第13話 心優しきヒキニート
「わかった。すぐに行く。昔話は帰りの馬車でもいいか?」
「もちろんだ。事情は分からんが行ってやってくれ」
アルカの許可を得て俺は小走りでルルアのいるであろうテントに入って行く。そこにはすっかり傷が塞がったルルアが病床の上に横になっていた。
「目が覚めたんだな。気分はどうだ?」
「お前は……レイスか? 生きてたんだな。てっきりあの時死んだんだと思ってたぞ」
「そう簡単に死んでたまるかよ。死んだふりをして戦場から逃げただけだ」
こいつとは特段仲が良かったわけでもない。話した時間も短いし、人柄だってそこまでわからない。だけど、あんなふうに戦場に瀕死の状態で転がっていたら見過ごせなかった。要は、自己満足だな。
「なんだ、逃げてたんだな」
「ああ。それよりも、傭兵団はどうなったんだ?」
「全員死んだ。あの魔法を撃ちこまれて全滅したよ。僕が偶然お前に見つけられて助かっただけだ」
悲しそうに、悔しそうに自分の手を見つめて俯きながら彼女はそう言った。悪い事を聞いてしまったかもしれない。だが、同時にこんな風に人間らしい顔ができるんだなと思った。俺が見た彼女は無鉄砲で考えなしで脳筋のイメージだったが、こういう所は年相応に女の子のようだ。
「悪い事を聞いたな。ルルアはしばらくこのテントで休んでいると良い」
「ちょっと待てよ……僕を独りにしないでくれ」
ちょんっと、袖をルルアに掴まれる。振りほどくことは簡単だろうけど、弱っている彼女にそんなことをする気にはなれなかった。
「わかった。ここにいるよ。だから、お前は寝ころんどけ。傷は治っただろうけど疲労感は抜けてないだろ」
治癒魔法は万能ではない。魔力消費は馬鹿みたいに多いし、傷は治せても体力までは回復しない。だから、起き上がっているルルアを俺は寝転がらせた。
「僕はこれからどうすればいい?」
「知らねぇよ。したい事をすればいいんじゃないか? この戦争は終わった。お前にもかなりの額の報酬が支払われるはずだ」
おそらくだが、この戦場で生き残ったやつらには国からそれなりの額の金額が支給されるはずだ。傭兵団に支払うはずだった金が全てルルアに入るのであれば一生遊んで暮らせるくらいの額が入ってくる。それだけの金があればこんな危険なことをして金を稼ぐ必要もない。残りの人生は自分のしたい事をして過ごすというのも悪くないのかもしれない。
「僕は孤児だったんだ。そんな僕を傭兵団のみんなが拾ってくれて家族だって言ってくれた。リティス傭兵団は僕の家族だったんだ。でも、みんな死んじゃった。僕にもう居場所はない」
今にも泣き出してしまいそうに瞳に涙をためながら絞り出すかのようにルルアは言葉を紡いだ。その声音からは本当にルルアが傭兵団の人たちを大切に思っていたという事が伝わってくる。何とかしてあげたいが、今の俺にはどうすることもできない。
「そうか。行く場所が無いのなら俺と一緒に来るか? 戦えるなら護衛として雇ってもらえるかもしれないし」
「良いのか? 僕はレイスを盾にしたんだぞ?」
「あんなの怒ってねぇよ。今こうやって生きてるわけだしな。ただ、次やったら普通に殴るからな」
俺だったからよかったものの、俺以外にあんなことをしていたら炭になっていてもおかしくはない。まあ、普通に熱かったから金輪際ああいう真似はやめて欲しいところだが。
「わ、わかった」
「ならいいよ。じゃあ、俺はお前を連れて行く許可をとってくるから待っててくれ」
イリアに頼み込めば何とかしてくれるだろ。居候が一人から二人になってもそんなに変わらないだろうしな。
「なんか、似てんだよな」
アルカがアリエルに似てると感じるように、ルルアは昔の俺に似ているような気がした。アリエルが死んで、どこに行けばいいのかわからなくて。自分の居場所を見失った昔の俺に。
「だからまあ、自己満足ってやつだよな。俺がルルアを連れて行きたいと思ったのは」
誰もいないのに言い訳みたいなことを呟きながら、俺はイリアのいるテントに向かった。渋られても全力で土下座をすれば頷いてくれるはず。最悪、アルカに頼み込むのもいいかもしれないな。
「レイス。あの少女はどうでしたか? 傷はあらかた塞いだはずですけど」
「体調に関しては問題なさそうだったぜ。まあ、体力は消耗してるからそれを回復させないといけないけどな」
「ならよかったです。流石にあそこまでの重傷を完璧に治せたのか不安でしたので。治っていたようで何よりです」
イリアはほっと胸を撫でおろす。相変わらず、良い奴なんだよな。俺が居場所を見失った時に助けてくれたのもイリアだった。お人よしというかなんというか。俺はイリアのこういう所が好きだったりする。
「それで……一つ頼みがるんだが」
「なんですか改まって。まあ、あなたの頼みなんだからロクな事ではないことだけは確かですけど」
「……お前は俺のことを何だと思ってるんだよ」
ロクでもない事は確かなので何の反論でもできないわけなんだけど。
「まあ、いいですよ。あなたのおかげで私も殿下も無事に王都に帰還できるんです。多少の面倒事くらいなら聞いてあげる」
ふっと口角を上げながらイリアは告げた。太っ腹で安心した。この感じなら俺が土下座をしなくてもいいかもしれない。それから俺はイリアにアルカを一緒に養ってほしい事を伝えた。もちろん、彼女が暴れたりしないように面倒は見るし何かあったら俺が責任を持つという条件付きでだ。
「そういう事なら全然良いですよ。間接的とはいえ、彼女の家族を奪ったのは私達でもあるわけですから。うちに住んでもらう分には構わないです」
「マジか! ありがとなイリア」
イリアは案外あっさりとルルアが居候することを認めてくれた。そう言えば、イリアは基本的に俺以外には優しいのだった。どうして俺にもこの優しさを向けてくれないのか。疑問で仕方がない。
「別に礼なんて良いですよ。今回のあなたの働きに対する報酬とでも思ってくれたらいいです。それよりも、これから私たちは馬車で王都に帰還します。レイスも馬車に乗って帰るでしょう?」
「当たり前だ。じゃあ、ルルアも一緒に乗せてもいいか?」
「もちろん。私は殿下と一緒に馬車で待っています。お前もすぐに彼女を連れて来てください」
「了解。じゃあ、行ってくる」
これでやっとこの泥臭い戦場からおさらばできる。まあ、ここに来てから一日も経ってないわけだけど、早めに終わらせることができてよかった。問題は山積みだけど、とりあえずは家に帰ってくつろぎたい。流石に疲れた。
「ルルア。今から馬車で王都に戻るんだが、立てそうか?」
「……無理そうだ。全身に力が入らない」
起き上がる努力をしたルルアだが、まだまだ体力は回復していないようで起き上がることができないようだった。まあ、あそこまでの火傷を負っていたんだから無理もないか。
「わかった。抱きあげていくけど良いか?」
「うん、頼む」
なぜか急にしおらしくなったルルアを抱きあげて俺はイリア達の待つ馬車の方に向かった。すでにいつでも出発できる状態のようで王都に戻る馬車が用意されていた。流石イリア。仕事が早い。
「来ましたか。とりあえず、彼女を馬車に乗せてあげてください。今回は殿下も同じ馬車に乗られるから無礼の無いように」
「わかったわかった。ルルアもいいか?」
「うん。変な事は言ったりしないようにする」
ルルアは素直に頷いてくれた。最初の暴れ馬のような性格はどこに行ってしまったのか。今は物凄くおとなしい。家族同然の人たちを全員失ったのだからこうなっても無理はないか。家に戻ってからは注意深く見ておかないとな。せっかく生き残れたのだから彼女には幸せに過ごしてほしい。俺もできる限りそのフォローはするとしよう。




