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10.  くまさんと学校

 みぃちゃんについて学校に来たくまさん。くまさんは果たして未来を覆せるのか…?


 みぃちゃんの後を、距離を取りつつ開きすぎないようにしながら着いていく。みぃちゃんは靴を履き替えてから階段を上った。


「はあ…」


 みぃちゃんがため息をついた。心なしか、家よりも暗い顔をしているような気がする。


「おはよう、ライカ」


 みぃちゃんがすれ違った女の子に声をかけた。


「…」


 え?無視した?女の子は返事をしなかった。ひどい。


 みぃちゃんは悲しそうな顔をした。


 ガラガラと扉を引いてみぃちゃんは教室に入っていく。


 僕も着いてはいると、嫌な視線を感じた。荷物の陰に隠れながら視線の主を探すと、くっつけられた二つの机の横に二人の女子が嫌な感じにニヤニヤしていた。


「あー、来た来た。今日も懲りないよねェ」

「ホントそれな。はやく居なくなればいいのに」


 そう言うと、ギャハハ、と彼女たちは笑った。


 む。みぃちゃんになんてこと言うんだ。このっ。僕が自由に人前に出れるなら、やり返すのに。


 みぃちゃんが席に座る。不運なことに、さっきの二人の斜め前の席だった。


「ねー何か臭くね?」

「今入って来たやつが臭いんじゃなーい?」


 嫌なやつらだ。周りの人も止めればいいのに、みぃちゃんを申し訳なさそうにチラチラ見ては目をそらしている。さっきのみぃちゃんが声をかけていた子と同じだ。


「…っみぃちゃんに…」


 我慢ならずに出て行こうとした時だった。


「ちょっちょまっ」


 僕は誰かに掴まれた。むぐー!と抵抗するが、さすがに力では負ける。


 見上げると、さっき校門でみぃちゃんに話しかけていた男の子だった。


 その子に掴まれて僕は校舎裏に連れて来られた。校舎裏は陰になっていて、だれもいなかった。


 男の子が僕を石段の上に置く。


「えーっと…その…あ、俺、畑沢海斗(はたざわかいと)です。」


 そしてそろりと頭を下げた。僕は今更ながら動かないふりをした。


「えっと、俺の目がおかしくなければ…君はぬいぐるみなのに動いてたよね?」


 だんまりを決め込む。そうそう、君が見たのは見間違いだよー。


 じーっと見つめられる。


「焼いちゃおうかな…」


 ボソッとカイトくんがつぶやいた。そしてポケットからライターを取り出した。ひえー。怖い。


 こりゃ…バッチリ動くのを見られたな。観念して楽な格好になった。


「そうだよ」


「うわっ」


 カイトくんは後ろにのけぞった。


「僕、くまさん」


「お、おう。よろしくな」


「うん。」


 しばらく見つめ合う。


「ねえ」


 僕から声をかける。


「おう」


「カイトくんは、みぃちゃんの味方?」


「は?」


「みぃちゃん、教室でひとりぼっちだったの」


 カイトくんはしばらく考え込む。


「みぃちゃんて…明月(あかつき)のことか?」


「そうだよ」


 僕はもじもじしながらうなずく。


「じゃあ、そうだよ」


「本当?」


 カイトくんはにっこり笑った。


「俺、明月のこと…す、好きだからな」


 言ってからしばらくして、自分の言ったことの恥ずかしさに気がついたのか、カイトくんの顔は真っ赤になった。


「本当?」


「うん」


「お前、明月に着いて来ちゃったのか?」


「くまさんだよ」


「お、おう。それで、くまさんは、明月に着いて来たのか?」


「うん」


 カイトくんは僕をわしわし撫でながら話した。


「何で?」


 カイトくんは首を傾げた。


 その時僕に考えが浮かんだ。


「助けて欲しいの」


「は?なんて言った?」


「だから、助けて」


「は?」


 ぬいぐるみの僕には出来ることが少ない。人前で堂々と動けないし、身長も手足の長さも足りない。


 でも、もしほんとうにカイトくんがみぃちゃんの味方で、助けを借りることが出来たら。みぃちゃんが事故に遭うのを防げるかも。そもそも、その事故がどんなものかもわからないし。


「内容によるかな」


 カイトくんはよいしょと座り直した。


「僕ね、未来からきたの」


 僕は慎重に話し始めた。


「ほえー」


 カイトくんは信じていないようだった。


「信じてないでしょ。でも、みぃちゃんはね、今日中に事故に遭って死んじゃうの。」


「は?」


 カイトくんは怖い顔になった。


「冗談だったらたとえぬいぐるみでも聞き流せないぞ」


 またライターをちらつかせる。


「本当だから、困ってるの!」


 僕は声を荒げた。本当はこんなところで話している場合じゃない。


「…証拠は?」


「えっ」


「証拠。何かないの?それとも、でまかせなわけ?」


 カイトくんは険しい顔をしていた。


「…無いの?」


「あ、で、でもね、僕、神さまの友達だよ!しょ、証拠はないけど…」


「神さま?まじか…」


 カイトくんは笑った。くっくっく、こりゃ傑作だ、と。


「だからね、だからっていうのは、なんか変だけど…今日だけでいいから、助けてほしいの」


 僕は頭を下げた。必死だった。


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