第18話 田舎に行くのもいいかもな
「えっと、イリアさん? いったんその振り上げたこぶしを降ろしませんか?」
「そ、そうだぞイリア! 暴力は良くない良くない。レイスが可哀そうじゃないか」
「そ、そうだそうだ! 暴力反対!」
「黙れ!」
何故か三人とも同じようなことを言ったのに俺だけ殴られた。
理不尽すぎてありえない。
確かに俺は人権のないヒキニートだけど、こんな風にすぐに殴られてもいいのだろうか。
「痛てぇ!? おま、グーで殴ることないだろ!? しかもまだ言い訳すらしてねぇんだぞ?」
「言い訳をする気満々じゃないですか。はぁ、とりあえず屋敷に入りましょうか。三人とも話はそれからお聞きしますので」
「わ、わかった! な、ルルア」
「あ、ああ! もちろんだ! 早く屋敷に行こう!」
イリアの圧に完全にビビったアルカとルルアはそそくさと屋敷の中に入って行った。
勿論ではあるが、俺のことは全く気にした様子は無かった。
あまりにも酷い。酷すぎる。
俺のせいじゃないのに……
「あなたも屋敷に行きますよ。レイス」
「ああ。分かったからもう殴るのはやめてくれ」
「もう殴りませんよ。それよりも、どうせ姫様がレイス達と街に出たいとか言ったのでしょう? 護衛ありがとうございます」
「……わかってたならなんで殴ったんだよ」
「気分ですかね」
気分で人を殴らないで欲しい物である。
かなり全力で殴ってきたからこれは明日にはこぶになってるかも。
後で治してくれないかな。
「気分で人の頭を全力で殴ってくるなよな。俺がこれ以上バカになったらどうするんだよ」
「その心配はないでしょう。あなたはこれ以上落ちようがない程バカなんですから」
「笑いながら酷いこと言うな! それより早く屋敷の中に行こうぜ」
「それもそうですね。いつまでもここで話していてもなんですし」
理不尽に殴られた気はするけど、それはいつもの事だから気にしないでいいだろう。いや、こんな理不尽がいつも起こっていることに疑問を抱くべきではないのだろうか?
「そういや、今日の諮問委員会はどうだったんだ? 諮問内容はある程度想像がつくけど」
「レイスの想像している通りあなたの話でしたよ。しっかりあなたを再び戦場に戻すのはやめておいてくださいと震源はしておきましたが、おそらくは無意味でしょう」
「はぁ、面倒なことになりそうだな」
戦争の次は国の中のごたごたに巻き込まれるなんて本当に避けたい。というか、絶対に回避して見せる。
俺は平穏な暮らしをしたいだけなんだ。プラスして働きたくない。
そんな些細な願いさえ叶わないというのか。
「ご愁傷様ですねレイス。まあ、頑張ってください」
「マジで面倒だな。畜生。はぁ、こうなったら滅ぼしてしまおうか。こんな国」
「おい、仮にもその国の公爵を目の前にして滅ぼすとか言うな。あなたの首を撥ねたくはないのですよ。私は」
頭を押さえながらイリアはため息をつく。いつもいつも気苦労をかけて申し訳ないとは思っているけど、俺の現状を考えるとこういう文句だって言いたくなる。
まったく。
「それは本当に申し訳ない。っと、早く屋敷に入ろう。あまり二人を待たせると何を言われるかわからない。というか、絶対に文句を言われるのは俺だろ」
「……頑張ってくださいね」
「おい、目を逸らすなよ」
絶対に文句を言われる奴だこれ。
本当に最近の俺はついてないな。何かいいことがあればいいんだが。
「イリア、レイス遅かったな。二人で何か話をしていたのか?」
「まあな。それよりも文句とか言わないんだな。結構遅くなったのに」
「まあ、見捨てるような形になってしまったからな。少しだけ申し訳ないんだよ」
「うん、レイス大丈夫だった?」
「別にそこまで怒られたとかじゃないけどな。気にすんなって」
心配そうに見つめてくるルルアの頭をポンポンと撫でてやる。最初に見たころはもっとボサボサで汚い見た目をしていたけど、今では清潔で綺麗な見た目をしている。撫でている髪はサラサラでずっと撫でていたくなるほどだ。
「ならいいんだけど」
「それよりもイリア。今日の諮問委員会はどうだった? まずはその報告を聞きたいんだが」
「はっ、畏まりました。姫様」
先ほど俺が投げかけた質問と同じものをアルカがイリアに投げかける。答えは知っているけど確認の意味を込めてもう一度しっかり聞いておくことにしよう。
「なあ、レイス諮問委員会ってなんだ?」
「ん~簡単に言うとある問題について知っている人間に何があったか聞く会みたいなもんだ。要は前の戦場で何があったのかをイリアは聞かれてたわけだな」
「へぇ~騎士って色々面倒そうだな」
「だよな。俺もそう思う」
元々騎士だった俺でも思う。騎士なんて面倒なだけでいい事なんてありゃしない。だからこそ俺は思うのだ。《《騎士なんて二度とゴメンだ》》って。
「結論から申しますと、今すぐにレイスを軍部に差し出すという展開にはなりませんでした。ですが、いずれレイスを兵士にするべく何らかの手を打ってくることでしょう」
「不味いな。それは避けたい。軍部の連中がレイスをどう使うかなんて想像できるからな。どうせ、ろくなことにはならない」
「ですね。とりあえずはレイスを軍人にしないために手を回す必要がありそうですね」
何やらアルカとイリアは二人で何かを真剣に話始めてしまった。
あの二人は放っておくとして、俺もこれからの身の振り方を考えないといけないな。このままじゃ、いつか無理やり軍人にされて戦地に投入されそうだ。そんな事絶対に嫌だもんね!
「なあルルア」
「どうしたんだ? レイス」
「今度二人で山奥とかに家を建てて暮らさないか? ここよりは不便になるかもしれないけど穏やかな生活は遅れると思うんだ」
「それも良いかもしれないな! 僕はレイスとならどこだって行くぞ!」
「そうか」
何の曇りもない瞳で俺のことを見つめてくるルルアを撫でながら真剣に身の振り方を考えるのだった。
◇
「……眠れないな」
なんだか寝つきが悪かったからベッドから降りて普段着に着替える。そして、前にイリアからもらった適当な剣を腰に佩いて屋敷の庭に出る。
空を見上げてみればそこには悠々と空に輝く綺麗な月が浮かんでいた。あまりにも綺麗で見つめていると飲み込まれそうな月。
「ハハ、綺麗な月だな」
「こんな夜更けに何をしているのですか?」




