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剣も鎧も装備できない遊び人ですが、指輪なら何個でもつけられるので最強でした ~拾った建国の名剣は物干し竿にしています~  作者: 黙


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第45話 二回は負けない

指が、勝手に金色の指輪をなでていた。

中に、百枚。さっきまでは二百枚あった。

もう一回負けたら、残るのは銀貨と銅貨が少しだけだ。


主は、かき寄せた金貨を十枚ずつ積み直している。太い指の指輪が、灯りを受けてぎらぎらした。

後ろで、ガントがぼそりと言った。

「……もういい。帰ろうや」


リゼは何も言わない。腕を組んで、壁にもたれている。

マレが、俺とリゼの顔を、行ったり来たり見ていた。


「もう一回だ」

口が、先に動いていた。

「ノアさん!」

「残りの百枚。これで、船だ」

主が、積む手を止めた。

「今、負けたばかりでしょう」


「運が良くても、負けることはある」

卓に、両手をついた。

「けど、俺の運が本当にいいなら、二回は負けねえ」


主は、俺の顔をしばらく眺めていた。

負けたばかりの客が、残りの金を全部出すと言っている。そういう顔を、この男は何百回も見てきたんだろう。

口の端が、ゆっくり持ち上がった。


「面白いことを言う。……いいでしょう。当てたら、船はお返しします」


主が、壷にサイコロを放りこんだ。

からん、と乾いた音。手首がくるりと返って、壷が卓に伏せられた。


金色の指輪から、最後の百枚を出して積んだ。

じゃらり。さっきと同じ音なのに、さっきより重く聞こえた。

周りの客が、また集まってくる。


「半」


壷が、上がった。


三と、六。


客が、どっとわいた。

主の顔が、一瞬だけ固まった。


「……そんな、はずは」


小さな声だった。

主はすぐに笑顔を貼りつけ直して、咳払いをした。


「……いや、お見事。船は、お返ししますよ」

卓の上に、紙が一枚置かれた。船の証文だ。

ガントが、震える手でそれをつかんだ。

「……戻った」


爺さんは紙を胸に抱いて、それきり何も言わなかった。


「さて」

主が、指輪だらけの手をこすり合わせた。

「このままでは、こちらの気が済みません。もう一勝負いかがです。先ほどいただいた百枚を、こちらが張りましょう」

「俺が当てたら?」

「お返しします。次は、負けませんよ」


リゼを見た。

リゼは壁にもたれたまま、目だけでこっちを見ている。止めない。約束どおりだ。

自分の金だ。……自分の金だよな、うん。


「乗った」


壷が鳴る。さっきより長く、何度も振っている。

伏せた壷を、主はしばらく手で押さえていた。


「……丁」


壷が、上がった。


二と、二。


今度は、賭場が静まり返った。

主の笑顔が、はっきり引きつった。壷を持ち上げた手が、宙で止まったままだ。

ガントがぽかんと口を開けている。前歯のないところが、よく見えた。


金貨百枚が、こっちへ押し戻されてきた。

指輪にしまう。中で、二百枚。

戻った。全部戻って、船までついてきた。


「……もう一度」


主の声が、低くなっていた。

「今度は二百枚。そちらも、こちらも」

二百枚。勝てば、四百枚。

手が、勝手に指輪へ伸びた。


すぱん、と頭が鳴った。


「なにすんだよ!」

振り返ると、リゼが平手を下ろしたところだった。

「帰るわよ」

「いや、今、流れが来てて」

「帰るわよ」

二回目の声は、低かった。


リゼは俺の襟をつかんで、扉の方へ引きずった。マレが主にぺこりと頭を下げて、ついてくる。

証文を抱えたガントが、転がるように出てきた。

閉まりかけた扉の向こうで、壷を卓に叩きつける音がした。




港の夜風が、汗を冷やした。

さっきまでの熱が、嘘みたいに引いていく。


ガントは桟橋の方へ歩きかけて、一度だけ振り返った。

「……明日の朝、引き潮で出る。遅れんなよ」

それだけ言って、暗がりに消えた。足取りが、酒場にいた時とは違っていた。


「勝っただろ」

前を歩くリゼの背中に言った。

「船も取ったし、百枚も戻った。誰も損してねえ」


リゼが、立ち止まった。

振り返った顔は、怒鳴ってもいないし、笑ってもいなかった。


「勝ったから、怒ってるのよ」


それだけ言って、リゼはまた歩き出した。

言い返す言葉は、指輪の中を探しても出てこなかった。

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