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剣も鎧も装備できない遊び人ですが、指輪なら何個でもつけられるので最強でした ~拾った建国の名剣は物干し竿にしています~  作者: 黙


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8. その歌

リゼの拳が、俺の胸を叩いた。

ぽす、と軽い音がした。


「1年」

ぽす。

「1年だよ。手紙ひとつ寄越さないで」


エダ婆さんと同じことを言う。婆さんのお玉よりずっと軽いのに、こっちのほうが効いた。


「……悪かった」

「本当にね」


リゼは俺の胸に額を押しつけたまま、しばらく顔を上げなかった。

肩が震えている。

何か言わないと、と思った。


「馬」

「……は?」

「借りてた馬。ちゃんと返しに来た。エダ婆さんのとこにいる」


リゼが顔を上げた。目が真っ赤だった。

それから、ぷっと吹き出した。


「最初に言うの、それ?」

「返しに来てって言ったの、お前だろ」

「言ったけど」


泣きながら笑う顔を、1年ぶりに見た。

ふと、リゼの首に目がいった。何もはまっていない。


「首輪は」

「借金奴隷には、付けちゃいけない決まりなの」

リゼは、首筋をさすった。

「でも、明日には付けるって。伯爵様の判子で、私も犯罪奴隷にするんだって」


売られる前に、首輪を。

間に合った。ぎりぎりで。

壁際の人たちが、こっちを見ていた。首には、みんな鉄の輪。


「まず、こっちだな」


大きく息を吸う。

もう何度目だ。慣れた。

……いや、慣れない。リゼの前だと、余計に。

それでも、歌った。


歌いながら、首輪の継ぎ目に指をかける。誰も痛がらない。ひとつずつ曲げて、外していった。驚いた声と、すすり泣きが広がる。

歌い終えて振り返ると、リゼが目を丸くしていた。


「その歌……」

「ガキの頃に、誰かが歌ってくれたやつだ。熱出して寝込んだ時に」

「私だよ」

「は?」

「エダ婆さんの手伝いを始めた頃。あんたが熱出して、一晩中うなされてて。私、その歌しか知らなかったから」

リゼは、少し笑った。


「下手なとこまで、そっくり」


言葉が出なかった。

砂漠で一人の夜に口ずさんでいた歌は、こいつの歌だった。

首輪を外し終えた頃、リゼが奥の床を指した。


「地下は、この下。逃げた見張りが、伯爵様の兵を呼ぶかもしれない。急いで」


鉄の床扉を、鍵束のひとつで開ける。

階段を下りると、湿った空気の中に、30人以上が押し込められていた。

その一番奥で、白髪混じりの男が、明かり取りの下にあぐらをかいていた。手には、古ぼけた留め金。鼻がくっつきそうな距離で、じっと見ている。


「先生!」


マレが駆け寄った。

男は、顔も上げずに言った。


「マレか。生きていたか。ちょうどいい、この留め金の刻みを見てくれ。どうも年代が」

「先生!!」


マレが、男の肩をつかんで揺さぶった。泣きながら怒っている。

ディアンは、ようやく弟子の顔を見た。

それから、ほんの少しだけ目を細めた。


「……よく、生きていてくれた」

懐から、親板をつまみ出した。

「ここの連中も、全員首輪があるな。また歌うか」

ディアンの目が、親板に吸い寄せられた。

「それは、首輪の親板か。なら歌う必要はない。裏の石を順に押せば、つながった首輪は全部外れる」

「……全部?」


「全部だ」

「上の連中の分、さっき歌ったんだけど」

「それは、ご苦労だった」


早く言えよ。

ディアンの言うとおりに石を押すと、地下のあちこちで、かちん、かちんと金属の外れる音が鳴った。

歓声が、上がった。

ディアンが、改めて俺を見た。


頭のてっぺんから、足の先まで。眉間に、深いしわが寄っていく。


「君が、ここまで来たのか。夜杯の連中を相手に」

「マレもいたけど」

「……失礼。少し、読ませてもらう」


ディアンの目が、じっと俺の胸のあたりに止まった。

額に、汗が浮かぶ。一度目を閉じて、開いて、もう一度。

それから、かすれた声で言った。


「そんな馬鹿な、レベル……、135」


地下が、しんと静まった。

マレが息を呑む音が聞こえた。リゼが、俺の袖をつかんだ。

俺は、首を傾げた。


「それって、高いのか?」

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