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伝奇ゲーム世界の必ず死ぬかませ犬に転生したオタクが生き延びる方法  作者: ビッグベアー
第七部 オタクと世界

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第203話 勝手は許さない

 局長は宣言通りに、オレを含めたその場にいた全員を『螺旋図書館』の中心部、つまり、あのクロトキの姿をした『図書館長』のもとへと送り届けてくれた。


 いくら異界因ともいえる『図書館長』が協力的とはいえ複数人を異界内で強制転移させるなんてのはとんでもない神業なんだが、それを片手間でやってのけるのさすがは解体局の『局長グランドマスター』であり『七人の魔人』の一角だ。


 同じく強大な力を持つ『図書館長』もオレ達が突然姿を現しても特に気にした様子はなかった。

 というか、業務の邪魔だとため息を吐くだけでそれ以上の反応はなく、すぐに司書のクロトキたちにオレたちを出口に案内するように命じていた。


 そのときには全員が意識を取り戻していた。リサと谷崎さんだけではなく、厳徹殿も、そして、巫女田先生もだ。


 ……この巫女田朱子に危険性はない。

 彼女はあくまで『フロイト』こと『ミコタアケコ』が偽装用に作った『分体』であり情報の漏洩を防ぐために記憶や感覚の共有も行われていない。

 その代わりに、普通の人間として生活をし、年を取り、思考し生活する。そういった『分体』として成立している以上、こちらに害を加えることはできない。


 ……これも超がつく高等技術だが、ことここに至っては無駄でしかない。いわゆるリソースの無駄だ。魔力にせよ、脳の容量にせよ、微細な負荷ではあるのだろうが、無駄である以上はそれを残す合理的な理由は存在しない。

 それでも、『分体』が消えていないということはその無駄にこそ意味があるのだとオレは考えた。


 だが、その意味について考察を進める先に、オレの意識は消失した。

 原因は魔力不足ではなく例の頭痛。局長の影響圏から出たせいか、脳拡張に伴う痛みがぶり返したのだ。


 局長の言っていた電気信号の再変換をやればよかったのだろうが、こっちは所詮人間だ。

 脳みそをドリルでぐちゃぐちゃにされるような痛みの中でやったことのない対処法を実行する余裕はなかった。


 結果、痛覚からの情報量にオレの意識は耐えられずに消失ブラックアウト。おかげで苦しまずには済んだが、毎度恒例あまり格好のつかない帰還にはなってしまった。


 それに、意図したことではないとはいえみんなに心配かけてしまったことは非常に心苦しい。

 意識を失う直前に見た今にも泣きだしそうなリサの顔が記憶に焼き付いている。ああいう顔はもう誰にもさせないつもりだったんだが、オレはやっぱり進歩がない。


 そういうわけで、『螺旋図書館』および『99事変』の再現異界から帰還したオレは約7日間の昏睡状態に陥った。

 外傷はなし。魔力の減衰も微小。なのに、脳波だけが異常な波形を示すという奇妙な昏睡。あとから聞かされた話だが、解体局のもつ奇々怪々な医療記録の中でも希少な症例となったらしい。


 そんなオレが目覚めたのは、『聖塔学園』の敷地内にある屋敷いえ、それもいつもの寝室でのことだった。

 これもあとから聞かされた話だが、しかるところから『蘆屋道孝はいずれ必ず目覚めるので治療の必要なし』と通達があり、オレは屋敷に返されたらしい。


 しかるべきところというのは、間違いなく『局長』だ。おかげで医療班に無駄骨を折らせずには済んだが、どうせならちゃんと事情を話しておいてほしかった。特に彩音やアオイには。


「あら、起きたんですね。今回はずいぶんと寝坊助でしたが、大事はありませんか?」


 おきぬけ、夕焼けに照らされたベッドの上でアオイの声を聞く。

 目覚めに聞く声としては古今東西、ありとあらゆる並行世界を探してもこれ以上のものはない。本当ならこれだけで幸せの絶頂にいたるべきだが、すぐにオレの心には雲がかかった。


 アオイが7日間、オレの目覚めを待っていてくれたことに気付いたからだ。

 オレが目を覚ますまでアオイは一時も離れずに見守ってくれていた。隠してはいるものの、寝不足気味の眼と急いで整えた髪がすべてを物語っていた。

 

 いや、それだけじゃない。彩芽や他の皆も代わる代わる様子を見に来てくれていたに違いない。うぬぼれではなくあちらこちらにおかれた見舞いの品や花がそれを証明している。


 申し訳なくてたまらない。結局、オレはこうしていつも彼女や仲間たちに心配をかけてしまう。


「……すまん」


「ええ。反省してください。でも、事情は聞いています。今回は他に方法もなかったでしょうし、特別に不問に付すのも妻の甲斐性というものでしょう」


「甘えっぱなしだな、オレ」


「全くです。それに、7日間も無防備な寝顔を見せつけられて理性を削られる方の身にもなってほしいものですね。私がけだものではなく乙女であることに感謝するように」


 …………ときどきけだものな側面が漏れているは言わぬが花だな。

 ………………そこら辺に関してもそろそろ踏ん切りをつけないと。いつまでも待たせてばかりでは、オレもメンツが立たない。


「――では、弁明を聞きましょうか」

 

 そうして、ようやく人心地着いたところでアオイが言った。

 怒っている。それも今までにないほどに明確に、かつ切実に。


 オレの無茶に対して、ではない。もっと別のことに彼女は怒っている。

 『螺旋図書館』で起きたことのあらましはリサと谷崎さんの口から報告されている。重要な情報は多いが、アオイが怒っているのはやっぱりそんなことに対してじゃない。


 アオイが怒っているのは、オレが勝手に大事なことを決めたから。『フロイト』を、『八人目』の候補を、『ミコタアケコ』を救うと決めたからだ。


 無論、この決意について知っているのはオレと局長の2人だけだ。

 リサも谷崎さんも意識を失っていたからそこら辺のことは聞いていないし、局長がわざわざアオイにそれを伝えることもまずありえない。


 だというのに、アオイは間違いなくオレの変節に気付いている。

 

「……先に聞きたいんだが、なんでわかってるんだ?」


「そんなもの、起きた時の顔で分かりますよ」


「…………そんなにわかりやすいか、オレ」


 ……一目でわかるほどに表情に出ているというのはよくないかもしれない。しかも、そんな深い事情まで読まれている。

 一応、今回の一件で解体局の日本支部理事にまでなってしまった身の上だ。もっとこう、威厳のある感じで無表情なキャラを作っとかないとダメか……?


「バカな人。私だからわかるんですよ。なにせ、妻ですから」


 ………そう言われると問答無用な説得力があるから困る。

 そもそもアオイの直感はオレの未来予知なんかよりもよっぽど的中率が高いしな。


「さ。観念して話してください。だいたい私に言えないようなら、ほかの誰にも言えないでしょう」


 おまけにこうして背中を叩かせてしまうのだから、とことん情けない。

 でも、さすがはアオイだ。こうまで見抜かれてしまうとこっちとしても取り繕う余地がない。


 なので、オレはあらいざらいをアオイに話す。

 『ミコタアケコ』の正体とその経緯。叔父上との関係性に、オレの決断。本当なら目覚めてすぐに話すつもりだったが、一度話し始めると自分でも意外なほどに言葉がでなかった。


 あの場で起きたことに自分でもまだ整理がついていないのか、あるいは、後ろめたさゆえか。そのどちらにせよ、話し終えるころには沈みかけた日が完全に顔を隠してしまっていた。


 その間、アオイは一言も発さずにオレの話をただ聞いていた。

 驚きもせず、怒りもせず、さりとてオレを急かすこともなかった。まるでそうすることが自分の役目であるかのように彼女はただ静かにオレの話を聞いてくれた。


 そうして、オレが話を終えてから、アオイは瞼を閉じてこう言った。


「言いたいことは、それで終わりですか?」


 だが、発せられたのはオレの想定にはない一言だった。

 思わず面食らう。怒るでも攻めるでもない、むしろ、悲しむような声色に心がへし折れそうになる。


 でも、わからない。

 オレは洗いざらいを話したつもりだ。確かにオレは勝手にミコタアケコを救うと決めてしまったが、それに対して怒りこそすれ、悲しむいわれはない、と思う、たぶん。


「まったく。貴方はいつもそうです。身勝手なうえに、妙なところで察しが悪い」


「す、すまん……」


 今度こそちゃんと怒られる。

 確かに今回の件は身勝手だし、鈍い分野もあるが、具体的にはどこがまずかったのかは聞いてみないと分からない。


「私に言っていないことがあるでしょう。それとも、ことここに至っても秘密にしておくつもりですか」


「い、いや、そう言われても、何のことだかオレには分からない。ちゃんと言ってくれないと分からない」


「それはこっちの台詞です」


 すっと目を細めるアオイ。彼女はそのまま腕を組み、それからため息を吐いた。

 何かを決めた時のアオイの仕草。彼女がこうと決めた時はいつもこの後に決定的なことを述べるのが常だ。


 ……まさかオレがその対象になるだなんて思ってもみなかったけど。


 しかし、オレの秘密か。こうして言われて思い当たるのは1つしかない。でも、それをアオイに、彼女たちに明かすのはあまりにも――、


「――いいでしょう。どうしても言う気がないのなら、こちらも切り札をきらせていただきます」


 怯えるオレに、アオイは考える間を与えてくれない。


 彼女が懐から一枚の書状を取り出す。その包み紙には達筆な文字でこう書かれていた。

 『果たし状』と。


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