第36話 焦るアルカ
「じゃあ、行くのだ!」
「よし、こい」
翌日、あまりにも暇で体を動かしたいというルルアの要望に応えて俺たちは隠れ家内にある広間で模擬戦をしていた。
ルルアの力は相変わらず強くて、彼女の攻撃をまともに受けてしまったらこっちが持っている木剣がへし折られてしまう。
「馬鹿力が過ぎるんじゃないのか?」
「レイスこそ、僕の攻撃をそんなに受け流すなんてすごいぞ!」
「いや、そろそろ限界だ」
ルルアの攻撃を受け流すのにはかなりの集中力を要する。
このままだと受け流すのをミスって俺が負ける。
模擬戦であっても負けるのは嫌なんでな。
「これでおしまいなのだ!」
ルルアがとどめの一撃とばかりに大ぶりに木の大剣を振るう。
まともに受けようものなら木剣ごとあばらを折られかねない。
「残念。大振りが過ぎるな」
ルルアが大ぶりにした大剣を受け流してそのままルルアに肉薄する。
手首を弱めに木剣で叩くと、彼女は短い悲鳴をあげて体験を落とす。
「ま、参ったのだ」
「やっぱりルルアは強いな。かなりヒヤヒヤしたぞ」
実際問題、下手に長引いたら俺が負けていた。
ルルアは戦術面や魔法が絡むとあまり強さを感じることはできないのに、こうした一対一の肉弾戦では無類の強さを誇るのが彼女だ。
「本当に強いですね。レイスを魔法無しとはいえ追い詰めるなんて」
「いや、魔法ありなら僕なんかレイスの足元にも及ばないぞ。つまり、戦場で活躍するためには魔法をちゃんと使えるようにならないといけないという事なのだ!」
「それはそうだな。それにルルアの水系統魔法は俺の雷魔法との相性が抜群に良い。ルルアは水をまいて俺が雷魔法を撃ちこめば一気に敵の感電を狙えるからな」
ルルアが即座に魔法を行使できるようになれば、俺の戦術の幅がかなり広まる。
是非とも、ルルアには魔法を体得してほしいものだ。
そうすれば、テラソルス王国奪還戦でやれることの幅が広がる。
「確かにそうですね。じゃあ、私は今のうちにルルアに魔法を教えるとしましょうかね」
「お願いするのだ!」
俺と模擬戦をしたばかりだというのに、ルルアはもうイリアと一緒に魔法の練習を始めてしまった。
こうなってしまったら俺は手持ち無沙汰だ。
俺が魔法を教えれればいいんだけど、雷魔法以外使えない俺に教えられることは少ない。
「どうしたもんかね」
「レイスはアリエル様や姫様と一緒にハイレス王国にどうやって協力を取り付けるか話し合ってきたらどうですか?」
「それもそうだな。ここにいてもできることなんかなさそうだし」
イリアの提案に乗って広間を後にする。
今、二人はアリエルの部屋で話しているはずだからそこに向かおう。
「にしても、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったな」
三年前に主君を失って、生きる意味を見失いながら無為に三年間を過ごして来た。
そして、アリエルが生きてることを知って俺は再び自分の意志で戦場に立とうとしている。
全く生きていれば何が起るかわからないものだ。
「アリエル、アルカ今大丈夫か?」
「ん? 入っていいですよ」
「じゃ、失礼して」
一応扉をノックして入って大丈夫かを確認する。
すぐにアリエルから入室の許可が出たので扉を開けて部屋に入る。
「何かありましたか?」
「いや、手持ち無沙汰になったから来ただけだ。それよりも、交渉はうまくいきそうか?」
「微妙ですね。私たちが差し出せるカードが全くないので」
「レイスも何かいい案はないか?」
アルカに助けを求められるような視線を向けられる。
しかし、いい案なんて浮かぶはずもない。
俺はハイレス王国については全く知らないんだ。
エスカに聞いたほうがいい回答が帰ってくると思う。
「ないな。エスカが来たら聞いてみても良いかもな。あの国の騎士なら多少は内情も知っているだろうし」
「ですね。現状私たちが交渉材料にできる物が皆無なので」
「どうしたらいいんだ。クソッ」
アルカは焦ったように机をグーで叩く。
どうやら相当に焦っているらしい。
気持ちはわからないでもないが、ここで焦って何かいい方法が思いつくわけでもない。
それに、怒りは思考を鈍らせる。
「落ち着けよ。今焦ってもできることは無い。落ち着いて考えるんだ。そうしたらいい案が思い浮かぶかもしれないだろ」
「……そうだな。すまない。取り乱した」
「お気になさらないでください。そうだ! お茶でもいかがですか?」
「じゃあ、もらおうかな。アルカはどうする?」
「では、おねがいします」
「はい。少し待っててくださいね」
アリエルは立ち上がって部屋から出て行く。
その間際に俺にウインクをしてきたから、今のうちにアルカを何とかしろと言う事だろう。
相変わらず人使いが荒い。
「落ち着けよってのは無理かもしれないけどな。焦っても本当に良い事はないぜ?」
「わかってはいるんだ。でも、今にも民草が殺されたり、虐げられたりしてるんじゃないかと思うとな」
「だが、ここでお前が焦っても死にゆく民草は救えない。お前が今できることは焦って時間を無駄にする事なのか?」
時間を無駄にしてきた俺が言うのもどうかと思うけどな。
「いや、そうだな。レイスの言う通りだ。ありがとう」
「別に、このくらい礼を言われるほどの事じゃない。ま、せいぜい頑張ろう。俺とアリエルの平穏なヒキニート生活のためにな」
「そこはテラソルス王国のためと言って欲しいけどな」
アルカは苦笑いをしながらそう返して来た。
どうやら多少余裕が戻ったらしい。
にしても、エスカが戻ってくるまで本当にどうしたもんかな。




