第13話 その後
「終わったぁ!!!」
天国!とばかりに伸びをする寿々菜に友香は苦笑した。
「普通の生徒はもうとっくに『終わった』よ。終わってなかったのは追試組だけ」
「・・・」
そう言われると寿々菜としてはぐうの音もでない。が、とにかく追試が終わったのだ!これで心置きなく遊ぶことができる!
しかも今回は友香が「追試前に色々迷惑をかけたから」と言って寿々菜の追試対策にみっちり付き合ってくれた。まあ、それは寿々菜にとってはありがた迷惑というものなのだが・・・。
「何言ってるの。追試で落ちたら本気で後がないよ」
「分かってます。感謝してますよ、友香様」
「よろしい」
友香はわざと大袈裟に頷いた。
長谷川円香の正式な逮捕から2週間、大谷翼の逮捕から10日が経っていた。長谷川円香の自白は、友香が父親の形見代わりに取っていたタイガースの法被についたDNAと死んだホームレスのDNAが一致したことにより、立証された。
また大谷も、3人の高校生がホームレスを暴行しているのに出くわし、「ホームレスなんてどこの誰だか分からないんだ。殺したって誰にも訴えられないから罪にはならねーよ」と吹き込みナイフを渡した、と自白した。興奮状態の高校生達は大谷の口車に乗ってしまい、ホームレスを殺してしまったのだった。
高校生達は逮捕直後から「見たことのない奴に煽られてナイフを渡された」と言っていたが、警察は半信半疑でまともに捜査しようとはしなかった。しかし友香が「彼氏の携帯に、ホームレスが暴行されている動画が入っているのを見てしまった。彼氏の『殺しちまえよ』という声も入っていた」と警察に証言したことで、大谷の存在が明るみに出た。
殺されたホームレスが実は死んだはずの父だったこと、その父が10年前に人殺しをしていたこと、母もそれを隠していた為逮捕されたこと、そして彼氏が父の殺害に大きく関与していたこと・・・今回の事件は友香にとって辛すぎる結末だった。
しかし友香は逞しい。
「ねえ、寿々菜。今回の教訓はなんだと思う?」
寿々菜の「感謝」を形にしてもらうべくコンビニに向かいながら友香が訊ねる。
「うーん、なんだろう。男は簡単に信じるな、かな」
「あはは、寿々菜らしくないね。でもハズレ」
「じゃあ何?」
「彼氏の携帯は勝手に見るべからず」
「なるほど」
だが寿々菜はふざけながらも友香の将来を心配していた。友香は普通に働き、結婚できるのだろうか。父が人殺しで母も犯罪者、となればそれはとても難しい気がする。
「あ、メールだ」
と、友香が携帯を開いた。
「新しい彼氏?」
寿々菜は不安を払拭するように、わざとまたふざけた質問をする。ところが。
「うん」
「えっ!?はやっ!」
「なーんてね」
友香がいたずらっ子っぽく舌を出す。
「でももう少ししたら彼氏になる予定の人から」
「・・・モテるね、友香」
この分だと将来の心配はしなくて大丈夫かもしれない。ところが、ところが。
「KAZUよ」
「はい?」
「この前の続きを話したいから会おう、だって。OK・・・っと。よし、送信」
「ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って!今、KAZUって言った!?」
「うん」
「この前の続きって何!?」
「KAZUがね、どうせお前はもう普通の人生歩めないだろうからいっそ芸能人になったらどうだって。事務所の所長さんにも私の写真を渡して話してくれたらしいんだけど『黒い過去を持つアイドル!いいねえ、かわいいしアイツよりは売れるだろう』だって」
「アイツって誰?」
「スゥ」
寿々菜の芸名である。
「ダ、ダメ!ダメよ、友香!絶対ダメ!!!」
「どうして?」
「友香だったら本当に私より売れちゃうもん!!!だからダメ!」
「・・・プライドの欠片もないわね」
「それに彼氏になる予定の人って何!?友香、和彦さんのことなんて全然好きそうじゃなかったじゃない!」
「もう爽やかな人は懲り懲り。でもKAZUはテレビじゃ爽やかだけど実際は自分の言いたいことズケズケ言うでしょ?裏表がなくって素敵じゃない」
・・・アレを裏表がないと言うのか、斬新な解釈だ。寿々菜ですら首を傾げてしまう。が、とにもかくにも友香がライバルなんて勝ち目がなさ過ぎる!
「人の過去なんて気にせずに、その人そのものをちゃんと見てくれそうだし。がんばろーっと」
「頑張らないで!」
「そういう訳で寿々菜、今から門野プロダクションに行くんだけど寿々菜も一緒行く?あ、でも仕事がないのに行ってもしょうがないか」
「行くもん!!!」
怪獣よろしくドスドスと荒々しい足取りで前へ進むスズナザウルスを見て友香は笑いを噛み殺し、和彦からのメールの続きを読んだ。
『芸能人になるかどうかは友香の自由だけど、なんだかんだ言って寿々菜はずっと芸能人続けるだろうから、寿々菜の面倒をみてもいいと思うなら思い切って芸能人になってみるのもアリかもな』
寿々菜の面倒をみる?あんな馬鹿で大食いの子の?
友香は思わず吹き出した。
「冗談じゃないわよ~」
「何か言った!?」
「うん、寿々菜は馬鹿で大食いだって言ったの」
「酷い!」
「ふふ、よし!お菓子買いに行こう!でも私が寿々菜より流行ったら私が面倒みてあげるから心配しなくていいよ」
「ヤだもん!」
友香は膨れっ面の寿々菜の腕を取ると、笑いながら走り出したのだった。
―――「アイドル探偵 11 愛情と友情 編」 完 ―――