14. 二本目の暁の剣
衛兵は、すぐに来た。
槍を持った男が五人。先頭の隊長は、俺の背中の剣を見るなり、顔をこわばらせた。
「その剣を、どこで手に入れた」
「サボテンタ」
「……は?」
「砂漠の、緑の、棘のやつ。倒したら落とした」
隊長は、俺の顔をじっと見た。
信じていない顔だった。組合の中の誰もが、同じ顔をしていた。
リゼが、俺の袖を引いた。
「暴れないでよ」
「暴れねえよ」
ここで衛兵を投げ飛ばしたら、今度こそ本当の罪人だ。ハルカで覚えた。
「調べてくれ。盗んでないから」
隊長は、部下を一人、王宮の宝物庫へ走らせた。俺たちは、剣ごと王立鑑定院へ連れていかれることになった。
王立鑑定院は、白い石の大きな建物だった。
廊下の奥から、ディアンとマレが飛んできた。
「ノア君。衛兵に囲まれて、何をした」
「物干し竿を担いでただけだ」
ディアンは、額に手を当てた。
奥の部屋から、細身の男が出てきた。金の刺繍が入った長い上着。あごを上げて、人を見下ろすような歩き方をする。
「騒がしい。何の用だ」
「一等鑑定士のヴェルナー殿だ」
ディアンが、小声で教えてくれた。
「王国でも数人しかいない。品だけでなく、人のスキルの効果まで読める方だ」
ヴェルナーは、衛兵の説明を面倒そうに聞き、俺の剣に指を置いた。
次の瞬間、その指が止まった。
「……〈暁の剣〉」
顔が、少しだけ青くなっていた。
ちょうどその時、宝物庫へ走った衛兵が、息を切らして戻ってきた。
「た、宝物庫の〈暁の剣〉は、無事です! 台座に、ちゃんとあります!」
廊下が、静まり返った。
隊長が、俺の剣を見た。それからヴェルナーを見た。
「……ヴェルナー殿。宝物庫の剣は、本物ですね」
「当然だ。私が見たのだぞ」
「では、こちらは」
ヴェルナーは、答えなかった。
もう一度、俺の剣に指を置く。長いこと、動かなかった。
「……こちらも、〈暁の剣〉だ」
紋章も形も同じ。ただ、宝物庫の剣には建国の戦いの傷があり、こちらには傷ひとつない。今日打ち上がったばかりのように。
ヴェルナーが、そう説明した。声が、わずかに揺れていた。
「名剣が二本……そんな話は、聞いたことがない」
「だから、サボテンタが落としたんだって」
誰も、信じなかった。
結局、盗みの疑いは晴れた。宝物庫の剣は動いていないのだから、盗みようがない。
ただし、剣は王宮への報告が済むまで、鑑定院で預かることになった。
「洗濯物、どうすんだよ」
「知らん!」
隊長に怒鳴られた。
帰りぎわ、ふと思いついてヴェルナーに声をかけた。
「なあ。人のスキルも読めるんだろ。俺のも見てくれないか。遊び人のスキル、効果がよく分からなくて」
ヴェルナーは、俺を頭から足まで眺めた。
さっき剣に向けていた目とは、まるで違う目だった。
「遊び人のスキルなど、見る価値もない。一等鑑定士の時間を、何だと思っている」
それだけ言って、奥へ戻っていった。
マレが、頬をふくらませていた。
ディアンの部屋は、古い本と道具で足の踏み場もなかった。
「せっかくだ。残りの指輪も、全部読んでおこう」
ディアンとマレが、俺の両手を一本ずつ取った。
最初は、右手の青い石が三つ。
「〈限界突破の指輪〉。レベルの上限を、十上げる」
ディアンの声が、低くなった。
「上限に届くと砕けて、その分、上限が上がる。……ノア君、これをいくつ砕いた」
「数えてない。結構たくさん」
砕けるたびに、寝相が悪いんだと思っていた。
ディアンは、何も言わなかった。口を開けて、閉じて、もう一度開けた。
「今のレベルが百三十五。この三つで、上限は百七十だ。百四十、百五十、百六十に届くたびに、ひとつずつ砕ける」
「じゃあ、あと五でまた砕けるのか」
「……そうなる」
次は、金色。
マレが、指を置いて目を閉じた。
「〈収納の指輪〉。ものを、しまっておける指輪です」
「……しまう?」
「しまいたいものに触って、入れと思えば……たぶん」
腰の金貨の袋に触って、入れ、と思った。
袋が、消えた。
「……おい。おいいい! 金! 俺の金!」
「落ち着いて! 出てこいって思えば……」
出てこい。
手の中に、ずしりと重い袋が戻ってきた。
全身から力が抜けた。
これは便利だ。砂漠のガラクタも、全部持ってこられたじゃねえか。
「物がいくらでも入る袋でもあればな、って言ってたんですよ。岩場を出る時に、その指輪を撫でながら」
マレが、リゼに耳打ちしていた。
「撫でてた本人が気づかないって、どういうこと」
リゼが、吐き出すように笑った。
最後は、右手の小指。ピンクの石だ。
ディアンが指を置いて、眉をひそめた。
「……〈名無しの指輪〉」
「名無し?」
「そういう名前なのだ。名前が『名無し』では、何も分からん」
「これ、抜けねえんだよ。拾った日からずっと」
小指を引っ張ってみせる。やっぱり、びくともしない。
ディアンは、古い図録を何冊かめくって、首を振った。どこにも載っていないらしい。
リゼが、小指のピンクをじっと見ていた。
なぜか、少しだけ長く。
鑑定院を出たのは、日が傾いてからだった。
広場の屋台で、今度こそ肉を食う。そう決めて歩き出した時だった。
「……ノア?」
後ろから、名前を呼ばれた。
聞き覚えのある声だった。
振り返る。
上等な鎧を着て、腰に立派な剣を下げた男が、立ち止まっていた。
昔と同じ、人の良さそうな笑い方で。
ジルだった。




