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修理特化の追放鍛冶師  作者: 進藤
第1章 追放鍛冶師と壊れた古代兵装

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6/10

#6 傷ついた魔狼と、壊れた魔力回路


巨大な魔狼は。


俺の前で足を止めた。


村の外。


壊れた防壁。


倒れたブラックファングたち。


そして。


俺と。


巨大な魔狼。


「……」


誰も動かなかった。


「レオン」


ダインが、後ろから小さく呼ぶ。


「本当に……近付くのか?」


「ああ」


「でも、あれは魔物だぞ」


「知ってる」


「俺たちを襲うかもしれない」


「それも知ってる」


俺は片眼鏡を外した。


巨大な魔狼を見る。


前足。


皮膚の下。


そこには。


不自然な魔力の流れがあった。


まるで。


誰かが無理やり。


別の魔力を流し込んだような。


「……怪我だけじゃないな」


俺は呟いた。


巨大な魔狼が低く唸る。


「グルルルル……」


「レオン!」


「みなさん」


俺は後ろを振り返った。


「武器は下ろさないでください」


「……」


「でも」


俺は続ける。


「俺が合図するまで、攻撃もしないでください」


ダインが不安そうな顔をする。


「分かった」


ほかの者たちも。


ゆっくりと頷いた。


俺は。


再び巨大な魔狼へ向き直る。


「アイン」


《はい》


「俺の後ろにいろ」


《拒否》


「即答かよ」


《技術者の安全確保を優先します》


「俺はこいつを調べる」


《危険です》


「分かってる」


《本機が前方へ配置されます》


「それじゃ警戒される」


《では、技術者の右側》


「何で右側?」


《左側には攻撃を受けた場合の死角があります》


「……そこまで考えてるのか」


《当然です》


俺は少しだけ笑った。


「分かった。右側にいろ」


アインが、わずかに後ろへ下がる。


「……行くぞ」


一歩。


巨大な魔狼へ近付く。


その瞬間。


「グルォォォッ!!」


魔狼が牙を見せた。


後ろから。


息を呑む音。


俺は止まる。


「……悪い」


俺は静かに言った。


「痛いよな」


魔狼の赤い目が。


わずかに揺れた。


俺は。


もう一度。


片眼鏡をかける。


見える。


魔力の流れ。


本来なら。


魔物の体内には。


一定の魔力循環がある。


血液のように。


全身を巡る。


だが。


こいつの前足だけ。


違う。


黒い何かが。


魔力の流れに絡みついている。


そして。


その奥。


青い光。


「……アイン」


《確認》


「こいつの中にある魔力」


《はい》


「お前と似てる」


アインが沈黙した。


《同系統の反応を確認》


「やっぱりな」


俺は巨大な魔狼を見る。


「お前」


魔狼の目が、俺を見た。


「どこで、これを手に入れた?」


もちろん。


返事はない。


代わりに。


魔狼が前足を動かした。


ズン。


地面が沈む。


「レオン!」


ダインが叫ぶ。


だが。


魔狼は俺を踏み潰さなかった。


ゆっくりと。


傷ついた前足を。


俺の前へ出した。


「……」


俺は目を見開く。


アインが言った。


《技術者》


「ああ」


《敵対行動ではない可能性》


「分かってる」


巨大な前足。


爪。


毛皮。


その奥。


黒く濁った魔力。


「……触るぞ」


俺はハンマーを腰へ戻した。


代わりに。


小さな工具を取り出す。


「痛かったら、噛みつく前に唸れ」


ダインが叫ぶ。


「それ、何の意味があるんだ!?」


「気持ちの問題だ!」


俺は。


巨大な前足へ手を伸ばした。


触れた瞬間。


「……っ」


冷たい。


魔物の体温とは違う。


金属に触れたような。


妙な冷たさだった。


そして。


俺の指先に。


振動が伝わってくる。


キン。


キン。


キン。


「……聞こえる」


「何が?」


ダインが聞く。


俺は答えなかった。


俺にだけ聞こえる。


壊れた金属が。


悲鳴を上げるような。


音。


「お前」


俺は魔狼へ言った。


「身体の中に、何か入ってるな」


魔狼が低く唸る。


「グルル……」


「怒るな」


俺は片眼鏡を覗き込む。


前足。


さらに奥。


骨の近く。


そこに。


小さな。


青黒い金属片が埋まっていた。


「……破片か」


《確認》


アインが言う。


《古代兵装と同一系統の素材反応》


「やっぱり」


俺は息を吐いた。


「誰かが、お前の中にこれを入れた」


《訂正》


アインが言った。


「何だ?」


《外部から挿入されたものとは限りません》


「じゃあ、何だ?」


《本来から体内に存在していた可能性があります》


「……魔狼に?」


《不明》


俺は考える。


アイン。


古代兵装。


村の倉庫。


山の奥の遺跡。


そして。


この巨大な魔狼。


「偶然じゃないな」


俺は呟いた。


その瞬間。


魔狼の体が震えた。


「……?」


グッ。


前足が。


俺の手の下で。


強く痙攣する。


「グォォォォッ!!」


巨大な咆哮。


俺はすぐに飛び退いた。


「アイン!」


《確認》


アインが前へ出る。


だが。


俺は叫んだ。


「待て!」


《技術者?》


「攻撃するな!」


巨大な魔狼の前足。


皮膚の下で。


黒い魔力が。


暴れ始めていた。


「……あれか」


俺は。


ようやく理解した。


怪我じゃない。


「こいつの中の魔力回路が」


俺は呟く。


「壊れてる」


《生体に魔力回路は存在しません》


「普通ならな」


アインの青い目が。


巨大な魔狼を見た。


《……》


「でも、こいつは普通じゃない」


黒い魔力が。


前足から。


全身へ広がっていく。


巨大な魔狼の目が。


再び赤く染まった。


「グォォォォォッ!!」


「レオン!」


ダインが叫ぶ。


「もう駄目だ! 殺すしか――」


「違う!」


俺は叫んだ。


「壊れてるだけだ!」


巨大な魔狼が。


俺へ飛びかかる。


「アイン!」


《了解》


アインが前へ出る。


ドンッ!!


巨大な身体が。


魔狼の突進を受け止める。


地面が割れる。


《技術者!》


「分かってる!」


俺は工房へ向かって走った。


「みなさん!」


俺は叫ぶ。


「さっきの武器を全部持ってきてください!」


「何をする気だ!?」


ダインが叫ぶ。


「直す!」


「何を!?」


「こいつを!」


「魔狼を!?」


「そうだ!」


俺は工房の扉を開けた。


棚。


工具。


魔力炉。


そして。


昨夜から使い続けている。


古い魔導具。


俺は引き出しの奥から。


小さな銀色の針を取り出した。


「……師匠」


師匠から譲られたもの。


壊れた魔導具の。


内部回路を調整するための道具。


俺は今まで。


一度も使ったことがなかった。


細かすぎる。


繊細すぎる。


そして。


失敗すれば。


魔導具そのものを壊してしまう。


だが。


今なら。


使い方が分かる。


「アイン!」


俺は工房の外へ飛び出した。


「あとどれくらい抑えられる!?」


《推定、一分三十秒》


「長いな!」


《本機の基準では短時間です》


「俺の基準では十分だ!」



「レオン!」


アインの声。


《右腕、再び損傷》


「後で直す!」


《了承》


巨大な魔狼が。


アインの身体へ牙を突き立てる。


だが。


アインは離さない。


「グォォォォッ!!」


「悪いな」


俺は魔狼の前足へ近付いた。


「今から」


工具を握る。


「少し痛いぞ」


俺は。


前足の毛をかき分けた。


そして。


片眼鏡を覗く。


見える。


黒い魔力。


青い金属片。


そして。


その二つを繋いでいる。


細い魔力の線。


「……ここだ」


俺は銀色の針を。


魔狼の皮膚へ突き刺した。


「グォォォォォォッ!!」


魔狼が暴れる。


「アイン!」


《保持します!》


アインが。


巨大な身体を押さえ込む。


俺は。


針を。


ほんの少しだけ動かした。


キン。


俺の耳に。


音が響く。


「違う」


キン。


「ここじゃない」


キン。


キン。


「……もう少し」


黒い魔力が。


俺の片眼鏡の中で。


荒れ狂っている。


俺は。


その流れを追う。


壊れた魔導具と同じだ。


無理に止めれば。


全部が壊れる。


なら。


「流れを変える」


俺は。


針を。


わずかに傾けた。


キィィィィン――。


青い光が。


前足から。


全身へ走った。


「グォォォ……」


魔狼の咆哮が。


止まる。


黒い魔力が。


少しずつ。


青い光へ戻っていく。


「……」


俺は。


針を抜いた。


そして。


地面へ座り込む。


「終わった……か?」


アインが。


魔狼から離れる。


《魔力反応、安定化》


「よし」


俺は笑った。


「直った」


その瞬間。


巨大な魔狼が。


ゆっくりと。


目を開いた。


赤ではない。


深い。


青色だった。


「……」


俺は動かなかった。


魔狼が。


ゆっくりと頭を下げる。


俺の目の前。


巨大な鼻先が。


地面に触れた。


「……礼か?」


ダインが。


信じられないものを見る顔をしていた。


「魔物が……頭を下げてる」


アインが言った。


《敵対行動、消失》


「だろうな」


俺は立ち上がった。


「直したからな」


その時。


巨大な魔狼が。


ゆっくりと立ち上がった。


そして。


森の奥へ歩き始める。


「おい」


俺は呼び止めた。


魔狼が。


振り返る。


「どこへ行く?」


もちろん。


言葉は通じない。


だが。


魔狼は。


森の奥を見る。


そして。


もう一度。


俺を見る。


「……来いってことか?」


《可能性、八十二パーセント》


「急に数字が具体的だな」


《推測です》


「信用していい?」


《保証はできません》


「いつか修理してやる」


《本機の発言機能は正常です》


「そういう意味じゃない」


ダインが。


俺たちを見る。


「……行くのか?」


俺は。


山の奥を見る。


そこには。


古い遺跡がある。


アインと同じ。


古代の素材。


巨大な魔狼の中にあった。


青い金属。


そして。


俺の片眼鏡が。


ずっと反応している。


キン。


キン。


キン。


「……行く」


俺は答えた。


「多分」


腰のハンマーを握る。


「壊れたものが」


森の奥で。


俺を待ってる」


アインが。


俺の横へ立った。


《同行します》


「お前も修理途中だろ」


《技術者もです》


「俺は壊れてない」


《長期間の過労を確認》


「誰のせいだ」


《技術者自身の選択です》


「……否定できない」


ダインが笑った。


そして。


村の人々も。


少しずつ。


俺たちの周りへ集まる。


「レオンさん」


誰かが言った。


「村はどうするんです?」


俺は。


壊れた防壁を見る。


散らばった武器を見る。


そして。


村を見る。


「まず」


俺は言った。


「全部直す」


ダインが笑う。


「またそれか」


「ああ」


俺はハンマーを握る。


「俺は鍛冶師だからな」


こうして。


辺境の村を襲った。


長い夜は終わった。


だが。


俺の仕事は。


終わらない。


壊れた武器。


壊れた防壁。


壊れた古代兵装。


そして。


森の奥に眠る。


まだ見たこともない。


壊れた何か。


俺は。


それを直すために。


追放された鍛冶師として。


新しい一歩を踏み出した。



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