04. くまさんはおやすみ
お風呂から上がってくまさんは何かゲンと話しているようです
「言っていなかったが、ここは神社の離れなんだよ」
お風呂から上がって、さっきの部屋でくつろいでいるとゲンが言った。
「コンに聞いたよ。こんなに広いのにね」
僕はそう言って部屋を見渡す。この部屋だけで、みぃちゃんの家のリビングより広い。
「…ゲンにはお母さんがいるの?」
「それもコンに聞いたのかい?」
ゲンは少し笑って、僕の頭に手をのせた。今の笑顔は、嬉しいって意味ではないことも、うわべだけではないことも、僕にはわかった。さっき「大きいね」と言ったとき、素っ気なかったわけも、何となくだけどわかった。
「母はね、少し厳しい人なんだ」
「…へえ」
僕には母という存在がないから、それがどういうものなのかわからない。
みぃちゃんが怒られているのを見ると、いなくて良かったと思うような、みぃちゃんが甘えているのを見ると羨ましく思うような。
「母は…滅多にこの離れには立ち寄らないんだ。…付喪神が嫌いなのさ」
付喪神…コンのことだ。
「コン、いいひとなのに」
僕はポツリとつぶやく。
「うん。それは私だってよく知っているさ。でも付喪神には悪い思い出があるみたいなんだ。」
「ふうん」
神さまにも色々な人がいるんだな。でもゲンは比較的、人の感覚に近いんじゃないかな、と僕は思う。
「だから、母は付喪神を見かけると問答無用で消しちゃうから、気を付けてね。まあ会わないとは思うけど…」
こわっ。見つかったのがゲンで良かった。だってゲンなら、僕をお風呂にまで入れてくれたんだもの。そんな人が近くにいるなんて、コンも大変なんだな。
「それにしても、お風呂、すごく気持ちが良かったよ」
僕がふわふわになった手を見せて言う。
「そうかい?なら良かった」
「新品みたいになったもん、ほら」
両手足をぱたぱたさせてみせる。気が付くと、結構乾いていた。
「ここの神社は時に縁があるからね…っておや」
僕は疲れて眠ってしまった。
※※※
「彼と仲良くなったようで何よりだ、紺」
くまさんを抱えた現さまがとなりの部屋にいた私に声をかける。
「彼は眠ったよ」
「隣の部屋に布団を引いておきました」
偉いね、と現さまが私の頭を撫でて下さった。
「付喪神同士、仲間がいた方が良いだろ?」
現さまはくまさんを布団に寝かせた。
「はい、それもありますが…くまさんは良い子だと思いました。自分の意思もあるようですし」
もしかして、現さまがくまさんを連れてきたのは、私のためなんじゃないだろうか、と思う。私に友だちをあげるために。
「元の持ち主に未練は?」
「危険なほどではないかと」
話していると所々で『みぃちゃん』とやらの話が出てきて、悲しそうな顔をする。でも、彼はまだ野良になりたてでもあるから、仕方がないといえばそうだ。
「母さんが変に勘づいて来ないといいけど…」
現さまの懸念は最もだ。現さまのお母君──往さまは、付喪神が嫌いなのだ。
前に付喪神が往さまの住居に迷い込んでしまった時には──消されてしまった。
私のことも忌み嫌っているはず、というかあの目は特に私を──なのに私が生き残っているのは、現さまのお陰だろう。
というわけで往さまは私を手放さない現さまもろともこの離れに閉じ込めて、離れにはよっぽどのことがあったとしても訪れないのだ。
「現さま、くまさんにあの話は?」
思い切って現さまに尋ねる。
「してないよ?寝ちゃったし」
現さまはそうけろっと仰るとのっぺりとした笑顔になった。
「…現さま、やはりここは危険です。くまさんは帰しましょう」
「でも、彼はここにいた方が元の持ち主を…人を傷つけずに済むかもしれないよ」
「それは…傲慢なのではないでしょうか」
ピシッ
一気に空気が重くなり、死を覚悟した。
しまった。口が過ぎた。
「もっ…申し訳ございません!」
急いで正座になり、礼をする。
「…」
沈黙が流れ、しばらくして現さまはしゃがんで私に目線を合わせて下さった。
「…話は明日してみるさ。ふふ、紺も私を心配してくれたんだろう?すまないね」
良かった。お許しをもらえたようだ。
こんなことでは心臓が持たない。くまさんも、こんなところからは早く出た方が良い。
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