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伝奇ゲーム世界の必ず死ぬかませ犬に転生したオタクが生き延びる方法  作者: ビッグベアー
第七部 オタクと世界

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第204話 果たし状

 果たし状、果たし状だ。

 アオイから手渡された書状の包み紙には間違いなくそう書かれている。


 何度見直しても、光に透かしても、あるいは術で解析してみても書いてある文字は変わらない。

 果たし状なる時代錯誤な一品は確かにオレの手に握られていた。


 ……それこそ前世ならキャラグッズで売り出されていてもいいような代物だ。

 中身を読むのが怖いというのとは別の意味で封を開けるのに抵抗感がある。


「えと、これは?」


「書いてある通りのものですが? それより、なぜ少しうれしそうなんですか?」


「…………まあ、物騒だけど、君からの手紙だし」

 

 いつも通りに答えると、アオイは照れて視線を背け、それから毒気を抜かれたようにため息を吐いた。


 だって、内容がどうであれ、アオイ直筆の手紙なんて『BABEL』本編にも登場してないし……オタクとしては、その希少性を大事にしたい。


「……まったく、これに惚れたわたしの負けですか。ですが勝負は勝負。中身を早く読んでください」


「お、おう」


 そう促されてもったいない気持ちやら恐ろしさやらと格闘しつつ、封を開けた。

 中身は当然手紙だ。そこにはやはり達筆な文字で、オレに対して決闘を申し込む旨と日時と場所が指定されていた。


「3日後の17時に、円形体育館で……って、なんでだよ」


「なんでもなにもありません。読んだのなら結構。身体も精神も、健康のようですし」


 オレの問いに答えることなく、アオイは立ち上がると背を向けて出口へと歩いていく。

 

「ま、待ってくれよ! どうしてこんな――!」


 そう口にしながらも、オレは自分が嘘を吐いていることに気付く。


 これを渡された意味は理解できている、と思う。

 アオイはオレに痺れを切らしたのだ。秘密を抱え続けているオレに、いつまでも彼女の愛に全てで応えないオレに、そして、怯えて答えを口にできないオレに。


 でも、どうして、その解決手段が決闘なんだよ。


「なんでもなにも。私は言葉が巧みではありませんし、感情表現も得意とは思ってません。ですが、戦いであれば、貴方にも勝てる。それに、言いたいことも伝わるでしょう」


「な、なるほど……」


 思わず納得してしまう。言葉ではなく肉体言語の方が言いたいことも伝わるし、相手の考えも引き出せるというのは実にアオイらしい考えだからだ。

 

 場所も納得だ。学園の円形体育館には決闘用の非殺傷結界が展開されているから、よほどのことがなければ互いに怪我をすることもない。

 まあ、痛いのは痛いのだが、それ以上を求めるのは贅沢というものだ。


 ……この果し状を受けるかどうかは、あくまで任意。オレが侍や騎士なら挑まれた決闘から逃げるような不名誉は選べないが、オレはあくまでただのオタクだ。

 ならば、傷にならないとしても推しであるアオイと戦うなんてことはできない。そりゃ一度は戦ったが、あれは他に方法がなかったから仕方なくだ。そうでもなければ推しに攻撃なんて考えられない。


 でも、男としては愛する女性がここまで覚悟を決めているのにそれから目を背けるなんてことはやっちゃいけない。

 覚悟は決めてある。オレも自分自身と向き合う時だ。


「……わかった。受けて立つよ」


「…………よろしい。では、3日後に」


 オレの気持ちが伝わったのか、アオイは頷いて部屋から出ていく。

 自室に一人きりになって、オレは深々と息を吐いた。


 心の中では緊張やら恐怖やらがない交ぜになっている。

 本音を言えば、アオイとは戦いたくない。けれど、そう思っている自分とは対照的に、今からその時に向けて戦術を練り上げてもいる。やるからには勝ちたい、とそう思ってしまってもいる。


「オレは、なんなんだ……?」


 矛盾だ。だが、恐ろしいのは矛盾そのものじゃない。

 この矛盾が、あの(・・)変化(・・)によって生じたものでないかという疑念が頭から消えてくれない。自分が人間じぶんでなくなってしまっているのではないか、そう考えるとそれだけで体が震えた。


「――臆病者が。もう決めただろう」


 そんな己を言葉で殴りつける。


 ミコタアケコを救うと決めた時点で、『八人目の魔人』になることも受け入れた。 

 そのつもりだった。だっていうのに、こうして1人になるとどうしようもなく怖い。


 でも、もう決めた。退路はない。アオイやほかのみんなに反対されたとしても、オレは――、



 アオイが去ってすぐに、彩芽を筆頭にみんながお見舞いに来てくれた。

 といっても、7日間昏睡していた割には体も魔力もまるで問題はないから、みんなに心配を掛けただけというのは何とも心苦しかった。


 一方で、アオイとの決闘に関しては全員が承知していた。

 なんでもアオイはオレが寝ている間に仲間たち全員を集めてこの件を相談してから、果たし状を書いたとのこと。


 意外だ。だけど、素晴らしいことだ。


 原作でもこの世界でもアオイはその能力の高さゆえに滅多に人に頼らない。それゆえ独断専行気味で、そのせいでピンチに陥ることもあったりした。

 でも、今はみんなに相談することができている。それも任務に関することでなくプライベートなことで心を開いてくれている。


 こういう変化ならば大歓迎だ。友情にまさる宝はないとよく言うが、推し同士の友情なんて尊すぎて地球100個分の価値おもさがある。


 ……まあ、その友情の結果があの果たし状と考えると当事者としては複雑なところもなくはないのだが、総合的には尊さが勝るので問題はない。


 心配だったのは、オレと一緒に『螺旋図書館』にいったリサと谷崎さんの2人だが、その2人も無事に元気だった。


 あの場所で目にし、知ったことは何も『フロイト』、『ミコタアケコ』に関することだけじゃない。

 『螺旋図書館』の館長が受け取った『戦神』からの伝言。朽上理沙の父親であるその神格は娘であり、半神デミゴッドでもあるリサを自らの住まう神界オリュンポスに招くとそう伝えてきた。現実世界に何が起きたとしても、神界であれば影響はないから、と。


 滅多にあることじゃない。すでに現実世界での実態を失って久しい神々がわざわざ干渉しようという時点で異常事態だ。 

 それに、裏にどんな意図があるとしても親から子に向けての最後の愛情ではある。子が無残に死ぬのは見るに堪えぬとそう考えたのだろう。


 リサはその提案を断った。

 そこに今更異論を挟む気はないし、リサと同行を許可された谷崎さんの決断にオレが介入する余地はない。

 

 でも、帰還後の2人の状態は気がかりだったから、改めて元気だと分かって安心した。あとは、オレが2人がこの選択を後悔しないように頑張るだけだ。


 ほかの面子の様子もいつもとそう変わりはなかった。

 山三屋先輩、凜、リーズの三人はともかくオレの心配をしていたし、彩芽は彩芽でいつも通りにかいがいしく世話を焼いてくれている。


 平和、と言えば平和なのかもしれない。でも、その後ろ側でみんなが少しずつ引っかかりを感じているなんてことは、オレでなくてもわかる。

 『フロイト』の正体がオレたちの知る『ミコタアケコ』だった。この事実は少なからず皆に衝撃を与えている。少なからぬ動揺もあるはずだ。


 それでも、みんながオレを質問攻めにしないのは、アオイのおかげだ。

 彼女がオレに申し込んだ決闘、その際に改めてすべてを話して、オレの決断についての説明もする、という段取りが着いていた。本当に、知らないうちにそういう流れになっていた。


 ……アオイ、それとリサと谷崎さんに感謝だ。

 オレの状態も考慮して果たし状についての相談した時にそういうことも決めておいてくれたのは想像に難くない。


 まったく気をつかわれてばっかりだ。自分じゃなかったら右ストレートでぶん殴っていた。というか、一回殴った、気合を入れるために。


 そんな中で、唯一の例外だったのが、我がもう一人の妹『盈月』だ。普段は双子の姉妹である彩芽の中で眠っている彼女だけは、オレに気をつかわなかった。


「ざまあないわね。いつまでも先延ばしにしてるからこういうことになるのよ。いっぺん斬られて反省したら? というか、なめてると死ぬんじゃない?」


 とこんな風に言ってきた。夜中、彩芽におやすみと声を掛けた直後のことだ。

 

 普段なら3日は落ち込みそうな辛辣な一言だったが、今は逆にこのくらいはっきりしてくれている方が楽だったりもする。


 けど、死ぬとかはさすがに言いすぎだぞ、盈月。だって、決闘の会場は学園の円形体育館のわけだし。あそこの結界なら痛い思いはするだろうけど、死ぬことはない。


 だが、3日後、円形体育館でアオイと向き合った瞬間、オレは自分の認識の甘さを思い知った。


 立ち昇る魔力はまさしく焔のごとし。はげしいながらも研ぎ澄まされたそれは、まさしく激戦の兆しそのものだ。

 ……あれ、オレが思ったよりも10倍は本気なんですけど、この人。


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