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修理特化の追放鍛冶師  作者: 進藤
第1章 追放鍛冶師と壊れた古代兵装

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5/8

#5 壊れた武器は、戦場で進化する


アインが地面を蹴った。


ドンッ!!


巨大な身体が、夜の闇を切り裂く。


《リバース・アーム・第二形態》


青い光が、右腕を駆け抜けた。


「グルォォォッ!!」


ブラックファングたちが、一斉に飛びかかる。


一体。


二体。


三体。


アインは避けなかった。


巨大な右腕を前へ突き出す。


ドォンッ!!


先頭の一体が吹き飛ぶ。


だが。


その横から、別のブラックファングが飛びかかった。


ガァンッ!


鋭い牙が、アインの左肩へ食い込む。


《装甲損傷》


「アイン!」


俺が叫ぶ。


《問題ありません》


そう答えながら。


アインは右腕を振り抜いた。


バキィィンッ!!


二体目。


三体目。


巨大な拳が魔狼をまとめて吹き飛ばす。


だが。


「まだ来るぞ!」


ダインが叫んだ。


森の奥から。


さらに赤い目が現れる。


「……三十七体じゃなかったのか」


俺は呟いた。


《訂正》


アインの声が響く。


《現在確認できる敵性個体、四十三》


「増えてるじゃないか!」


《最初の索敵に誤差がありました》


「今それを言うな!」


アインの周囲へ。


魔狼たちが集まっていく。


「みなさん!」


俺は振り返った。


「ここから先へ、一体も入れないでください!」


「分かった!」


ダインが前へ出る。


その後ろに。


剣を持った者。


槍を構えた者。


盾を持つ者。


昨日まで。


魔物の姿を見ただけで震えていた人たち。


だが。


今は違った。


手には。


俺が直した武器がある。


そして。


「来るぞ!」


ダインが叫ぶ。


一体のブラックファングが。


アインの横を抜けた。


「俺が行く!」


ダインが剣を構える。


だが。


「待て!」


俺は叫んだ。


「一人で行くな!」


ダインの隣に。


槍を持った男が並ぶ。


「俺が止める!」


「俺が横から!」


盾を持った女が前へ出る。


「後ろは任せて!」


三人。


四人。


少しずつ。


村の人々が前へ出た。


ブラックファングが跳ぶ。


「今だ!」


ダインが叫ぶ。


槍が突き出される。


ザシュッ!


魔狼の動きが止まる。


そこへ。


ダインの剣が走った。


ズバァッ!!


ブラックファングが地面へ倒れる。


「倒した……」


ダインが、自分の剣を見る。


「俺たちが……」


「次!」


俺は叫んだ。


「まだ終わってない!」



戦場は。


少しずつ変わっていた。


アインが前線を押し返す。


村の人々が、突破してきた魔狼を止める。


そして。


俺は。


その中央を走り回っていた。


「レオン!」


ダインが叫ぶ。


「剣が!」


見る。


ダインの剣。


刃の根元に。


細いひびが入っている。


「こっちへ来い!」


「でも!」


「早く!」


ダインが後ろへ下がる。


俺は剣を受け取った。


ひびを見る。


原因は分かる。


俺が重心を変えた。


それで。


ダインは以前より強く振れるようになった。


だが。


強く振れる分。


刃の根元へ負担が集中している。


「……想定より早かったな」


「直るか?」


「直す」


俺は剣を金床へ置いた。


しかし。


「新品みたいには直さない」


「え?」


「お前はもう、この剣に慣れ始めてる」


俺は刃を軽く叩く。


カン。


「なら」


カン!


「この剣の方を」


カン!!


「お前に合わせる」


ひびの部分を削る。


金属を重ねる。


柄から刃まで。


魔力の流れを変える。


「これでいい」


俺は剣を返した。


ダインが受け取る。


「……少し重い?」


「今のお前なら振れる」


「分かった」


ダインは前へ走る。


そして。


ブラックファングへ剣を振り下ろした。


ズバァンッ!!


今度は。


刃が折れなかった。


「……よし」


俺は次の声を探す。


「レオン!」


「今度は何だ!?」


「盾が!」


「持ってこい!」


「槍が曲がった!」


「そこに置け!」


「魔導具が!」


「爆発してないなら後回し!」


「さっき爆発するって言ってただろ!」


「今は爆発してない!」


「理屈が分からん!」


戦場の真ん中。


俺の周囲だけ。


まるで工房になっていた。


壊れた武器。


欠けた盾。


曲がった槍。


それらが。


次々と俺の前へ運ばれてくる。


俺は直す。


ただ直すだけじゃない。


使った人間を見る。


どう壊れたかを見る。


どんな動きをしたのか。


どこに力がかかったのか。


全部。


武器が教えてくれる。


「お前は剣を振りすぎだ!」


「すみません!」


「謝るな! 次は盾で受けろ!」


「はい!」


「お前は槍を握り込みすぎ!」


「緊張してるんだ!」


「なら太くする!」


「そんな簡単に!?」


俺は槍の柄へ革を巻く。


「これでいい!」


「本当に!?」


「使え!」


「はい!」


その瞬間。


俺は気付いた。


――楽しい。


王都では。


鍛冶場で。


一人だった。


俺が武器を作る。


誰かが持っていく。


壊れたら戻ってくる。


また直す。


それだけだった。


だが。


今は違う。


目の前に。


使っている人がいる。


戦っている人がいる。


俺の直した武器が。


誰かを守っている。


そして。


壊れたら。


また俺のところへ戻ってくる。


「……悪くないな」


俺は笑った。


「戦場の鍛冶師ってのも」



《警告》


アインの声が響く。


俺は顔を上げた。


《未確認の魔力反応を確認》


「何だ?」


《魔狼の群れとは別です》


その瞬間。


ブラックファングたちの動きが。


止まった。


「……?」


一体。


また一体。


魔狼たちが。


森の奥へ向けて振り返る。


そして。


ガタガタと。


震え始めた。


「何だ……?」


ダインが呟く。


魔物が。


怯えている。


自分たちより強い何かに。


「アイン」


「何か見えるか?」


《視界不良》


アインが答える。


《しかし》


青い目が。


森の奥へ向く。


《強力な魔力反応を確認》


次の瞬間。


森の奥で。


何かが。


鳴いた。


――グォォォォォォォォォォン。


低い。


地面の奥から響くような声。


村の空気が震える。


そして。


ブラックファングたちが。


一斉に道を開けた。


「……まさか」


俺は息を呑んだ。


森の奥。


木々が。


倒れていく。


ドォン。


ドォン。


ドォン。


何かが。


こちらへ近付いてくる。


アインが前へ出た。


《警戒》


「何が来る?」


《不明》


「お前の索敵、本当に大丈夫か?」


《現在、修理途中です》


「そこはちゃんと修理させてくれ」


アインは答えなかった。


ただ。


森の奥を見ている。


そして。


木々の間から。


巨大な角が現れた。


「……」


次に。


黒い頭部。


赤く光る目。


そして。


地面を踏み潰す。


巨大な四本の足。


ダインの顔から。


血の気が引いた。


「……マウンテンウルフ」


「知ってるのか?」


「あれは……」


ダインが震える声で言った。


「この辺りの魔物じゃない」


巨大な魔狼。


ブラックファングの。


何倍も大きい。


「じゃあ、何でここに?」


俺が聞く。


ダインは答えなかった。


代わりに。


アインが言った。


《訂正》


「何だ?」


《敵性個体ではありません》


「……は?」


俺はアインを見る。


《現在、敵対行動は確認できません》


「いや」


俺は巨大な魔狼を見る。


「どう見ても敵だろ」


《判断不能》


その瞬間。


巨大な魔狼が。


ゆっくりと。


俺の方を見た。


赤い目。


俺を。


真っ直ぐに。


見ている。


「……俺?」


なぜだ。


俺は。


ただの鍛冶師だ。


魔物と話せるわけでもない。


戦えるわけでもない。


それなのに。


巨大な魔狼は。


ゆっくりと。


一歩。


こちらへ近付いた。


アインが前へ出る。


《技術者から離れてください》


「おい」


俺はアインの肩に手を置いた。


「待て」


《危険です》


「分かってる」


巨大な魔狼が。


さらに近付く。


そして。


村の人々が。


武器を構えた。


「みなさん!」


俺は叫んだ。


「まだ攻撃しないでください!」


「でも!」


ダインが叫ぶ。


「あれは危険だ!」


「分かってる!」


俺は巨大な魔狼から。


目を離さなかった。


「でも」


その時。


俺は。


聞いた。


――キン。


小さな。


金属音。


ありえない。


ここに金属はない。


だが。


確かに聞こえた。


キン。


キン。


俺は片眼鏡を取り出した。


そして。


巨大な魔狼を見る。


「……そういうことか」


「何だ?」


ダインが聞く。


俺は。


巨大な魔狼の前足を見る。


毛皮の奥。


皮膚の下。


そこに。


異常な魔力の流れがあった。


「こいつ」


俺は呟く。


「怪我をしてる」


巨大な魔狼が。


低く唸る。


「グルルルル……」


アインが言う。


《技術者。危険です》


「ああ」


俺はハンマーを握った。


「でもな」


巨大な魔狼の前へ。


一歩。


踏み出す。


「壊れてるなら」


また一歩。


「直せるかもしれない」


その瞬間。


巨大な魔狼の赤い目が。


青く。


一瞬だけ光った。


そして。


俺の片眼鏡が。


これまでに見たことのない魔力反応を映し出す。


《未確認素材》


《古代兵装と同系統の魔力反応を確認》


「……は?」


俺は。


アインを見た。


そして。


巨大な魔狼を見る。


「まさか」


辺境の村。


壊れた古代兵装。


そして。


山の奥から現れた。


傷ついた巨大な魔狼。


全部が。


偶然なはずがなかった。


俺は、まだ知らなかった。


この魔狼との出会いが。


やがて。


この村の地下に眠る。


遥か昔の巨大な遺跡へと。


俺たちを導くことになる。


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