチバチッ
何か雷のようなものが見えた。あと、何かのマークも。
「…っ」
ゲンが手を押さえてうずくまる。
「ゲン?どうしたの?」
僕が寄ると、ゲンはものすごい形相をしてこちらを見た。
「…怖いよ?」
思わず後退りする。
「ああいや、何でもないよ…」
そう言ってゲンは笑顔を取り繕ってみせたが、焦りのようなものは消えていない。
「…じゃあもうここに用は無いだろう?…帰りなさい、自分の信じる家へ」
僕は少しはにかんで笑って、小さく頷いた。最後に一言、こう加えて。
「でも、僕はコンの友達だから…また来るね」
※※※
「くまさん、帰るんですね」
コンはしゃがんで僕と目線を合わせてくれた。
「うん、でもまた来るね!」
コンが寂しそうな顔をしたので、前へ一歩出る。コンの手に僕のふわふわになった手をのせた。
「…はい」
コンはやっぱり寂しそうだった。
「ゲンにもう一度、ちゃんとお礼言いたかったのに。具合、大丈夫かな」
「私から伝えておくね」
コンは少し困った顔をした。
あれからゲンは自分の部屋に戻ると言っていなくなり、僕の前には出てこなかった。手を押さえていて、顔が辛そうだった。
「じゃあね!」
「うん、気をつけて。また『みぃちゃん』と遊べるといいね!」
コンが手を振る。手を振り返して、赤い大きな鳥居をくぐった。
チリン
また鈴の音が聞こえた気がしたけれど、振り返ったら霧が晴れていて、不思議と神社の姿は無かった。
「…あれ?」
コンに、また会えるといいな。
※※※
「…現さま、大丈夫ですか」
くまさんが去った後、現さまの自室に伺う。
「…コンには悪いが…くまさんを消そうとしたんだ」
ハッと息を飲む。そんな。
「でも、くまさんは帰って行きましたよ」
私は慌てて言った。でも、現さまは思いとどまって下さったんだ。くまさんは無事だったのだから。
「…その結果がこれさ」
現さまが着物の裾から手を出された。右手の先が黒くなっている。
「なっ…どうしたのです!?」
「彼に神術をかけようとしたんだ…苦しまずに逝けるように。その途端弾かれ…何なら威力も上がっていた。防御装置のようなものが働いたのかな?」
防御装置?何で、そんなものがくまさんに…。くまさんが無事なのは嬉しいけれど、何故?
「そして弾かれた瞬間、大きな圧を受けた──それも古の神の、だ。あれは、何かの加護を受けているね」
あのくまさんに、加護?あんなに腑抜けた顔をしていたのに?
「でも元の持ち主は人間だと言っていたから…その家に何か居たのかな?そして加護を受けたのなら、念動力を得たのにも納得だ」
そう現さまはぶつぶつと言っている。
「ならば現さま、くまさんには、手を出さないで頂けますでしょうか」
私は思い切って現さまに申し出た。くまさんには、消されて欲しくない。せっかく初めて出来た友人なのだから。
「言われずとも…あれは、私の手に負えるものでは無かった。そこらの神じゃあ格ってものが違う。たとえ偉大なる母様でも、だ。」
良かった、とホッとする。
それにしても、往さまにも手に負えないなんて。くまさんは一体、何に、誰に好かれたのだろう?
「でも、そんな加護があるなら…」
もっと何か、くまさんは出来るようになってしまうのでは無いだろうか。
「ああ、他の力も得るかもしれないね。そうなれば──」
息を飲む。ああ、その先に続く言葉はわかっている。
「彼は危険だ」
読んでいただきありがとうございます!
少しでも良いな、と思ってくださった方はぜひ感想やブクマ、評価で教えてください
励みになります!!




