第26話 主君を失った騎士の助言
「ああするしかなかったからですよ。姫様と国を守るには」
「嘘だな。あんなことをしても国も守れなければアルカを守ることだってできない。俺にはお前が何をしたかったのか理解ができないんだ」
あの状況の最適解は何とかして生きて逃げることだ。
あの状況で戦い続けても何の意味もない。
犬死するだけ。
何にイリアはあそこでの応戦を選んだ。
その理由は一体何なのだろうか。
「どうだっていいじゃないですか!」
「良くないからこうして聞いてるんだけどな」
「言いたくありません。どうしても聞き出すというのなら私は力づくで抵抗します」
イリアは腰に佩いていた剣を抜いてその切っ先を俺に向けてきた。
どうやら、本気らしい。
「そうか。じゃあ、俺も力づくで聞き出すしかないみたいだな」
俺も愛剣を引き抜いて応戦する。
俺達の間に一瞬の緊張感が走る。
先に動いたのはイリアだった。
「はあ!」
剣を上段から振り下ろしてく。
速度はそれほど早くはない。
避けるのはたやすいだろうが、イリアがこんなに単純な攻撃をしてくるとは思えない。
「あぶねっ」
咄嗟に横に避けたらイリアの剣からは風の斬撃が飛んでいた。
剣を振るった軌道上に立っていたら俺はあの風の斬撃に切り裂かれていただろう。
「魔法まで使うってことはガチってことね」
「冗談であなたに剣なんて向けません!」
「確かにお前は強いよ。でも、まっすぐすぎる」
それは彼女の美徳でもあるのかもしれないけど、戦場ではこの真っすぐさは危うい。
戦場に置いて正々堂々なんてものは存在しない。
それだけ卑怯な手を使ったとしても勝てばいいのだから。
「そらよっ」
「ひゃ!?」
地面の砂をひと掴みしてイリアの顔目掛けて投げつける。
砂が目に入ったのかイリアは一瞬怯んで目を瞑る。
その隙を見逃してやるほど俺は優しくはなかった。
「せい!」
左足を軸に彼女の腹部目掛けて回し蹴りを繰り出す。
目を瞑っている彼女は避けることも、防ぐこともできずに彼女はボールのように吹っ飛んでいく。
「かはっ」
地面に倒れ伏すイリアに俺は追撃を行う。
もちろん剣は使わない。
この状況で使ってしまえば、殺してしまいかねないからだ。
「〈雷鳴よ・一閃となりて・敵を穿て〉」
雷属性の初級魔法〈ショックダウン〉
稲妻を対象に飛ばして当たった相手の体の自由を一定時間奪う初級魔法の中でも汎用性の高い魔法だ。
「くっ、魔法を使うなんて卑怯ですよ!?」
「どの口が言ってやがる。最初に魔法を使ったのはお前の方だろうが」
地面に倒れ伏しながら抗議してくるイリアを軽くいなして近くにしゃがみこむ。
魔法の効果はしっかり効いているようでイリアの体の自由をほぼ完全に奪う事に成功していた。
「さて、じゃあどうしてあんな無謀な真似をしたのか。教えてもらってもいいか?」
「絶対に言わないとダメですか?」
「当たり前だ」
どうしてあんな行動に走ったのか。
知っておかないと、またあんな無茶をされたら困る。
これから二人がどのように生きていくのかはわからないけど、どちらにせよ自ら死を選ぶような行動はもう二度として欲しくないのだ。
「……わかりました。話します」
どうやら観念したのか諦めたように息をついてイリアはぽつりと話し始める。
「怖かったんです。目の前で殿下を失うのが」
「だから、アルカだけ生かして逃がした後に自分は死のうとしたのか?」
「……その通りです」
どうやらイリアは主君を失う恐怖に耐えられなかったらしい。
どう考えてもバカな行動だが、その気持ちはわからなくもなかった。
俺は一度主君を失っている身だ。
だから、その恐怖に関しては誰よりもわかっているつもりだ。
それを踏まえてだが……
「お前は本当にバカだよイリア」
「ば、バカですって!?」
「ああ。ま、そう言う話は主従でするべきだよな?」
俺は草むらの方に視線を向けてそう語りかける。
そこから現れたのは深紅の髪を靡かせた美少女、アルカと綺麗な水色の髪をした美少女のルルアだった。
「本当の事なのか……イリア」
アルカは信じられないといった様子でイリアに歩み寄っていた。
「ま、俺は先に戻ってる。二人でちゃんと話し合うんだな。あと、イリア。これは俺からの助言だ」
「……なんでしょうか」
「こうやって主君と話せるのは互いに生きている時だけだ。変に隠し事とかしないでちゃんと真剣に話し合う事をお勧めする。それじゃな」
俺はもう主君と言葉を交わすことは叶わない。
だけど、イリアは違う。
であるならば、しっかりと話しておくべきだろう。
俺はそう思う。
「レイス、イリアと喧嘩してた?」
「喧嘩……ではないけどな。まあ、少し意見のすれ違いがあってな」
「ふ~ん、にしてはレイス凄く嬉しそう」
「そうか?」
「そうだよ。にへへ」
ルルアは俺の顔を覗き込みながら笑みを向けてくれる。
その太陽のような笑みに俺は心を現れたような気分になり思わずルルアの頭を撫でていた。
「そうかもな。ま、二人が戻ってくるまで俺たちはゆっくりしておくか」
「賛成なのだ! そういえば、アルカは背中を貸してもらってたから僕は膝を貸してほしいのだ」
「別にいいぞ。ほら」
焚火の近くまで戻って地面に座り胡坐を組む。
そんな俺の膝の上にルルアは頭をのせて気持ちがよさそうに目を瞑っていた。
それから二人が戻ってくるのに約三十分の時間を要した。




