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成り行きまかせの人形使い  作者: リオングレオ
18/19

18 異端の力


テラと涙の別れの後朝食を取った。アルクスは僕に作れと丸投げしてきた。料理は得意というわけではないが、そこそこできる。母親と姉の、男だって家事をやって当然!という主張の元コキ使われたからだ。因みに、親父はまったくやらない。僕が母親や姉の奴隷…ゲフゲフ、手伝いをやらされてる間、ヤツは気配を消して隠密行動をしていたのを僕は知っている。

 

 朝食作りを気楽に了承して、キッチンに入った。だが。当たり前だがオール電化ではない。ガステーブルもなく、釜戸が二つと作業をするための台があるだけなのだ。この世界の文化レベルは中世あたりなのか。鍋や包丁といった道具はそこそこあるが、水道も無く、台の横の大きな瓶に外の井戸から汲んできた水が溜めてある。何をどうすればいいのかサッパリわからなかった。

 聞けばこの一週間、朝食はほとんどセバスが作っていたそうだ。なんだか、どんどん器用になっていってるようで、アルクスに言わせれば僕よりよほど役に立つそうだ。

 使い方をセバスに教わりながら、パンとワイバーンの肉とタップリ野菜のが入ったスープという普通の朝食をなんとか作りあげた。

 アルクスに、遅い!と怒られたが、味はまぁまぁだった。


 「薪割りはセバス達に任せて、おぬしにはちと話しがある」


 朝食の後、今日のノルマの薪割りに行こうとした僕をアルクスが引き止めた。なんだセバス達に任せて良かったの?最初からそうしてくれればよかったのに。昨日まで毎日手を豆だらけにして割った努力はなんだったんだよ。


 「腑抜けとったおぬしにできる仕事なんぞ、薪割りくらいじゃろうが。それすらも満足にできとらんがの。1日分の薪を一週間かけて割よって」


 不満を口にした僕を呆れた目で見てきた。斧なんて初めて持ったんだから仕方ないだろう。学校で行ったキャンプでは既に割った薪が用意してあったんだからな。

 ついて来いというアルクスに従って行くと、この前の魔石が大量にあった部屋へ連れていかれた。相変わらず圧巻の量だ。前回はテラのことがあったのであまりじっくり見られなかったので、もう一度来たかったのだ。

 アルクスに促されるまま魔石の棚のジャングルの奥に行くと、そこには大きな窓があった。窓の外には青い空と美しい森の風景が広がっていた。


 「あれ?ここ地下じゃなかったか?」 


 この小屋は山の斜面に、30センチほどの高さの石垣のような基礎の上に建っている。大きさはハ〇ジに出てくる山小屋程度で、小屋の屋根の半分から突き出た赤い尖んがり屋根が特長だ。

 小屋正面の三段ほどの階段を上がった先にあるドアを開けると、教室ほどの吹き抜けのホールになっている。そこで違和感に気づく。何かの魔法なのか、小屋の大きさのわりに中が広すぎるのだ。ホール奥の左端に梯子のような階段がついていて、2階につづいている。2階は尖んがり屋根部分なのだろう円形になっていて、中央の螺旋階段を囲むように部屋が3つある。僕はそこの1部屋を貰っているのだ。

 ホール正面には扉が3つ並んでいて、階段に隠れるようにある左側の扉はトイレ、右側には桶や斧がしまってある納戸だ。中央の両開きの大きめのドアを開けると廊下になっていて、左右の壁にドアが一つづある。右側にはアルクスの部屋が、左側は[調合部屋]と呼んでいるアルクスが薬を調合する部屋になっている。廊下の突き当たりには居間兼食堂があり、居間の左側一画に台所があるのだ。

 作られてだいぶ経つのか、壁や床に使われている木は黒に近い灰色で明かりもなく薄暗いのが難点だが、広くて快適な小屋だった。

 魔石のある不思議な部屋はアルクスの部屋の横、居間寄りにある黒い扉から入った地下にある。扉といってもノブはなく、言われなければただの壁に見えた。現に僕はアルクスに連れていかれるまで、そこに扉があるのに気付かなかったのだ。


 「この小屋は3千年生きたキングトレントを使ってドワーフが作ったものじゃ」

 

 ドワーフが作る物には不思議がつきもので、その上、木の魔物トレントの上位種であるキングトレントが持っている空間魔法も作用して、外観よりも広い空間が出来上がったのだとか。けれど、ドライアドのように時間まで外と違うわけではなくただ広いだけらしいが。


 「へえ。だからこの地下もこんなに広いのか」


 窓際にあるテーブルと一緒に置いてあった椅子に座りながら眺めた窓の向こうの森は、木々が風に揺れ空には鳥すら飛んでいた。

  

 「いや。この地下(ここ)は上とは事情が少し違うんじゃ。それより、おぬしに聞きたいことがある」

 

 アルクスはテーブルを挟んだ向かい側に座って、いやに真剣な顔を向けてきた。


 「リンタローおぬし、魔石の使い方は誰に教わったのじゃ?」


 「え?リーラに…。え~と、最初は遺跡近くにいたドライアドにだけど…。あとは何となくかな」


 テラはセバスの時とは与え方が違ったが、なんとなくこうすればいいと思い浮かんだのだと説明した。たぶん、もう一度あのような場面に遭遇しても同じようにできるだろうと、何故だか確信している。

 そうだ。魔石を使った治療師なんてどうだろうか。テラのような危篤状態でも治せるのだ。おそらくだが、部位欠損も治せる気がする。

 僕はこの世界で生きて行くことを決心したが、ずっと森の中で過ごす気はない。いつかは人里に行ってカワイイ彼女でも作って結婚して、こちらの世界の住人として普通に生を終えたい。いや、その前にこっちに一緒に来た連中の消息を訪ねるのが先か。せっかくの異世界なんだ、あちこち旅をするのもいいよな。

 人生を謳歌するためにはやっぱり仕事がないとな。馬車に揺られ、病気や怪我をした人達を治療しながら町から村への放浪の旅。ロマンだ。

 久々に僕の固有スキル[呑気者]が発動したのか、将来の展望が見えてきて、なんとなくワクワクしてきた。

 けれど、ドラゴンすら棲息している世界だ。自衛手段がないとアッサリ死ぬだろう。剣は……無理だな。これから修業しても、ゴブリンですら倒せるようになるには相当時間がかかるだろう。キングレッドボアと戦えるようになる頃には僕は爺さんだ。以前倒したキングレッドボアはリーラが力を貸してくれたんだし、剣に希望は持てない。

 そうなると、やっぱり魔法だよな。魔力はそこそこあるようだし、色々な魔法を駆使する治療師なんて、カッコイイよくないか?

 そして、僕の目の前には自称だが魔女がいるのだ。


 「ばあちゃん。僕に魔法を教えてくれ!」


 「なんじゃと?」


 いきなり叫んだ僕に面食らっているアルクスに、僕は将来ビジョンをちょっと照れながら語ってみせた。最後まで話しを聞いていたアルクスは、途中、何故かものすごく驚いた顔をして、最後には呆れ返った顔してため息をついた。


 「無理じゃ」


 一刀両断された。


 「なんで!?」


 「確かに、おぬしは尋常ではないほど魔力を持っとる」


 そうなの?それもやっぱりチート能力なのかな。ちょっと嬉しいよな。


 「じゃが、おぬしに魔法の才は無い」


 「エエッ!」


 衝撃の事実だ。魔力はあるのに才能が無いってなんだよ。

 聞いてみると、この世界の生物にはそれぞれ生まれ持った属性があるのだとか。炎の属性を持っている者は火の魔法が使え、風属性なら風魔法ということになる。属性を複数持って生まれて、魔法も複数使える者ものもいるそうだ。持っている魔力にもよるので、必ず魔法が使えるというわけではないが概ねそんな感じなのだとか。そして、その属性に添うものを認識しイメージして魔法は発動する。僕にはその属性が無いのだそうだ。

 つまり、僕は満タンの充電池みたいなもので、それを使うスマホや携帯のような端末を持っていないということだ。


 「……全く使えないのか?」


 「うむ。ゼンゼンじゃ。いっそアッパレなくらいじゃな。そもそも属性が無いというのは、そうとう珍しいんじゃよ」


 「で、でも、僕の世界の考えじゃ、無属性でも使える魔法があるって…」 


 「そうなのか?しかし、火や水のような五行でもなく、光りでも闇でも時空でも無い何か、のう。そんなもの、おぬしの世界ではどうイメージするのじゃ?」


 できないよな。よく考えてみれば、見えない感じない触れない、時空のように概念すら無い何かってなんだよ。イメージ出来るわけがない。

 将来の展望に暗雲が立ち込めてきた。いや、諦めるな。ならば治療師として稼いで、そのお金で自警団を創るってのはどうだろうか。最初のロマン溢れるビジョンから一気に転落して、白い巨塔で踏ん反り返るチョビ髭はやしたイメージが頭を()ぎる。待て、血迷うな僕。これじゃ悪徳医師じゃないか。


 「落ち込むのは早いぞ。使えないのは普通の魔法じゃ。魔力を使う方法が無いわけではない」

 

 妙な空想をして頭を抱えていた僕は、アルクスの言葉に顔を上げた。

 魔法ではない魔力を使う方法?だから、それって治療師じゃないのか?そう言うと、いやに真剣な顔で首を横に振った。


 「それはやってはならん」


 怖いほどの気迫を込めてアルクスは告げた。

 ダメって治療師か?


 「どうして?瀕死の人とかを助けられるかもしれないんだぞ?」


 「………それは異端なんじゃよ」


 魔石は魔物の核であり、魔力の結晶だ。魔物と動物は同じ世界に住んでいるが、異質なのだ。ある者は動物のようにタマゴや同種の雌の腹から生まれてくる。ゴブリンなオークのように異種族の雌を襲い仔を成す魔物もいる。ある者は、魔素溜まりから自然に湧き出てくる。そしてまたあるものは、生きものが死した後に本人の念と魔力で魔物化する。花ちゃん達アルラウネのように上位の魔物によって魔物にされる者もいる。雌雄が存在せず、固体を増やすのに自らの魔力を使い、生殖を必要としない魔物もいるのだ。そして[死]の定義も魔物ごとに違う。

 生と死の法則が一定ではないのだ。これは、生物の(ことわり)からは大きく外れている。その肉を食ったり部位を利用することは出来ても、全く別の存在(もの)なのだ。


 「魔石を道具として使うことはできるが、変異させて他生物に移植なんぞ、本来は出来ないんじゃよ」


 「でも、テラには…」

 

 「だから、異端なんじゃ」


 生と死のプロセスが違うものを融合させる、それは魔物でも動物でもない別の生物を創造したのと同じ意味を持つ。


 「その力は神の領域じゃ」


 魔物と同じくらい長命なギガントスのテラだったから良かったが、普通の動物や人間に移植したらどんな影響があるかわからない。だから、やってはならないとアルクスは言った。

 そうか、神の力か。やったスゲ~!なんてとても思えない。生物の創造?重た過ぎて逆に引く。


 「セバスはお前が魔石から創ったのじゃったな?そして、レッドボアの魔石を食わせたら傷が治り、進化したと」


 アルクスはいきなり話題を変えて来た。確かにセバスは、遺跡にあった魔石らしき石に魔力を込めたら翌朝埴輪になってた。あまり自覚は無いけど僕が創ったんだよな。そして、戦いで傷ついたセバスにレッドボアの魔石を与えたら、身体が大きくなり少し知性がついた。全体的に能力が上がったようで、剣を使いこなす器用さもついた。そういえば、この前のワイバーン戦の時、襲いかかって来たワイバーンをジャンプして空中で一刀両断してたよな。

 僕が頷くと、アルクスは我が意を得たりと目を光らせた。


 「それじゃよ」


 「は?どれ?」 


 「おぬしは魔力を変革させて、別の何かと融合させる能力があるんじゃ」

 

 そう言うと立ち上がり、窓の一画に手を充てると映っている風景を切り取ったように口が開いた。まだ奥があったのか、アルクスはその中に入って行った。しばらくすると、アルクスは複雑な文様が彫られた木の箱を1つ持って出て来た。

 テーブルの上、僕の目の前に置いてゆっくり蓋を開けると、野球の玉くらいの、おそらく魔石だろう物が布に巻かれて入っていた。


 「……これは?」


 「ドラゴンの魔石じゃ」


 ドラゴンの?意外と小さいんだな。アルクスが手に取り、布を取り去ると中からオパールのような美しい魔石が出てきた。それを僕に差し出してきた。


 「これをセバスに融合させてみい」


 「え?」


 「これは、まだ幼竜だったドラゴンのゆえ小さいが、神竜の魔石じゃ。セバスに使えば全属性魔法が使えるかもしれん」


 ドラゴンにも属性があり、紅竜や青竜などそれによって種族が異なり、能力や姿形、色が違うそうだ。神竜とは、それぞれの属性竜の中に極稀(ごくまれ)に突然変異のように生まれ出る。全属性と無限に近い魔力、それに他のドラゴンよりも高い知性を持った固体のことをそう呼ぶのだそうだ。たいていは一族を率いる(おさ)になる。


 「そ、そんな珍しいもの、使っていいのか!?」


 「なに、仕舞っておいてもなんにもならん。何かに姿を変えて再び動き回れる方がこやつも幸せだろう」


 アルクスがあまりに強く進めてくるので、僕は思念でセバスを地下へ呼んだ。

 僕の前に立ったセバスは相変わらず、目と口の場所に3つ穴が空いているだけのマヌケ…ゲフゲフ、愛嬌のある顔で僕を見上げている。セバスだけ呼んだのに、いつもの好奇心でビーネまでくっついて来た。絶対に邪魔するなよと言い含めて僕の頭の上に止まらせた。


 「今からこの魔石をお前に融合させる。そしたらもっと色々なことが出来るようになるかもしれない。いいか?」


 「……ポピッ!」


 アルクスから受け取った魔石を見せながら言うと、色々なことが出来ると言ったとたん、とても嬉しいそうな感情が流れてきた。

 期待に満ちた感情を受けると、僕もなんだか嬉しくなってきた。早速やってみるかと、魔力を込めるために魔石を両手で握る。するとアルクスから「待て」と止められた。


 「ただ魔力を込めるのじゃなく、どんな者になって欲しいのかを思い浮かべるんじゃ。イメージじゃ」


 なるほど。ただ力を込めるだけじゃなく、理想を目一杯込めてみるか。僕は改めて魔石を握り直し、力を集中するために目を閉じた。

 頭の中に、あらゆるゲームや小説の魔法、戦士に忍者、果ては戦隊モノのヒーローまで思い浮かべてしまった。思考が暴走して、アメコミヒーローやル〇ン三世、セバスの名前の由来になった姉の漫画の執事まで思い浮かべた時には、さすがに自分にツッコミを入れたが。


 やがて、テラに使った魔石の時のような鼓動を手の中に感じた僕は床に膝をつくと、左手でセバスの肩を掴み、右手に持った淡く光る魔石をセバスの心臓付近に充て、そのまま押し込んだ。

 キングレッドボアの魔石は食わせたが、今回は何故かこの方法がいいと思ったのだ。

 魔石は何の抵抗もなくスルリと入って行った。胸から広がったが淡い光りがセバスを包んだ。その瞬間、セバスは大きく大きく目を開き硬直する。そして、そのまま倒れてしまった。


 「セ、セバスッ!失敗したのかっ!?」


 「落ち着け。神竜の魔石なんじゃ、身体に馴染むまで時間がかかるのじゃろう」


 自然と目が覚めるまでそのままにした方がいいだろうとアルクスに言われて、ホッと肩の力を抜いた。




 「そういえば、セバスはなんの魔石だったのかな」


 倒れたセバスを僕の部屋へ連れて行って寝かせた後、もう一度地下に戻ってきてから、疑問に思っていたことを聞いてみた。


 「おそらくヒュドラじゃ。それも上位種エンペラーヒュドラじゃな」


 意外とあっさり正体が判明してしまった。ヒュドラって、9つの頭を持つという蛇の化け物だよな。聞けば、この世界のヒュドラも地球産と似ていて、頭を切り落としてもまた生えて来るという再生能力を持っていたらしい。セバスはそんな危ない魔物の核で出来ているんだな。

 ただ、上位種のエンペラーヒュドラには地球産とは決定的に違う部分があった。知性を持ち、他の生物に変化(へんげ)できる変身能力を持っているのだ。

 

 エンペラーヒュドラは、かつてこの地に住んでいた古代の人間に殺された。古代人達は魔石を取り出し、彼を滅ぼした宝剣と共に神殿に奉ったのだそうだ。

 セバスが持っている剣が実はその宝剣なのだそうた。なんの運命なのか、セバスは自分を屠った剣を武器にしていたのだ。


 「おぬしの膨大な魔力を浴びて、ヒュドラの持つ再生能力が発動した結果セバスは誕生したんじゃな」


 なるほど。…あれ?でも、そうなると僕は魔石を使って生命を造ったってことじゃないのか?さっきアルクスが散々[異端]だと言っていた神の力なんじゃないのか!?そう言うと、アルクスは首を横に降った。セバスは生命ではないと。


 「生命とは、子でも己の分身でもいい、次代に命を繋ぐ者のこと。セバスは命を繋ぐことは出来ん」


 「だったらセバスは何なんだ?」


 「傀儡(くぐつ)じゃ。学習能力も思考能力もあり、命令がなくとも独自で動き回ることが出来るが、(しゅ)を殖やすことは出来ない。どこまでいってもただの人形じゃよ」


 


 


 

 

 


 

 

 

 


 


 


 


 


 


 

  

 

 


 


 


 

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