19 魔道具制作
アルクスとの会話を終えた時はちょうど昼になっていた。スープとパンで簡単に昼食を終えた後僕は、庭の隅で魔道具作りを始めた。
目の前の台の上には地球から持ってきた15cmほどの着火マンと赤い小石大の炎の魔石が1つ。これを改良融合させて、火を着ける魔道具を作るのだ。
神竜の魔石を融合させたセバスはまだ目覚めない。薪割りは花ちゃんがやってくれている。僕がやると時間がかかるだけでまったく成果がないので、アルクスに違う仕事をしろと言われたのだ。
それならせめて昼食を用意しようと、朝の残りのスープを温めようと着火マンを使ったのだが、ついに燃料が切れてしまった。その時に魔道具作りはどうだろうと思いついたのだ。火種にしようと思っていた蚊取り線香はこの前ワイバーンを追い払うのに使ってしまった。残っていた使いさしのものは「異世界の魔道具じゃな!?」と、小屋に来た初日にアルクスが大喜びで持って行ってしまっていた。着火マンにも食いつきそうだが、魔法が使えるアルクスには、火を着けるだけの道具は興味の対象にならなかったようだ。
僕に魔法は使えない。代わりにと渡してもらった火打ち石らしきものを使ってみたが、何十回打ち合わせても小さな火花はでるが、火を着けることはできなかった。
アルクスは、僕の能力は魔力を変質させて何かと融合させることだと言っていた。だからひょっとしたら地球から持ってきた着火マンに炎系の魔力の魔石を融合すれば、魔道具になるかもしれないと考えたのだ。
「さて、では今から作業を始める」
ちょっと気分を出して厳かに宣言してみた。僕の宣言に、台の周りに興味津々で集まった花ちゃんとビーネ達がハーイと手を上げた。
作業といっても、魔石に魔力を込めて融合するだけなんだけどね。
僕は右手に魔石を掴み魔力を込める。着火マンの基本原理は火打ち石と同じだ。燃料に電気の火花で着火させる。だが、ここは魔法の世界だ。科学の原理ではなくイメージが大事なのだ。ワクワクとした気分で魔石を握った。しばらくするといつものように魔石から鼓動を感じた。その瞬間に左手に持った着火マンに融合させる。一瞬淡く赤に光り、後にはうまく融合できたのか、元の形より少し大きくなって台の上に鎮座していた。
手にとったそれは、重さはさほど変わってないが、プラスチック製だった赤い本体が、色はそのままで半透明の水晶のようになっていた。ノズルは黒く、元のより少し延びて太くなったようだ。着火レバーは拳銃のトリガーのようになって、なんだか着火道具というより武器のようだ。
「ま、まぁ、カッコ良くなったよな。よし!試してみよう」
花ちゃん達に手伝ってもらって、台から少し離れたところに焚火の準備をした。
「できたのか?ほう。それがおぬしが作った魔道具か」
僕の世界の道具とこの世界の魔石を融合させて作った魔道具には興味があるのか、アルクスが様子を見に来た。
「おう!なんかカッコイイだろ?」
始めてにしては綺麗な道具ができたので、拳銃のように片手持ってカッコつけてみた。トリガーガードに指を入れて回してみたいが、そこまで器用じゃないんで止めておいた。
そして、「こんなカンジで使うんだ~」と笑いながら、顔の横で何気なくトリガーを引いた。
その瞬間、空中に向かって火柱が上がった。僕の髪を少し犠牲にした炎は銃口より何故か大きく、上空数十メートルに音を立てて上がったのだ。
「うわわわっ!」
慌てて僕は着火マンから手を離した。花ちゃんとビーネ達は一瞬にして僕の周囲から離れ、森の木々の後ろに隠れた。
「リンタロー、おぬし森ごと焼く道具を作ったのか!」
「ち、違うよ。そんなワケないだろう!」
小さな魔石を融合しただけなのに、なんでこんかに凄い火力になるんだよ。僕が燃えた髪を気にしつつ首を傾げていると、アルクスの叱責が飛んできた。
「馬鹿者っ。魔石の容量一杯に魔力を込めるヤツがいるか。込める魔力を調節せい!」
そんなこと言われても、魔力調節なんて初めて知ったよ。魔石が鼓動するまで込めたらダメだってことなのか?今はこの魔石の最大値で着火マンに定着したからあんな尋常じゃない炎があがったのか。
「あんな小さな魔石なのにあんな力があるのか。もしかして、貴重な魔物の物なのか?」
「あれは火鼠の魔石じゃ。特別なものではないわい」
火鼠とは、僕が以前遭遇し花火で撃退したリスに似た魔物のことだ。火鼠は火属性ではあるが魔力が少なく火を吐くことはない。普段はただの(?)肉食のリスだ。追い詰められ逃げ場を失った時に、全身火の玉になって敵へ突っ込む習性があるそうだ。残った力全てを使って全身に火をつけるので、もちろん本人も助からない。まさに破れかぶれの特攻をするのだ。
本当にこの世界の生き物が花火を知らなくて良かった。下手をすれば僕もその炎の弾丸をくらっていたかもしれない。
僕はつまりこの魔石を、特攻時に出す火事場の馬鹿力の状態にしたらしい。それを僕の魔力で更にレベルアップしたせいであの巨大な火柱だ。
「ま、魔力を調整すればいいんだろ?」
できるかな。着火マンを持って集中してみる。すぐに感知できた力は、僕が変質させたせいなのか、荒ぶってはいるが鼓動と魔力に親しみを感じる。ごうごうと渦巻くような流れを撫でるように鎮める。余分なものを削り、美しい結晶になるように。やがて、着火マンはさっきよりも赤い部品が透き通るような色になり、ノズルも短く細くなった。
「これで大丈夫なはずだけど…」
「くれぐれも、森にむけるでないぞ。小屋にもじゃ!」
試すために僕がさっきと同じようなポーズを取ると、アルクスはガミガミと注意してるし、花ちゃんやビーネ達は遠巻きに木の影からこちらを不安そうに見てくる。僕も、さっきのように髪を焼かれるのは勘弁願いたいんで、ちょっとだけ身体から離してトリガーを引いた。
カチッ。小さな音と一緒に出たのは普通の着火マンから出る炎だった。思わずガッツポーズをして歓声を上げた。
「よし。大成功だ!」
「……なにが大成功じゃ。まったく。火を着ける魔道具一つ作っただけで、寿命が縮まったわい」
アルクスがぶつぶつと何か言っていたが、僕は初めてできた魔道具が嬉しくて仕方なかった。この世界で出来る事があると思うと力が湧いてくる。こんな魔物がいる世界で、剣も魔法使えない。図抜けて運動能力が高いわけでもないので、格闘技なんてのも無理だ。魔石を治療に使えば人を人外生物にする虞があるというので使えない。[役立たず]になるのが何より怖かったのだ。けれど魔道具を作れるなら、誰かの、何かの、役にたてるかもしれない。
「これからガンガン魔道具を作るぞ!」
もっと魔力調整をうまく出来るようになって、便利な物を作ろう。
魔改造着火マンが危険な道具ではなくなったと理解したのか、花ちゃん達が近寄って来て怖々触れていた。
僕の世界の便利な道具を作ると言ったら、興味を持ったアルクスが使う魔石を提供してくれるという。
「ただし、未整理の魔石を整理するのが条件じゃ」
俄然やる気になって花ちゃん達とハイタッチを交わしている僕にそう言い、再び地下に引っ張られ、あの魔石部屋の隣のドアの前に連れて行かれた。
ドアをくぐって中を見た僕は唖然とした。広さは魔石部屋と同じくらいあるだろう。けれどそこには魔石部屋よりも膨大な魔石があったのだ。天井高く部屋中にギッシリ無造作に積まれた箱に、大小様々な魔石が入っていた。部屋全体がホコリっぽく、箱に入りきれずに放置されたものが床に小山をいくつも作っていた。まさに、取って来たものをただ放り込んだだけといった具合だ。
「ば、ばあちゃん、こんなに魔物を殺したのか!?」
「バカモノっ。ワシはどんな殺戮者じゃ!」
僕の疑問を高速で否定したアルクスは、ここにあるものはほとんど森で採集したものだと説明してくれた。魔物がなんらかの事情で死ぬと肉は他の生き物に食われるが、魔石は残ってしまうのだそうだ。小さいものならばそのままにしておいても自然に消滅するが、大型の魔物のものを放置しておくと、澱んだ魔素を吸収し瘴気を放つようになるのだとか。
「こんなサイズでもマズイのか?」
自然消滅できるのはこれよりも小さいものなのか?足元に落ちていたビー玉ほどの大きさの青い魔石をつまみ上げて掲げて見せた。そのとたん、アルクスはサッと目を逸らした。どうやらこれは放置しておいても問題ないサイズらしい。僕はコブシ大の魔石を拾ってもう一度聞いたが、目を逸らしたままだった。
「……なら、これは?」
更に大きなソフトボール大の物をゆび指してみたが、やはりこちらを向かなかった。この部屋の大半の魔石はこのサイズ以下なのにだ。
「ほとんど自然消滅できるんじゃないかっ。なんでこんな量になるんだよっ!」
「素材じゃっ。いつか何かに使うかもしれんじゃろうがっ!」
色んな物をあちこちから拾ってきて自宅をゴミ屋敷にする人間の常套句だな。どうやら見つけた魔石は全て持ち帰っていたようだ。出会った当初から思っていたが、なんて業強く張りのばあちゃんだ。
「と、とにかくじゃ。おぬしの魔道具作りに、わしのコレクションを使わせやると言っておるのじゃ。条件は未整理の魔石の整理整頓じゃ!」
僕の視線に耐え切れなくなったアルクスは、開き直ったように言い放った。
まぁ、魔石をもらう立場の僕に文句は言えないんだけどね。実際、小さい魔石の方が道具にしやすいだろうから、アルクスの業強く張りも無駄じゃないってことだ。
「わかった。ありがたく使わせもらうよ。けど、この量じゃ仕分けするだけでもかなり時間がかかるぞ?」
「うむ。それはゆっくりで構わん。おぬしが死ぬまでに出来れば良い」
素直に礼を言えば、とんでもない返事が返ってきた。死ぬまで?魔石整理に生涯かけろってか。いくら僕がノンビリ屋でもそんなに時間かけるわけないだろう。それに僕は、いつか人里に行って可愛いカノジョを見つけるのだ。そう講義しようと口を開いたところで、アルクスからさらなる爆弾を落とされた。
「ここと同じ未整理の魔石が詰まった部屋があと500ほどあっての」
「………………なんだと?」
この部屋みたいなのがあと500?僕は慌てて廊下に飛びだし、隣の部屋のドアを開けた。果たしそこは本当に魔石だらけだった。最初に見た魔石部屋と広さは同じだが、無造作にただ放り込んだだけの雑然とした部屋だった。壁と天井が見えなくらいギッシリと木の箱が積まれ、中には魔石が満載されていた。更に開けた隣の部屋にも、その隣の部屋にも同じくらいギッチリ詰め込まれた魔石を見て僕は膝を付いた。
「……いや、採集したはいいが、ホレ、わしも色々忙しくての」
ガックリうなだれる僕を見てさすがに何か感じたのか、アルクスが言い訳しだした。
「そ、そうじゃ!魔道具を作るのに魔石以外の素材も必要じゃろ?」
顔を上げない僕を慮ってか、アルクスがポンと手を付いて声を上げた。そして、跪いてる僕を無理矢理立たせて、魔石部屋の向かい側のドアの前まで引っ張って行った。
「魔物や動物から剥ぎ取った素材もあるんじゃ」
そう言って開けた部屋は、やはりちょっとした体育館くらいの大きさがあった。中央部分には魔石部屋のような棚がズラリと並んでいて、置いてある木の箱の中には牙や爪、骨に角、毛皮などが見えた。壁際には大型の魔物のものなのか、天井近くまである骨や角や皮などがあった。
「どうじゃ。なかなかのコレクションじゃろ?」
僕は魔石部屋以上に衝撃的な光景に放心して声もなく眺めていた。その沈黙を感激してると勘違いしたのか、アルクスが素材を手に持ってどこか得意げに掲げていた。
「……………た、確かにスゴくてありがたいが。これは…」
「そうじゃな。この素材を使う条件も整理整頓でどうじゃ?」
また整理整頓?嫌な予感しかしない。
素材部屋の隣の扉を開けて「未整理の部屋じゃ。好きに使って良いぞ」と言いだした。案の定そこはカオスだった。箱にただ放り込んだだけの鱗や骨。先日僕が腕輪に入れて運んで来たワイバーンやワニの皮。昨日採集したんだろうギガントスの毛。その他の素材がまさに山積み。
「目玉や臓物、毒物なんぞは別にしてあるがの。そうそう。鉱物なんかもあんじゃぞ」
コレクション自慢をできるのが嬉しいのか、アルクスは嬉々として話しを進めていく。
「神竜クラスの素材を使う時は一言断って欲しいが、それ意外は好きに使って良い。ただし、整理整頓が条件じゃがの」
どうだスゴイだろうと言うような顔でにこやかに言うアルクスに、言い返す気力は僕には残っていなかった。ただ、聞きたくはないが聞かなきゃならないことがあった。
「………整理整頓が必要な部屋ってどのくらいあるんだ?」
「はて?1万じゃったか2万じゃったか。わしもよくわからん」
「………ま、万」
僕は再び膝を付いた。この地下は一体どうなってるんだよ。これは100回生まれ変わっても整頓できる量じゃない。
「少しづつやっていけばいつか終わるじゃろ」
それをやらなかったからこの惨状なんだろうが。
カラカラと笑うアルクスを見て思う。このばあちゃん、何年生きているんだろうと。見た目は70歳くらいだが、その年数でこの素材の量はありえない。
「………ばあちゃん、いったい歳はいくつなんだ?」
「ばかものっ。れでぃに歳を聞くんじゃない。ナイショじゃと言っただろうが!」
なにが[れでぃ]だよ。憤慨しているアルクスを見ながら僕は魔女=魔物だと確信した。




