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剣も鎧も装備できない遊び人ですが、指輪なら何個でもつけられるので最強でした ~拾った建国の名剣は物干し竿にしています~  作者: 黙


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第43話 古い道

十日は、長え。

街道は、丘をぐるりと回りこむように曲がっている。荷馬車が通れるように、坂を避けているらしい。

まっすぐ行けばいいだろ。丘なんか、越えりゃいいんだ。

焼き魚が、遠い。


二日目の昼、ヒゲチョロの背で、マレが声を上げた。


「ノアさん、止まってください!」


街道が二つに分かれるところだった。

草むらの中に、石が一つ、半分埋まっている。膝くらいの高さで、てっぺんが丸くすり減っている。

マレは馬から滑り降りて、その石に手を当てた。


「〈旅人の道標〉……」

「ただの石だろ」

「違います。環庫の壁画の、旅人の神様です」

マレは、俺の指輪に手を伸ばした。

「紙束、出してください!」


出してやると、マレは石板の写しを広げた。

線の上に、点がいくつも並んでいる。その点の横の印と、石のてっぺんの彫りが、同じ形だった。


「この点、穴じゃなかったんです。道しるべです」

マレの指が、線をなぞる。

「古い道は、丘をまっすぐ越えています。荷馬車は無理でも、歩きと馬なら……三日は早く着きます」

「三日!」

焼き魚が、近づいた。


分かれ道の片方は、草に埋もれて、道にも見えなかった。

でも、少し進むと、また石があった。その先にも、また一つ。

マレは石を見つけるたびに、写しの点に小さく印をつけていった。




誰も通らない道には、魔物が多い。

俺の周りには、もっと多い。首飾りのせいだ。狩りには便利だ。


岩陰から、岩トカゲが五匹出てきた。犬くらいある。

一匹ずつ、頭を小突いた。それで終わりだった。

王都の組合の掲示板では、群れの討伐が金貨三枚だったやつだ。


「金貨三枚、落ちてるぞ」

「依頼を受けてないでしょ。一枚も出ないわよ」

「……肉にはなる」


その夜は、岩トカゲを焼いて食った。

硬かった。焼き魚とは、たぶん全然違う。

ヒゲチョロは、においを嗅いでからそっぽを向いた。




四日目の朝、リゼがマレの顔をのぞきこんだ。


「マレ。昨日、寝た?」

「はい、寝ました」

「いつ?」

「……星が沈んでから、少し」


マレの目の下には、王都を出た時より濃いくまができていた。

膝の上には、〈星読みの盤〉が載っている。その下に、細かい字で埋まった紙が何枚もある。


「海の上では、星しか目印がないんです。船の上で間違えたら、もう戻れなくて……だから、今のうちに」

「ディアンさんに、寝なさいって言われたでしょ」

「星を見る時は、起きていていいって……」

「……屁理屈」


リゼは、しばらくマレを見ていた。

それから、俺を見た。

岩トカゲの残りをかじっていた俺を、頭から足まで、じっと見た。


「なんだよ」

「今夜は、マレを真ん中にして寝るわよ」

「は?」

「あんたと、私と、マレ。並んで」




夜。

たき火を小さくして、三人で毛布にくるまった。端から、俺、マレ、リゼ。

マレは、盤を胸に抱えたまま、がちがちに固まっている。


「あの、リゼさん。星が……」

「星は、明日も出るわよ」

「でも」

「それに、こいつがいると、すぐ寝られるから」

「なんでだよ」

「あんたが先に寝るからよ」


言い返そうとした。

地面が、あったかい。毛布が、ちょうどいい。焼き魚のことを考えようとして――




目を開けると、朝だった。

マレが、座ったまま俺の顔をじっと見ていた。


「……なんだよ」

「あの、体が、軽いんです」

マレは、自分の手のひらを、不思議そうに開いたり閉じたりした。

「こんなによく眠れたの、いつぶりか分かりません」


目の下のくまが、消えていた。

王都で三日寝ても、リゼの治癒でも消えなかったやつだ。


たき火の向こうで、リゼが鍋に水を汲んでいた。こっちを見もしない。


「森の村でも、そうだったの。こいつの寝てる近くだと、みんな元気になるのよ」

「……〈寝る〉」

マレが、小さくつぶやいた。

「名前は、読めるんです。でも、中身は……」

マレは、俺の顔と、自分の手を交互に見た。


「そういうことだから。今夜からも、真ん中ね」

「はい」

「勝手に決めんな」


誰も、俺の言うことを聞いていなかった。

ヒゲチョロまで、鼻で笑った。




王都を出て、七日目の夕方だった。

最後の道しるべを過ぎて、丘のてっぺんに出た。


風が、変わった。

しょっぱい。生ぐさい。嫌な匂いじゃない。


丘の向こうが、全部、青かった。

端から端まで、水だ。夕日が、その上に金色の道を引いている。

砂漠も、端から端まで砂だった。でも、こっちは動いている。


「……でけえ水たまりだな」

「海よ」

リゼが言った。そう言いながら、リゼも、しばらく動かなかった。


丘のふもとに、屋根がひしめいている。港町ロッサだ。

水際に、船がずらりと並んでいる。煙が、いくつも上がっている。


マレが、盤を掲げて、海の向こうを指さした。

「島は、あのずっと先です」

指の先には、水しかなかった。


風が、もう一度吹いた。

しょっぱい匂いに、何かが混じっている。

脂が焦げる、香ばしい匂い。


腹が、鳴った。

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