第14話 世界最強の過去
「さっきぶりだなレイス」
「アルカか。もう乗ってたんだな」
ルルアを馬車に乗せていると中にはすでにアルカが座っていた。アルカの対面の座席に俺は座って俺の隣にルルアを座らせる。できることなら横にさせたいのだが、この馬車は四人乗りなのでそこまでのスペースは無かった。
「まあな。ところで隣の女性は?」
「ん~これから俺の居候仲間になるルルア・ローレライだ。色々あって今は疲れているから休ませてやって欲しい」
「わかった。それよりもレイスとイリアの関係を聞かせてよ!」
アルカは身を乗り出して告げる。どうやら相当俺とイリアの関係性が気になるようだ。まあ、話して減るようなもんでもないし特別な因縁があるわけでもないから話すことに関しては全く問題ない。でも、一人で話すのは面倒だからイリアにも一緒に話してもらう事にしよう。
「どこから話したらいいのかわかんないけど、そもそも俺とイリアは親戚だって話は聞いてるか?」
「ああ、イリアから少し。詳しくは聞いたことが無いからわからないな」
「俺のグランバード家とイリアのグランヴァイス家は元を辿れば同じ家でそこから枝分かれしたんだ。グランヴァイス家はテラソルス王国に仕え、グランバード家はハイスカイ王国に仕えることになったんだ」
俺も詳しく調べたわけじゃないし、かなり昔の話だからこの情報がどこまで正しいのかはわからない。もちろん確認する術もない。だけど、俺とイリアの関係を簡潔に説明するのであればこの程度の情報で十分だろう。
「なんで、二つの家は別々の国に仕えることにしたんだ?」
「それは俺もわからん。何か事情があったのか、それとも自然とそうなってしまったのか。イリアは知ってるか?」
「いや、私も今レイスが話したことしか聞いていない。そもそも何百年も前の話だから詳しく調べようとしたこともないな」
「だそうだ。だから、俺とイリアの関係性で言えば本当にただの親戚同士でとある事情から俺が三年前からイリアの世話になっている。それだけだ」
もし、俺がイリアと親戚じゃなかったらこうやって養えてもらえなかったかもしれない。そういう点ではイリアが親戚で本当に良かったと思う。最近、俺に厳しいけど。ヒキニートだったし、仕方ないか。
「なんで、三年前からイリアの家に居候することになったんだ?」
「そんなの、簡単だろ。ハイスカイ王国が滅んだからだよ」
三年前に俺の祖国であるハイスカイ王国は攻め滅ぼされた。俺はハイスカイが攻められている時にはもうイリアの家にいた。理由は簡単。戦争が本格的に始まる前に主君であるアリエルにイリアの元へ亡命させられたからだ。
「……悪い事を聞いた。ごめん」
「別に気にしなくてもいい。今となってはそこまで気にしていない」
気にしていないとまでは言わないけど、もう過去の話だ。今更俺が何を思ったところでアリエルは生きかえらない。死んでしまった人間を蘇生させる魔法は存在しないのだから。
「わかりやすい嘘を殿下につくな。そんな苦虫を噛みしめたような顔で言っても何の説得力もないぞ」
イリアにこの嘘は通用しなかったようでジト目で見つめられてしまう。こいつは本当に俺に嘘をつかせてはくれないな。
「嘘だったのか?」
「気にしてないという部分は嘘になるな。今でも全然気にしてるし引きづっている。もし、俺があの戦場に立つことができていればアリエルを死なせることもなかったんじゃないかって」
あの時、あの戦場に俺が立てていればアリエルが死ぬことも、ハイスカイ王国が滅びることもなかったんじゃないかって。だけど、そんなたらればをどれだけ考えても何にもならない。過去は過去だ。蘇生魔法が無いように、時間を操作する魔法もまた存在しない。
「レイスはずっと後悔してるんだな」
「まあな。だから俺は、誰かの騎士になるつもりはない。だから、どれだけアルカに勧誘されても騎士になるつもりはない。すまないな」
もう一度しっかりと断っておく。なにがなんでも俺は騎士になるつもりはない。戦場にだってもう二度と立ちたくない。今回のは例外だ。
「謝らないでくれ。そんな事情があるなら無理に誘うのも良くないしな」
アルカは申し訳なさそうにしながら頭を下げてきた。やはり、立場とかをそこまで気にしない人間のようだ。普通の王族は平民なんかに頭を下げたりはしないだろうからな。
「別に頭を下げてもらうような事でもない。それよりも、俺は疲れたから寝させてもらう。王都に着いたら起こしてくれ」
これ以上会話をする気にもなれなかったし、疲労していたこともあって俺は馬車に揺られながら眠ることにした。流石にあんなに魔法を使ったのは本当に久しぶりだっし、多くの命を奪ってしまった。割り切ってはいるのだが、気持ちの良い物ではない。
「わかった。今日は本当にありがとうな。レイス」
「気にすんなって。今まで三年間居候させてもらったお礼みたいなもんだ。あと、約束は忘れんなよ? イリア」
「わかっている。これからもお前は家で居候してくれて構わない。もちろんそこにいるルルアもな」
イリアは俺の隣で寝息をたてているルルアを優しい目つきで見やりながらそう言う。なぜかこいつ、ルルアには優しいんだよな。ま、嫌ってるよりはマシか。
「ありがとう。じゃあ、俺は寝かせてもらうよ」
目を瞑って少しすると眠気が襲ってきた。抵抗する気もなかったし、馬車のコトコトという穏やかな振動に身を任せて俺はそのまま眠りについた。




