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世界最強のヒキニート〜ただ、平穏にヒモ生活を送りたいだけなのに  作者: 夜空 叶ト


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第38話 ハイレス王国へ

「とりあえずは、行ってみるか!」


 エスカが瞬きをしたタイミングで一気に距離を詰める。

 魔法を使用していないただの身体能力で踏み込む。

 だが、やはりと言うべきか俺の想像したような速度は出ていない。


「レイス様、鈍りましたね」


「まあ、三年間もまともに鍛錬なんてしてなかったからな。鈍りもするだろ」


 槍と剣で競り合いながら近距離で俺たちは話す。

 今も全力で腕に力を入れてエスカを押し返そうとしているのだが、中々うまくいかない。

 それどころか、押し返されそうになっている。


「今回は勝てそうですね!」


「まだまだ、勝負はこれからだろうが」


 エスカの押し返そうとする力を利用して俺は後ろに飛びのく。

 昔に比べてかなり力が付いたな。

 前ならば、俺がこうして押し返されることなんて無かったのに。


「ははっ、相変わらずトリッキーな動きをしますね。魔法も使っていないのに」


「そりゃな。まともに戦っても勝ち目が薄いんだからトリッキーな事でもなんでもしないといけない」


「本当に昔と変わりませんね。あなたは」


「そうそう変わってたまるかよ。それよりもこれからは本気で行く」


 物理だけでの殴り合いはこの程度で十分だ。

 筋力や俊敏さだけなら現役の騎士に見劣りしないレベルだという事だけは理解できた。

 後は、魔法を交えた戦闘だけだ。


「わかりました。であれば、自分も本気でお相手をいたします」


「〈雷神よ・我が身を巡りて・舞え〉」


「懐かしい。ケラウノスですね。自分もあなたの魔法を再現しようとしたんですけど、ついぞそれが叶う事はありませんでした。ですので、全く別の手段を考えることにいたしました」


 魔法を発動し、全身に雷が降り注ぐ。

 先ほどよりも早い神速の速度で踏み込む。

 次は防がれないように、目にも止まらぬ速さで。

 自身の限界をほんの少し超すくらいの速度でエスカに切りかかる。


「はぁ!」


「ぐっ、流石に重いですね」


「止められるって思ってなかったんだけどな。一体どう言うからくりだ?」


「簡単ですよ。身体強化魔法を極限まで鍛え上げたんです。レイス様は雷魔法に関しては最強ですが、それ以外の魔法を使えないという弱点もあります。だから……」


「ちぃ」


 足元が一気にぬかるんで、力が入りにくくなる。

 これはかなり不味い。

 つばぜり合いに置いて足を取られるというのは致命的だ。

 こいつ、身体強化魔法だけじゃなくて他の魔法の使い方もかなりうまくなってやがる。

 しかも、無詠唱で。


「レイス様は無詠唱が出来ませんからね。自分のように戦闘中に使うのは中々困難でしょう?」


 エスカは俺の得意なことも逆に苦手なことも完全に理解している。

 だから、戦いにくい事この上ない。


「本当に強くなったな。昔とは見違えたよ。本当に」


 つばぜり合いをやめて槍を弾く。

 その一瞬のうちにぬかるんでいる地面に剣を突き刺す。

 途端にぬかるんでいた地面は通常の物へと戻る。


「……そう言う使い方もできるんですね」


「魔法で改変した事象なら打ち消し可能だ。そんで〈迅雷よ・彼の者を射抜け〉」


 がら空きになった腹部に攻撃魔法を放つ。

 勿論エスカなら躱すだろう。

 だから、変わす場所を予想して剣を振るう。


「……参りました」


 俺の剣はエスカの首筋を捉えており、後一センチでも動かせば傷が入ってしまう位置で止めていた。


「本当に危なかったぜ。これが無かったら余裕で俺の負けだった」


「敗北は敗北です。今回ばかりは勝てるかと思ったのですがね」


「マジで相変わらず殊勝な人間だな。そういう所は本当に好感が持てるけどな」


 エスカはうやうやしく頭を下げて、広間を後にした。

 この後はアルカやアリエルとの話し合いだろうな。

 今の俺と違ってエスカには明確な立場が存在している。

 出来れば、ハイレス王国が助力してくれる展開が望ましいがどうなる事やら。


 ◇


「アリエル様お久しぶりですね」


「久しぶりですね。エスカ。元気にしていましたか?」


「元気にしていましたよ。それでテラソルスの現状ですが。酷い有様でしたよ。王都は焼かれて民は奴隷にされていました。あの国を攻め落とすとなればそれ相応の戦力が必要になるでしょう」


「それはレイスを以てしてもですか?」


「はい。レイス様でも苦戦は避けられませんし、もちろんお一人ならあっけなく死んでしまうでしょう」


 エスカは淡々と語る。

 レイスの元部下でとても優秀な騎士だったエスカの見立てはあまり外れないでしょうね。

 それにそれは私も薄々勘づいていたことですし。


「なら、ハイレス王国が力を貸していただくことはできませんか?」


「それは私だけの判断では出来かねますね。ハイレス王国の国王陛下になら直接お繋ぎすることができますが」


「ぜ、是非ともお願いしたい!」


「なるほど。あなた様がテラソルス王国の第一王女殿下であらせられますか。お初にお目にかかります」


 エスカはうやうやしく頭を下げる。

 やはりと言うべきか彼の所作はすごく綺麗で洗練されている。


「これは申し遅れた。アルカ・テラソルスと言う」


「存じております。では、アルカ様は私と一緒に王都までお越しいただいてもよろしいでしょうか? 陛下とお繋ぎいたしますので」


「わかった。一人、私の騎士を連れて行きたいのだがいいだろうか?」


「大丈夫ですよ。出発は一時間後にいたしましょう」


「了解した」


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