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伝奇ゲーム世界の必ず死ぬかませ犬に転生したオタクが生き延びる方法  作者: ビッグベアー
第七部 オタクと世界

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205/212

第205話 本気と書いてマジと読む

 山縣アオイは何事に関しても真面目に取り込む素晴らしい女性だ。

 例えば、原作においてこんなエピソードがある。


 アオイがまだ五歳の頃だ。本格的な修行を始める前の彼女に、指南役であった祖父はたわむれに素振り千回を日課にするように言いつけた。それも、竹刀や木刀ではなく真剣での素振りをだ。


 無論、本気でそんなことを命じたわけじゃない。あくまで孫娘に刀の重さ、怖さを学ばせるための通過儀礼のようなもの。実際には万が一がないように、常に祖父はアオイを見守っていたという。


 しかし、アオイはそんな祖父の意図を飛び越えた。

 当時五歳の彼女は実際に真剣での素振り千回を本当に日課にしてしまった。


 いくらアオイが天才で、身体能力が常人とは比較にならないとはいえ、五歳児は五歳児。ほんの数回の素振りで柔らかな掌にはまめができ、両腕には痛みが走った。

 だというのに、アオイは千回の素振りと言うある種の無茶ぶりをやってみせた。それも、三日坊主ではなく雨の日も、雪の日も、あるいは自分の誕生日でさえも続けた。そのたゆまぬ修練がアオイの強さを支えている。


 つまり、祖父の言葉を真剣に捉え、どれだけ苦しくてもするべきことをやめない彼女の生来の真面目さが今の彼女を作った。


 そうして、その真面目さは今オレの目の前でもいかんなく発揮されている。

 そう、決闘と言うことであれば本気の本気、真剣マジで殺す気でやる。山縣アオイはそういう女性だ。


「――にしたって、限度があるぞ」


 背筋に走る戦慄に、身震いする。この半年間で強大な怪異、術師や異能者と対峙してきたが、緊張感という意味では最高記録を更新していた。


 なにせ相手は、あの山縣アオイ。

 押しも押されぬ原作ヒロインの代表格であり、オレの推し。あらゆる術師の天敵ともいえる現代最高峰の剣士だ。緊張するなと言う方が無茶だ。


 だいたい発せられている魔力の鋭さが尋常じゃないぞ。清水のように澄んでいる、と言ってもいいか。あれだけで、アオイの精神が凄まじい集中力を発揮していることが分かる。


 ……こうして、アオイと対峙するのはこれが初めてじゃない。数か月前、初めての実地訓練でも戦ってはいる。

 しかし、あの時のアオイは血の呪いの影響で正気を失っていた。呪いに呑まれている時は通常時より膂力が増し、呪いの雷や炎も操るが、アオイの真の恐ろしさがそこではないことは原作既プレイならば皆が知っていることだ。


 ましてや、今のアオイの剣士としての技量、戦闘能力は数か月前とは比較にならない。

 オレも強くはなっているが、もともとの才能の差があるうえに、相性で負けているから正直、自信はない。


 自信はないのだが――、


「お兄様ー! ファイトですよー! 最初の夫婦喧嘩で負けたら一生尻に敷かれてしまいますよー!」


「ファイトー! 蘆屋君ならきっといい勝負できるよー!」


「そうですわー! 術師の意地を見せてくださいまし―!」


「ふれーふれー! ア、シ、ヤ、ン!」


 なんか応援されている。

 円形体育場の観客席には、彩芽、凜、リーズ、山三屋先輩の姿が見える。奥の方ではリサが谷崎さんにポップコーンを渡しているし、盈瑠みちるのものであろう使い魔の視線まで感じる始末だ。


 ……こいつら暇なんだろうか。

 ああいや、オレとアオイを心配してくれているのは分かるんだが、それ以上に、すごい楽しそうなんだけど。


 ……………いや、オレも他人事ならコーラー片手にスナック菓子用意してるな。ちくせう、これが因果応報か。


 ………それでいくと、こういう時に一番エンジョイしてそうな誘先生の姿が見えない。 

 ……………ふむ、これをどう考えるべきか、


「死合い前に、ずいぶんと暢気ですね。それとも、わたし程度なら余裕だとでも?」


「…………いいや、むしろその逆なんだが」


 言ってくれるぜ。こっちは暢気どころか緊張で今にもゲロを吐きそうなくらいだ。

 といっても、オレも術師で、男だ。面白半分とはいえみんなに応援されている以上は負けるつもりは一切ない。

 

「そう言うわりには、魔力も充溢、やる気満々といった様子ですが。まあ、適当に流されては百年の恋も冷めるというもの。貴方もその気なら、存分に尽くすとしましょう」

 

 そんなオレの内心を見透かして、アオイがほほ笑む。好戦性がむき出しの、獣めいたその笑みがオレの眼にはこれ以上なく美しく見えた。


 って、いかんいかん。感心している場合じゃない。

 今回の場合は盈瑠の時とは違い、事前の仕込みなしでのガチンコ勝負。少しでも気を抜いたら一瞬で負けておしまいだ。


「勝敗は、そうですね。降参した方の負けでいいでしょう。つまり、降参しなければ延々と戦えるということですね」


「……三日三晩ぶっ続けなんてのはさすがに遠慮したいんだが」


「ふっ。では、いまからそのスタミナをつけてもらいましょうか。蜜月ハネムーンとなれば、一時も離れるつもりはないですし」


 ……そういえば、ハネムーンって本来は結婚した夫婦が一月閉じこもって子供を作るための行事だとか何とか。その間、一時も離れるつもりがないということは、限界まで搾り取るということか……、


 ………思わず、金玉がひゅんとなる。どうやらオレはこの『八人目』の事件を解決しても、そのあと腹上死するかもしれない。

 ……………蘆屋の郷の宝物庫に伝説の精力剤とかも収蔵されてないだろうか。


「…………がんばります」


「ええ。期待してますよ」


 じ、実にエロチックな流し目。これだけでこっちはノックアウト寸前だが、試合開始前にダウンするわけにはいかない。どうにか理性と根性を総動員して耐えた。


 くそう、こんなにエチエチなくせに魔力の流れには一切乱れがない……! ずるいぞ! でも、最高だぞ、山縣アオイ……!


「いつまでも話をしていても仕方ないですし、はじめましょうか」


 だが、こんな団らんの時間もこれで終わりだ。

 アオイの右手が刀の柄にかかる。条件も決まった以上、どちらかが口火を切ればそれで始まる。


 アオイは、間違いなく本気だ。

 この場には殺傷行為を禁じる特殊な結界が張り巡らせているが、彼女が本気である以上はそれも機能してくれるかは正直分からない。


 だが、やめるという選択肢はない。男として、オタクとして、ここでアオイの本気を受け止められないような人間にはなりたくないと魂が吠えていた。


「――『六占式盤』展開」


 その猛りの手綱を握り、術を展開する。

 最初に使用するのはいつも通りの『六占式盤』。だが、その直後想定外の事態が起こった。


 術の精度が格段に向上している。いや、それだけならまだいいが、なんというか、式盤が今まで以上に複雑な情報を収集、処理している……?

 例えば、分子運動や時空間の歪み、存在しうる分岐可能性といったもの。どれも今まで感知したことも、感知しようとも思ったことのない情報だ。


 というか、こんな膨大な情報を叩き込まれたら普通は術師でも脳が焼き切れる。だっていうのに、オレの脳は焼き切れるどころか、スパコンの並の情報処理を意識下で行えてしまっている。どうやら今のオレの脳みそは人間よりも怪異のそれに近い状態だ。

 ……こうなった原因は分かっている。あの地獄のような痛みが無駄じゃなかったというのはいいが、ますます自分が人外じみてきていることには少なからぬ動揺がある。


 だが、今は、いや違うな。これからもこんな動揺には構っていられない。

 オレはもう、やるべきことを決めてしまったのだから。


 それに、術の精度も魔力効率も飛躍的に向上している。これならば、アオイにも対抗できる――!


「――来い」


 決闘の始まりを宣言する。

 アオイの思いを受け止めるためにも簡単には負けられない。


「言われずとも――!」


 踏み込みの瞬間、オレの視界からアオイの姿が消える。凄まじい速度だ。音の壁なんて当然のように破っている。

 どう強化してもオレの動体視力はこの速度は捉えられない。


 だが、ほかの感覚でならば――、


「――むっ!」


 袈裟懸けの一刀。直前で予知したそれを、瞬間的に硬度を増した『塗壁童子』で受け止めた。

 アオイの顔に驚きの表情が浮かんでいる。なるほど、たまにはサプライズも悪くない。

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