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修理特化の追放鍛冶師  作者: 進藤
第1章 追放鍛冶師と壊れた古代兵装

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#9 九十二パーセント破損の古代兵装


――カン。


レオンの金槌が、古代兵装の胸部を軽く叩いた。


「…………」


もう一度。


――カン。


今度は少し強く。


――カンッ。


レオンは目を閉じた。


耳を澄ます。


金属が発する音。


内部を流れる魔力。


壊れた回路。


そして――。


「……やっぱりだ」


レオンが呟く。


「こいつ、完全には死んでない」


ダインが眉をひそめた。


「でも破損率は九十二パーセントなんだろ?」


『肯定』


アインが答える。


『主要魔力回路の七十三パーセントが断裂。動力炉の出力は正常値の六パーセントです』


「六パーセント……」


「それじゃ、ほとんど動けないじゃないか」


「だからこそだ」


レオンは古代兵装の胸部に手を当てた。


「壊れている場所だけ見てたら、こいつは直せない」


ダインが首を傾げる。


「どういうことだ?」


「壊れてるんじゃない」


レオンは答えた。


「壊されたまま、無理やり動こうとしてるんだ」


その言葉と同時に。


古代兵装の胸部が、わずかに光った。


――ズ……。


「反応した?」


ダインが驚く。


『内部魔力が微弱に上昇』


レオンは頷いた。


「やっぱりな」


レオンは工具袋から一本の銀色の針を取り出した。


以前、魔狼の魔力回路を修復するために使ったものだ。


「アイン。この兵装の魔力回路を表示できるか?」


『可能』


アインの目から光が走る。


古代兵装の身体に、無数の線が浮かび上がった。


赤。


青。


黄色。


そして――。


大量の黒い線。


「……ひどいな」


ダインが思わず息を呑む。


黒い線は、途中で完全に途切れていた。


しかも。


「これ、普通に繋いじゃ駄目だ」


レオンが言った。


「え?」


「回路そのものが劣化してる」


レオンは一本の黒い線を指でなぞる。


「切れた回路を繋ぐだけなら簡単だ。でも、この状態で魔力を流したら――」


「爆発する?」


「たぶんな」


「たぶんなのかよ!」


ダインが一歩下がる。


レオンは苦笑した。


「だから慎重にやる」


そう言うと。


レオンは銀の針を、古代兵装の胸部へ差し込んだ。


――カチッ。


「まずは流れを変える」


針をほんの少し動かす。


――バチッ!


青白い火花が飛んだ。


「次」


二本目。


三本目。


四本目。


レオンは壊れた回路を一本ずつ切り離していく。


普通なら、壊れた回路は修復する。


しかしレオンは違った。


「壊れたものを、全部残す必要はない」


古代兵装の内部から。


ゴウッ――。


低い音が響く。


「使える部分だけ残して、作り直す」


ダインが呆然と見つめる。


「……それって、修理なのか?」


レオンは答えなかった。


ただ、金槌を握る。


そして。


――カンッ!


金槌が古代金属を叩いた。


その瞬間。


古代兵装の胸部から、強烈な魔力が噴き出した。


「レオン!」


ダインが叫ぶ。


「大丈夫だ!」


レオンは動かない。


「まだだ……!」


もう一度。


――カンッ!


「ここ!」


三度目。


――カンッ!


「ここだ!」


四度目。


――カァンッ!


音が工房全体に響き渡った。


すると。


途切れていた黒い回路が。


一本。


また一本。


青白い光を取り戻していく。


『魔力回路、再構築を確認』


アインの声が響く。


『出力――十二パーセント』


「よし……!」


レオンは息を吐いた。


「六パーセントから十二パーセント」


ダインが驚く。


「倍になったぞ」


「まだ半分も直ってないけどな」


レオンは次の箇所を見る。


「問題は腕だ」


古代兵装の右腕。


肩から先が完全に失われている。


その断面から、魔力が漏れ続けていた。


「腕を作るのか?」


「作る」


「ここにある素材で?」


「ある」


レオンは工房の隅を見る。


そこには。


大量の古代金属が積まれていた。


「……これを使う」


「それ、何百年も前の素材だろ?」


「だからいい」


レオンは一本の金属片を持ち上げる。


モノクルが反応した。


『素材名――不明』


「名前なんてどうでもいい」


レオンは金属片を炉へ放り込んだ。


「使えるかどうかは、俺が決める」


炉が赤く染まる。


――ゴオオオオッ!


古代の炉が、何百年ぶりに炎を上げた。


ダインは思わず後ずさる。


「すげぇ……」


レオンは金属を取り出した。


「熱い……!」


それでも離さない。


金槌を振り下ろす。


――ガンッ!


――ガンッ!


――ガンッ!


一打一打。


金属の形が変わっていく。


肩。


肘。


腕。


手。


普通の鍛冶なら、数時間。


いや。


数日かかる作業だ。


だが。


「アイン!」


『はい』


「右腕の構造を見せてくれ!」


『了解』


アインの内部構造が表示される。


「……なるほど」


レオンはそれを見て笑った。


「これならいける」


――ガンッ!


最後の一撃。


巨大な右腕が完成した。


しかし。


「……」


レオンはそれを見つめた。


ダインが聞く。


「完成じゃないのか?」


「違う」


レオンは首を振った。


「このままじゃ、ただの替えの腕だ」


「じゃあ?」


「こいつには、もっと合う腕がある」


レオンは腕を古代兵装へ取り付ける。


――ガチャン。


接続。


――カチッ。


固定。


――ズズズズズ……。


古代兵装の全身が震えた。


『警告』


アインの声が響く。


『未知の魔力反応』


「来るぞ」


レオンが身構える。


次の瞬間。


――ドンッ!


古代兵装の右腕が、一気に展開した。


肘から先が二重構造になる。


手の甲から薄い刃が伸びる。


肩部には小型の魔力炉。


そして。


右腕全体を、青白い魔力が走り抜けた。


『出力――二十一パーセント』


ダインが絶句する。


「二十一……」


さっきまで六パーセントだった。


それが。


二十一。


「まだ終わってない」


レオンは言った。


「むしろ、ここからだ」


古代兵装の胸部。


そこに残っていた最後の亀裂へ。


レオンは手を伸ばす。


すると。


――ピシッ。


亀裂の奥から。


声が聞こえた。


『……認証……』


レオンの手が止まる。


「え?」


『修復者を確認』


工房全体が震えた。


『権限レベル――鍛冶師』


そして。


古代兵装の胸部に、新たな紋章が浮かび上がった。


『修復権限を――承認』


レオンは目を見開く。


「……俺が?」


『完全修復権限――一部解放』


――ゴゴゴゴゴ……。


工房のさらに奥。


今まで閉ざされていた巨大な扉が、ゆっくりと開き始める。


その先には。


見たこともないほど巨大な炉と。


無数の武器が並んでいた。


剣。


槍。


鎧。


弓。


そして――。


中央に一本だけ置かれた。


黒い鞘の剣。


レオンのモノクルが、強烈に反応する。


『解析不能』


レオンは、その剣を見つめた。


「……あれも壊れてる」


ダインが苦笑する。


「お前、本当にそればっかりだな」


レオンは工具袋を握り直した。


「鍛冶師だからな」


その瞬間。


黒い鞘の剣から。


――ドクン。


心臓のような音が響いた。


そして。


工房全体に、古代兵装の声が響き渡る。


『最終兵装――封印解除まで』


『残り――一体』


レオンは静かに目を細めた。


「……一体?」


その言葉の意味を。


まだ、誰も知らなかった。


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