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修理特化の追放鍛冶師  作者: 進藤
第1章 追放鍛冶師と壊れた古代兵装

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#10 黒い鞘の古代剣


――ドクン。


工房の中央。


黒い鞘に収められた一本の剣が、まるで生き物のように震えていた。


レオンは、その剣から目を離せなかった。


「……変だな」


ダインが隣に立つ。


「何がだ?」


「普通の剣なら、こんな反応はしない」


レオンはゆっくりと剣に近づいた。


古代の工房。


無数の武器。


その中でも、この一本だけが妙に異質だった。


「アイン。解析できるか?」


『試行します』


アインの目から光が走る。


数秒。


『解析不能』


「やっぱりか」


『ただし、通常の古代兵装とは異なる反応を確認』


「異なる?」


『この剣には魔力炉が存在しません』


レオンが眉をひそめる。


「魔力炉がない?」


普通、魔法武器には魔力を蓄える核がある。


それがなければ、強力な魔法を使うことはできない。


だが。


この剣は違った。


「じゃあ、どうやって魔力を使う?」


『不明』


レオンは鞘を見つめた。


「……いや」


少し考えてから、首を振る。


「使ってないんだ」


「え?」


ダインが聞き返す。


レオンは鞘に手を触れた。


「この剣は魔力を使ってない」


――カン。


鞘を軽く叩く。


乾いた音が響く。


「魔力そのものを、通してる」


「通す?」


「そうだ」


レオンの目が鋭くなる。


「剣自身が魔法を使うんじゃない。持ち主の魔力を、そのまま刃に流す構造なんだ」


アインが反応する。


『推測――正解』


「やっぱりな」


レオンは鞘に刻まれた細かな傷を見る。


「でも、おかしい」


「何が?」


「この剣……」


レオンは傷の一つを指でなぞった。


「壊れてる」


ダインが驚いた。


「これが?」


「ああ」


レオンは即答した。


「外見はほとんど無傷だ。でも内部が壊れてる」


「そんなことまで分かるのか?」


「俺は修理屋だからな」


レオンは苦笑した。


「壊れた場所を見るのが仕事なんだよ」


レオンは腰から工具を取り出す。


小さな金属製の聴診器のような道具を剣に当てる。


――カン。


「……」


――カン。


「……やっぱり」


レオンの表情が曇った。


「三か所」


「何が?」


「魔力伝導路が断裂してる」


「それって、直せるのか?」


「分からない」


レオンは剣を見る。


「でも、直してみる」


ダインが苦笑した。


「お前、本当に何でも修理するんだな」


「壊れてるなら、直す」


レオンは剣を作業台に置いた。


そして。


鞘からゆっくりと剣を抜く。


――シュッ。


黒い刃が現れた。


「……!」


ダインが息を呑む。


刃は黒かった。


ただの黒ではない。


光を吸い込むような漆黒。


しかし、刃先には一筋だけ銀色の線が走っている。


「綺麗だ……」


レオンは思わず呟いた。


だが。


次の瞬間。


――ピシッ。


黒い刃に細い亀裂が走った。


「!」


レオンがすぐに剣を置く。


『危険』


アインが警告する。


『内部魔力伝導路が不安定です』


「分かってる」


レオンは剣を観察する。


「このままじゃ、使った瞬間に折れる」


ダインが顔をしかめた。


「じゃあ、武器としては使えないってことか?」


「今はな」


「でも……」


ダインが言葉を止める。


レオンが笑っていたからだ。


「直せるなら、問題ない」


レオンは炉の前へ向かった。


「素材が必要だ」


「何を使う?」


「銀鉱石」


ダインが周囲を見る。


「この工房にあるのか?」


レオンは棚を調べる。


古代の素材が並んでいる。


鉄。


ミスリル。


魔鉱石。


そして――。


「……あった」


小さな箱を取り出す。


中には純度の高い銀色の鉱石が入っていた。


『古代銀――純度九十八パーセント』


アインが解析する。


「これならいける」


レオンは鉱石を炉に入れた。


――ゴオオオオッ!


炎が吹き上がる。


「熱っ……!」


汗が額を流れる。


それでもレオンは離れない。


溶けた銀を細く伸ばしていく。


針。


極細の線。


そして。


「これを……」


黒い剣の亀裂へ。


一本ずつ。


埋め込んでいく。


――カチッ。


――カチッ。


――カチッ。


最後の一本を入れた瞬間。


剣が大きく震えた。


――ドンッ!


黒い魔力が一気に噴き出す。


「レオン!」


ダインが叫ぶ。


レオンは剣を押さえた。


「まだだ!」


黒い魔力がレオンの腕を伝っていく。


痛みが走る。


それでも手を離さない。


「この剣は……」


レオンは歯を食いしばった。


「壊れたまま、ずっと持ち主を待ってたんだ」


剣の震えが止まった。


静寂。


そして。


――カチン。


小さな音とともに。


黒い刃の銀色の線が、一本につながった。


『魔力伝導路――修復』


アインが告げる。


『性能――回復率四十七パーセント』


「四十七……」


ダインが驚く。


「半分近く戻ったのか?」


「いや」


レオンは首を振った。


「違う」


「え?」


「元々の性能が、分からない」


レオンは剣を見つめる。


「この剣は、まだ本気を出してない」


その瞬間。


――ドクン。


黒い剣が大きく脈打った。


工房全体の魔力が、一瞬だけ吸い寄せられる。


「なっ……!」


ダインが後ずさる。


アインが警告する。


『異常反応』


『古代兵装群が一斉に起動しています』


「何?」


レオンが振り返る。


工房の壁。


そこに並んでいた無数の武器が。


一斉に光り始めた。


――シュン。


――シュン。


――シュン。


剣。


槍。


盾。


鎧。


弓。


すべてが、レオンのいる作業台へ向かって光を伸ばしている。


「これ……」


ダインが呆然とする。


「何が起きてるんだ?」


アインが答える。


『古代兵装製造システムが、修復を認識しています』


「修復を?」


『はい』


アインの声が少しだけ変わった。


『通常の鍛冶師による修理ではありません』


レオンは剣を見る。


『破損した武器の構造を理解し――』


『素材を再構成し――』


『本来の機能を再構築する能力』


そして。


『古代鍛冶師における最高位権限――』


工房の中央に巨大な文字が浮かび上がった。


『《完全修復者》』


「……完全修復者」


レオンが、その言葉を口にする。


その瞬間。


黒い剣が、ひときわ強く輝いた。


そして。


――カチャ。


自ら鞘へ戻った。


「……?」


レオンが手を伸ばす。


すると。


柄から小さな文字が浮かび上がった。


『所有者登録』


レオンは目を見開いた。


「所有者?」


『仮登録』


アインが続ける。


『対象――レオン』


「俺が?」


その直後。


工房の最奥から。


巨大な警告音が鳴り響いた。


――ヴォォォォォン!


『警告』


『古代兵装封印領域に異常発生』


『最終兵装――覚醒兆候』


レオンの顔から笑みが消えた。


「最終兵装……」


9話で聞いた言葉。


封印解除まで――残り一体。


その意味が。


ようやく繋がり始めていた。


「アイン」


『はい』


「この遺跡には、何体の古代兵装がある?」


アインは沈黙した。


そして。


『……現在確認できるだけで――』


一拍。


『三十七体』


ダインが絶句する。


「三十七……?」


レオンは工房を見回した。


壁に並ぶ武器。


巨大な炉。


そして。


まだ開いていない扉。


「……これだけの兵器を」


レオンは黒い剣を握った。


「誰が作ったんだ?」


その瞬間。


遺跡の地下から。


巨大な音が響いた。


――ドォォォン!


地面が揺れる。


天井から砂埃が落ちてくる。


そして。


アインが初めて、明確な恐怖を含んだ声を出した。


『レオン』


「どうした?」


『地下から――』


『巨大な魔力反応』


『接近しています』


――ゴゴゴゴゴ……。


地下深く。


何かが目を覚ました。


そして。


その存在は。


まっすぐに――レオンたちのいる工房へ向かっていた。


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