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剣も鎧も装備できない遊び人ですが、指輪なら何個でもつけられるので最強でした ~拾った建国の名剣は物干し竿にしています~  作者: 黙


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第41話 置いていかないわよ

串焼きの包みが、走るたびに揺れる。

冷めちまう。

いや、そういうことじゃねえ。分かってる。足を動かしてないと、余計なことばかり考えちまうだけだ。


夜の鑑定院は、真っ暗だった。

奥の一部屋にだけ、灯りがついている。


戸を開けると、ディアンが振り返った。

腕に、毛布を抱えている。

狭い部屋の寝台で、マレが眠っていた。毛布が、四枚かかっていた。


「……来てくれたか」

ディアンは、五枚目の毛布をマレにかけた。

「昼すぎに、机の前で倒れた。医者は、働きすぎだと言っている。食事も、ろくに取っていなかったらしい」

「らしい?」

「私も、気づかなかった」


声は、いつもと同じで落ち着いていた。

毛布を直す手だけが、何度も同じところをなでていた。


「君たちが戻るまでに、終わらせると言っていた」

リゼが、唇をかんだ。


寝台の上で、マレの鼻がひくっと動いた。

目が、ゆっくり開く。

俺の手の、串焼きの包みを見ている。


「……いい匂い」

「起きたか」

「ノアさん……リゼさん……? あ、お帰りなさい。あの、解読が」

起き上がろうとして、ふらついた。

リゼが、その肩を押さえる。

「食べてから」


マレの口に、串焼きを一本突っ込んだ。

もぐもぐと噛んで、飲み込んで、また口を開く。

「あの、西の港の」

もう一本、突っ込んだ。


三本目で、マレは黙った。

四本目からは、自分で手を伸ばした。

五本目を取ろうとした俺の手は、リゼにはたかれた。全部マレの分らしい。

俺が殴って稼いだ金で買ったのに。


八本目を食べ終えたころ、マレの顔にやっと色が戻った。

リゼが、マレの額に手を当てた。指先が、ぼんやり光る。

顔色は、もっとよくなった。でも、まぶたが重そうなのは変わらない。


「……だめね」

リゼが、手を下ろした。

「体は治せても、眠ってない分は、私には治せないの」

「平気です。それより、解読が」

マレは、寝台の上で正座した。毛布が五枚、肩からずり落ちる。


「解読、進みました」

早口だった。古い道具や字の話になると、マレはいつもこうなる。

「環庫の石板です。〈西の港へ至る道の記録〉。あれ、道の記録というより、地図でした。環庫から西の港までの道と、港から先の、海の道です」

「海の道?」

「星の位置で、船の向きを決めるんです。そのやり方まで書いてあって」

「読んだのは、ほとんどマレだ」と、ディアンが短く言った。


「港から、さらに西へ。……その先に、島があります」

マレは、枕元の紙束から一枚を抜き出した。

線と、細かい字と、点がいくつも描いてある。いちばん端に、丸い印が一つ。

「島に何があるかは、まだ分かりません。まわりの字は読めたんですけど、この印だけ」


リゼが、何か言いかけた。

「マレ。古い記録に、女の人の……」

そこで、口をつぐむ。

「……ううん、なんでもない。森のことは、また今度話すわ」


マレは、紙を胸に抱えた。

「あの」

声が、小さくなった。

「港へ行くなら……私も、行っていいですか」


前の時は、置いていった。

マレは疲れてたし、解読もあった。仕方なかった。そう思ってた。

その間に、こいつは倒れるまで机にかじりついてた。


「当たり前でしょ」

リゼが、先に言った。

「次は、置いていかないわよ」


俺は、窓の外を見た。

「……お前がいねえと、何が何だか分かんねえだろ。地図も読めねえし」

「ノアさん……」

「港なら、魚が食えるな。焼いたやつ」


マレが、笑った。泣きそうな顔で、笑った。

そのまま、こてんと横に倒れた。


「おい」

寝息が聞こえた。笑った顔のまま、もう寝ている。

ディアンが、六枚目の毛布をかけた。


「この子は、無理をしすぎる」

ディアンは、マレの寝顔から目を離さなかった。

「……昔、ちょっとあってな」


リゼは、何も聞かなかった。

俺も、聞かなかった。


「医者は、数日は寝かせておけと言っている」

「数日?」

「港は、マレが起きてからよ」

リゼが、さっさと決めた。


港の焼き魚が、遠のいた。

仕方ねえ。壁にもたれて、床に座り込んだ。


机の上に、紙が一枚残っていた。

マレの字だ。島の丸い印の写しと、その横に、見覚えのある形が描いてある。

俺の首飾りだ。

横に、小さく書き込みがあった。


『同じ?』


「これを確かめるまでは、眠れないと言っていた」

ディアンが言った。


首飾りを見下ろした。

〈邪神の心〉。

魔物がよく寄ってくるから、狩りに便利な飾りだと思ってた。

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