第19話 世界最強の敗北
「イリアか。イリアの方こそこんな夜更けにどうしたんだよ。お前、寝付きは良いほうだっただろ?」
「いやなに、少し目が覚めてしまってな。外の空気を吸いに来たら先客がいたんですよ」
「そういう事か。にしては寝間着とかは無いんだな」
「少しゆっくりしようと思ってましたから。流石に寝間着姿でいるには冷えてしまいますので」
にへっと笑いながらイリアは俺の隣に腰を掛ける。
この庭はかなり広くて腰かけられるベンチが数多く存在している。
俺たちはそのベンチの一つに肩を寄せ合って座っていた。
「なるほどな。でも、どうしてイリアはそんなに臨戦態勢なんだ?」
イリアがこの庭に来てからずっと気になっていた。
何故だか、彼女はずっと殺気立っている。
俺の隣にいる時ですら、一ミリも気を抜かずに何かを警戒しているようなそんな感じだ。
「……やっぱりあなたはこういう気配には敏感なんですね。そこは昔から全く変わっていないのですね」
「まあな。これでも、幼少期から何度も戦場に経っているからな。三年経ってもそう簡単に鈍るようなもんじゃない。癖みたいなもんだ」
子供のころから騎士としての教育を受けて、十歳を超えるころには初陣を済ませて以降も何度となく戦場に駆り出されたんだ。
三年くらいで感覚が鈍るわけがない。
「羨ましいですね。私はそこまで鋭敏な感覚は持ち合わせていないので」
「こんなの羨むようなもんじゃない。それよりも、ワケを聞いてるんだ。一体どうした?」
イリアがわけもなくここまで殺気立ってるのはおかしい。
きっと何らかの理由があるはず。
だが、思い当たる節がない。この屋敷に刺客が送られているとかなら俺が気づかないわけがない。
「これからあなたは王国中の争いの火種になるかもしれません。ですから、争いが起こる前にその火種を積んでしまった方がいいのではと考えたのです」
「それで? まさか、本気で俺とやり合うつもりか?」
「どうでしょうか? でも、そうなってしまうかもしれませんね」
「はぁ、めんどくせぇことを言い始めるんだな。俺をずっと養うって話はどうなったんだよ」
「反故にするつもりは無かったんですけど。私はあくまで姫様優先なんです。あなたが姫様の害になる可能性があるのであれば私はあなたを排除しなければなりません」
イリアは本気みたいだ。
しかも、この至近距離だと俺の方が圧倒的に不利だ。
不味くね? これ。
正面戦闘ならまだしも、ここまで接近された上に俺はまだ魔法の詠唱もしていない。
「クソッ!?」
「ごめんなさい。レイス。こんな仕打ちをするつもりは無かったんですけど。こうなってしまいました」
手の甲にチクリと鋭い痛みが走る。
針で刺されたかのような痛みだが、戦闘するのに支障はない。
そう判断してその場から飛びのこうとしてとあることに気が付いた。
体が上手く動かない。それを自覚してから、視界もなんだかぼやけてきた。
「イリア……何をした」
「私はレイスを殺す気なんて無いんです。ただ、この国から逃げてください。これから、この国では内乱が起ります。あなたをその内乱に巻き込みたくありません」
「なにを……いって」
徐々に呂律も回らなくなってくる。神経毒か何かを撃ち込まれたのか。
イリア相手だからって油断してた。
「手筈は整えてある。後は、お前とルルアをここから逃がすだけだ」
「……」
言葉を発しようとして声が出ないことに気が付く。
本当に不味いなこりゃあ。
「さようならレイス。あなたの事、嫌いじゃなかったですよ」
その声を最後に俺の意識は深い暗闇の底に落ちていった。
◇
「ふぅ、これで良し。ルルア、レイスの事を頼みましたよ」
「うん、わかった。けど、イリアはこれからどうする? 内乱が起きるなら一緒に逃げないと」
「私は姫様を守らねばならないのです。それに、我々には立場があるので。それよりも早く行ってください」
「ん。イリア、死んだらだめだよ」
「約束はできかねますね」
ルルアにレイスを任して私は姫様の元に向かう。
姫様の命を狙う王国上層部の考えは全くわからない。
だけど、姫様を殺させるわけにはいかない。
絶対に。




