↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣も鎧も装備できない遊び人ですが、指輪なら何個でもつけられるので最強でした ~拾った建国の名剣は物干し竿にしています~  作者: 黙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/44

第17話 俺の値段

頭のてっぺんが、じゃりじゃりする。

髪をかき回すと、乾いた土がぱらぱら落ちた。昨夜の靴の裏についていたやつだ。


「誰だよ、夜中に靴投げたやつ……」


まあいい。

宿の食堂の机に、金貨を三枚並べる。前金だ。端から指でつつく。一枚、二枚、三枚。何度数えても三枚ある。

一晩で金貨三枚。自分で稼いだ金貨は、いい。

口元がゆるむ。


ゆるんだまま、止まった。

金貨の横に、昨夜の首輪がちらつく。黒い鉄の輪。

金貨を、袋に戻した。

向かいの席で、リゼがパンをちぎっていた。マレは朝早くから、ディアンと鑑定院へ出かけている。


「ねえ」

「なんだよ」

「昨日の仕事、持ってきたのジルよね」

「ああ」

「ハルカの賭場、あんたに教えたのは誰だっけ」

「ジルだろ。いい店があるって……」


言いかけて、口が止まった。

リゼは、パンをちぎる手を止めなかった。


「一回目は、首輪を売ってた商会の賭場。二回目は、首輪を運ばせる商会の仕事。どっちも、ジルが連れてったのよ」

「……は?」

「偶然で、二回も同じとこに当たる?」

「……たまたまだろ」

「あんたの『たまたま』で、金貨二百八十枚よ」


言い返せなかった。

食堂の戸が開いた。


「よう、ノア。リゼも」


ジルだった。いつもの人当たりのいい笑顔で、手を上げている。


「昨日は、悪かったな」

ジルは勝手に椅子を引いて座った。

「まさか首輪だなんて、思わなかったんだ。俺も旦那にだまされた口でさ。中身までは聞いてなかったんだよ」

リゼが、パンを置いた。

「中身は聞いてなかった。でも、まともな荷じゃないのは知ってた?」

ジルの笑顔が、ほんの少し固まった。


「……まあ、旦那の仕事だからな。多少は」

「ハルカの賭場は?」

「え?」

「ノアに教えた賭場。あそこが夜杯の店だって、知ってた?」


ジルは、俺を見て、リゼを見て、また笑った。


「知ってたよ。有名な店だったし」

「紹介したら、いくらもらえたの」


笑顔のまま、ジルの目が泳いだ。

食堂が、しんとした。

隣の席の客が、こっそり皿を持って離れていく。


「……客を連れてけば、少し。それだけだ。いかさまのことなんか知らなかった。本当だ」


ジルは身を乗り出して、俺の肩に手を置いた。


「なあノア。俺たち、ガキの頃から一緒だったろ。川で魚取って、お前んちの裏で――」


その時だった。

足が、勝手に床を鳴らした。

トン、トトン。

肩が揺れる。腕が上がる。腰が回る。


……は?

食堂の真ん中で、俺は踊っていた。祭りの夜の、陽気な踊りだった。止めようとしても、手足が言うことを聞かない。


「ぷっ」

ジルが噴き出した。

「は、ははっ。相変わらずだな、お前。昔っから――」


ジルは肩を震わせて笑っていた。強張っていた顔がほどけて、すっかり昔の顔に戻っている。リゼは額を押さえていた。

踊りが、唐突に止まった。

ジルの胸ぐらをつかんだ。

そのまま持ち上げて、壁に押しつける。ジルの足が、床から浮いた。


笑い声が、喉の奥で途切れた。

何も言わなかった。言うことが、見つからなかった。

ジルの顔から、血の気が引いていく。


「ま、待て、ノア。……旦那は、焦ってるんだ」


聞いてもいないのに、ジルはしゃべり出した。


「夜杯から上がってた上納金が、止まったんだよ。お前らが潰したせいで。その穴を埋めないと、旦那の首が危ない。だから首輪を――」


手を離した。

ジルは壁を背に、ずるずると座り込んだ。

手のひらを出す。


「……な、なんだよ」

「紹介料」

「は?」

「俺を賭場に送って、もらった金。出せ」


ジルは、震える手で懐を探った。財布から銀貨を出して、俺の手のひらに一枚ずつ載せる。

一枚、二枚、三枚、四枚、五枚。

手が止まった。


「……これで、全部だ」


手のひらの上を見た。

銀貨五枚。

金貨二百八十枚の借金と、砂漠の一年と、捕まったリゼ。その始まりが、銀貨五枚。


「……俺の値段、これかよ」


ジルは何か言いかけて、口を閉じた。目をそらしたまま立ち上がって、食堂を出ていった。

戸が閉まる。

しばらく、誰もしゃべらなかった。

リゼが、ちぎったパンを俺の皿に放り込んだ。


「食べなさいよ」

「……おう」


パンをかじる。固い。

銀貨五枚を、金貨の袋に入れた。じゃらりと音がした。


「そういや、残りの金貨二枚、まだもらってねえな」

「……は?」

「仕事はした。荷も届けた。詰所にだけどな」

袋の口を、きゅっと縛る。

「もらいに行く」

リゼは、しばらく俺の顔を見ていた。


「……バカね」


それから、パンの残りを口に放り込んで、立ち上がった。


「でも、付き合うわよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。