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伝奇ゲーム世界の必ず死ぬかませ犬に転生したオタクが生き延びる方法【カクヨムジャンル別ランキング日間1位】  作者: ビッグベアー
第七部 オタクと世界

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第210話 ミコタアケコ『救出』作戦

「しかし、厄介極まる事態ですわね」


 オレがすべてを話し終えると、まっさきにリーズが言った。


 まったくもって同感だ。これが我が事でなければどうやって解決するんだろうとワクワクできたのにと惜しくなるくらいには惜しい。

 

 ところ変わらず、円形体育館だ。

 ここにはもともと閉鎖用の結界が重ね掛けしてある。盗聴対策という意味ではこれ以上の場所はそうないだろう。


 今話しているのは、『ミコタアケコ』について。

 すでにオレの彼女を救いたいという希望はみんなに話してある。その意志が揺らぐことはないが、巻き込む以上はこうして正面切って全てを話すのが筋というものだ。


 ちなみに、今は全員が円形体育館の闘技場に降りてきている。決闘中は部外者が侵入できない縛りがあるが、そこはオレが誤魔化した。こういうことを片手間できるようになってきた自分が少し恐ろしくもあるが、便利なのでよしとしよう。


「そもそもあのミス・ミコタがあのフロイトだというのがまだ呑み込めません。貴方と、リサ、シオリの証言があってもです」


「オレも気持ちは同じだよ。でも、事実だ」


 こればかりはオレもまだ受け入れ切れていない。

 『フロイト』の正体があのミコタアケコ。しかも、彼女は――、

 

「でも、すごいよね。何度も何度も同じ人生を繰り返すなんて、想像もできないよ……」


 凜が言った。

 『逆行転生』、あるいは無限ループとも形容できるが、ここでは『八人目の魔人』の要件に従って『逆行転生者』と定義することにする。


「それも一回や二回じゃなくて、少なくとも数千回近く繰り返している。誰であろうと、正気を失うには十分すぎるでしょうね」


 オレの隣に正座しているのはアオイだ。

 自他ともに厳しい彼女から見ても『ミコタアケコ』の経験には凄まじいものがあるということだ。


 『BABEL(この)』の世界は非情だ。

 オレが幸福なのはオレの運が良かったからに過ぎない。半端な才能の持ち主はすり潰されて死ぬよりもひどい目にあうし、100年に1人の天才だったとしても運命の巡り合わせ次第で才を活かすこともできずに消えていく。


 だから、『ミコタアケコ』と同じか、それ以上の不幸はどこかに転がっている。

 

「だとしても、敵は敵です。『フロイト』は世界を滅ぼそうとしているだけではなく、幾度となく私たちを脅かし、挙句の果てに私の道孝を殺しかけた。許してはおけません。ましてや、それを助けるなど、言語道断です」


 アオイの態度は清々しいほどにきっぱりとしている。

 

 ……アオイは正しい。

 フロイト、いやミコタアケコは解体局からしても、オレたち個人からしても敵だ。


 敵は倒す。そこに妥協はないし、ほかの選択肢はない。アオイはそういう人だ。

 ましてや、彼女にしてみればオレの命を狙ったような輩を助けるなんてこと天と地がひっくり返ってもあり得ない。


 そんなアオイをオレはどうにかして説得しないといけない。

 なるほど……夫婦喧嘩は犬も食わないとはよく言ったものだ。正直、これが一番の難題なんじゃないかと思えてきたぞ。


 それに、『ミコタアケコ』を救うのに反対しているのはアオイだけじゃない。

 少なくともリーズとリサ、盈瑠は消極的反対だ。


「……救うにせよ、倒すにせよ、現状ではどちらも目途が立ちません。

 仮にダメージを与えても『入れ替わり』でダメージを無効化されますし、無効化できたとしてもミコタアケコは次のループに移行すればいいだけです。

 ループした先は別の平行世界であり、我々には関わりのないことではありますが、解体局の一員として見過ごすことはできませんわね」


 リーズの指摘も正しい。

 現状、どちらの選択肢をとるにしても『ミコタアケコ』の攻略法の糸口はつかめていない。彼女が『大悪魔』との契約で得た『呪い』、その『異能』をどうにかしなければ彼女の望み通り彼女を殺すことも、その意に反して救うことも難しい。


 まずはそこをなんとかしないといけない。何とかしないといけないのだが、オレとしたことがまだその形がまるで見えていない。


「とりあえずみんな、巫女っちゃ……じゃなかった。ミコタアケコの異能をどうにかするって点では一致できてるね。じゃあ、まずはそこをみんなで考えようよ」


 だんだんと空気が煮詰まってきたところで山三屋先輩が風を吹き込んでくれた。

 先輩にはいつも助けられている。自由人なようで根っからの先輩気質、頼りがいという意味ではこの人以上に心を預ける相手はいない。


 好きだ、すごく、好きだ。

 今ならオタクとしてではなく自分の感情を素直に認められる。オレは、みんなのことが好きだ。


「あ、あしやん? そ、そんなに見つめられると、お、お姉さん照れちゃうかなぁって……」


 と、いかん。情熱的に見つめすぎた。


 でも、先輩が魅力的すぎるのもよくないと思う。

 制服の袖やスカートからのぞく健康的な四肢。溌溂とした笑顔とわずかに赤らんだ頬。なにもかもが完璧に可憐で、キュートで可愛すぎちゃってごめんな彼女の姿をオレの脳内に焼き付けておかねばならない。


「もはや天然記念物、いや、世界遺産の領域……じゃなかった、すいません、続けてください」


 と、わずかに感想を漏らすとただちに隣のアオイが殺気立つ。

 ……いや、ごめんて。ちゃんとアオイのことも宇宙一だと思ってるぞ、オレは。ただオレの宇宙では多元宇宙を採用しており、宇宙間での優劣がないだけだ。


 …………我ながら言っててどうかと思う理論だな。でも、本当にそうなんだから仕方がないじゃないか、うん。


「な、なんだっけ……そうだ、アシヤンは一度、ミコタアケコを捕まえたんだよね? その時の方法は使えないの?」


「拘束だけなら、まあ、できると思います。でも、次はすぐに破られる。向こうも対策してくるでしょうし、一度見せた術は得策とは思えない」


「そっか。相手の経験値はすごいわけだもんね。それをどうにかするには、こっちも相手の経験を上回らないとダメなわけか……」


 まさしく言うは易し行うは難しというやつだ。

 なにせ相手は周回プレイ回数でもオレを上回る。原作知識というアドバンテージも今回ばかりは通用しない。


 ……今、オレ達がこうして行っている密談もミコタアケコの経験した輪廻ループの中で起きた既知の出来事である可能性がある。

 そうであった場合、この話し合いはミコタアケコを救うことには繋がらない。今のミコタアケコが『逆行転生』から解放されていない以上はそうなってしまう。


 でも、神ならぬオレ達にはこれしかない。

 皆で知恵を出し合い、作戦を練り、協力して事に当たる。今までもそうやって数多の困難を乗り越えてきた。


 今回もそうだ。必ずやれる。オレたちならば、そう信じられる。


「えと、そのもう1人の巫女田先生は別の世界の自分と繋がってるん、だよね? でも、その別の世界っていうのは、どういう世界なの?」


 凜が手を上げて質問をする。別に挙手制じゃないんだが、まあ、らしいといえばらしい天然さだ。

 

「並行世界とか、パラレルワールドとかそんな感じだ。ギャルゲーで言うと、この世界とは別の選択肢ルートを通った世界っていうと分かりやすいか?」


「あー、グッドエンドか、ノーマルエンドか的な感じ? じゃあ、もう一人の巫女田先生は詰みセーブに入りこんじゃった感じかぁ。で、自暴自棄になっていっそセーブデータごと筐体ハードごとぶっ壊しちゃえってなってると」


「…………まあ、そういうことだな」


 端的過ぎる理解ではあるが、さすが凜。本質は突いている。

 ようは『フロイト』こと『ミコタアケコ』がやっているのは強制的な無限リトライだ。

 

 ……そう考えれば、やはり、逆行転生のシステムそのものに干渉するしかない。詰みセーブの中からはどうにもできなくとも、セーブデータの改竄ができれば詰みを解消することは可能だ。


 問題は、その方法。

 オレ達探索者は異能を操るが、所詮は世界の内側に刻まれた『システム』を運用しているに過ぎない。どれほど複雑で、強大な術でもその効果は内に閉じている。


 『システム』そのものに干渉するには別のアプローチをしないといけない。

 例えば世界そのものに深く根付く『魔人』の力ならば、あるいは――、


「それで勝手に八人目の魔人になるなんて宣言をしてきたわけですか。そういうところですよ、そういうところに私は怒っているんですよ、道孝。そんな大事なことを妻に相談しないなんて、どういう了見ですか……」


 だが、オレが『八人目』の魔人になって『ミコタアケコ』を救うという案についてもアオイは反対している。

 というか、本人の言葉通り、怒っている。それも一過性の激しい怒りではなく、オレのことを本気で思うがゆえに腹の底から怒っていた。


「まったくその通りかと。お兄様の独断専行には彩芽もほとほと困らされております。お気持ちは理解しますが、もっとちゃんと相談してもらいたいものです」


 彩芽も怒っている。悲し気に、でも、強い覚悟を持ってオレに対して言葉を発していた。

 それを裏付けるかのようにこんな時に限って盈月みつきは何も言ってはくれない。


 ………やっぱり、この2人に怒られるのが一番、しんどい。

 悪いのはオレだ。それしか方法はないと考えたし、覚悟もしている。でも、それはオレだけの覚悟だ。


 誰かに強いることはできないし、したくもない。

 でも、ほかに方法がないのだとしたら――、


「――あるかも、ほかの方法」


 凛とした声が響く。リサだ。

 今まで言葉を発さなかった彼女が赤い髪をなびかせて、一歩前に出た。


 その表情に、オレは言葉を失う。

 そこにあったのは決意と覚悟。それになにより、朽上理沙と『ゴールデンひまわり』の2つの人格がそこには同居していた。


 まさか――、


「ようは、『転生』のシステムを解析してハッキングできれば無限ループを止められるかもしれない。そして、『転生者』ならここにもいる。2つもテストケースがあるんだから、どうにかなるんじゃない?」


 なんでもないことのように、リサは秘密を解き放ってみせる。

 前世の時から思っていたけど、本当この女性ひとの勇気と度胸は筋金入りだ。オレなんかじゃ逆立ちしたってかなわない。

 

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