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修理特化の追放鍛冶師  作者: 進藤
第1章 追放鍛冶師と壊れた古代兵装

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#4 十八パーセントの古代兵装


ブラックファングの巨体が、夜空を舞った。


ドォォォンッ!!


村の外壁を越えた先。


地面へ叩きつけられた巨大な魔狼が、土煙を巻き上げる。


「……」


誰も声を出せなかった。


村人たち。


ダイン。


そして俺も。


ただ、村の外に立つアインの背中を見ていた。


《敵性個体、一体撃破》


アインが淡々と言う。


「……あれで十八パーセント?」


俺は思わず呟いた。


《はい》


「百パーセントだったらどうなるんだよ」


《未確認です》


「未確認?」


《長期間、停止していたため、本来の性能データに一部欠損があります》


「壊れてるのは、お前の記憶もか」


《……その可能性があります》


その直後。


森の奥から、低い唸り声が響いた。


グルルルルル……。


「まだいるぞ!」


村人の誰かが叫んだ。


赤い目。


一本。


二本。


十本。


二十本。


森の闇から。


ブラックファングたちが、次々と姿を現した。


「多すぎる……」


ダインが青ざめる。


先ほど吹き飛ばされた個体は、群れの一部だったらしい。


「アイン!」


俺は叫ぶ。


「今の状態で、何体まで相手にできる?」


アインは一瞬だけ沈黙した。


《現在の戦闘能力を基準に算出》


青い光が胸部で点滅する。


《推定、十二体》


「今、何体いる?」


《確認中》


アインの視線が、森へ向く。


《……三十七体》


「足りないな」


《はい》


その返事が、あまりにもあっさりしていた。


俺は周囲を見る。


村の防壁。


村人たち。


直した武器。


まだ直していない武器。


そして。


アインの右腕。


「……一人で全部倒す必要はない」


《?》


「村人たちにも戦ってもらう」


ダインがこちらを見る。


「俺たちも?」


「ああ」


「でも、武器が……」


「あるだろ」


俺は村人たちの手を見る。


昨日まで壊れていた剣。


欠けていた槍。


穴の空いた盾。


それらは、まだ新品ではない。


完璧でもない。


だが。


「壊れていたから、弱いわけじゃない」


俺は工房の方へ走った。


「アイン!」


《はい》


「時間を稼げ!」


《了解》


アインが前へ出る。


そして。


ブラックファングの群れへ向かって走った。


ドンッ!!


地面が揺れる。


「村人たち!」


俺は叫んだ。


「工房へ来い!」



「何をするんだ!?」


工房に駆け込んできたダインが聞く。


俺は棚から工具を取り出していた。


「武器の調整だ」


「今から!?」


「今だからだ」


俺はダインの剣を奪った。


「これ、昨日俺が直したよな?」


「ああ」


「振ってみてどうだった?」


「軽かった」


「それだけか?」


「え?」


「戦ったんだろ」


「……少し、軽すぎた」


俺は頷いた。


「そうだろうな」


ダインが驚いた顔をする。


「なんで分かる?」


「剣を見れば分かる」


俺は刃を見る。


刃こぼれ。


汚れ。


そして、柄に残ったわずかな傷。


「お前、振り下ろす時に力が逃げてる」


「……」


「軽い武器に慣れてないんだ」


俺は金床へ剣を置いた。


「お前には、少し重い方がいい」


カン!


ハンマーを振る。


柄の内部。


重心をわずかに変える。


魔力の流れを整える。


「これで」


カン!


「振り抜ける」


俺は剣をダインへ返した。


「行け」


ダインは恐る恐る剣を握る。


そして。


軽く振った。


ブンッ!


空気を切る音が変わった。


「……これだ」


ダインの目が変わる。


「これなら」


「戦える」


「そうだ」


俺は次の武器を手に取った。


「次!」



その頃。


村の外では。


アインが、一人で魔狼の群れを押し止めていた。


《敵性個体、十五》


ドォン!


《十六》


巨大な拳が、魔狼を吹き飛ばす。


《十七》


再生腕リバース・アームから、金属片が射出される。


ズドドドドッ!


だが。


魔狼たちは減らない。


むしろ。


アインの周囲を取り囲み始めていた。


《警告》


アインの胸部が点滅する。


《右腕部、損傷率二十三パーセント》


「もう壊れたのか!?」


俺は工房から叫んだ。


《粗悪な素材を使用しているため》


「聞こえてるぞ!」


《事実です》


「後で直す!」


俺は槍を受け取る。


「お前は槍を突く時、腕だけで動かすな!」


村人の男へ言う。


「腰を使え!」


「こうか?」


「違う!」


俺は槍を取り上げる。


「こうだ!」


その場で一度、構える。


「足を前に出す!」


「腰を回す!」


「腕は最後だ!」


「……分かった!」


「次!」


工房の中を、ハンマーの音が響く。


カン!


カン!


カン!


「お前は盾が重すぎる!」


「お前の剣は短い!」


「その斧、刃じゃなく柄が危ない!」


「そっちの魔導具は絶対に振るな!」


「なんで!?」


「爆発する!」


「えぇ!?」


俺は次々に武器を調整した。


修理。


改造。


補強。


交換。


新品を作る時間はない。


だから。


今あるものを。


今使える形にする。


それだけだ。



「レオン!」


ダインが叫んだ。


俺は振り返る。


「何だ!?」


「アインが!」


外を見る。


その瞬間。


俺の心臓が跳ねた。


アインの右腕が。


砕けていた。


再生腕リバース・アーム


俺が即席で作った右腕。


その装甲が、ひび割れている。


《警告》


アインの声が響く。


《右腕部、戦闘継続不能》


「……だろうな」


俺は呟いた。


急造品だ。


無理をすれば壊れる。


分かっていた。


それでも。


ここまで耐えた。


十分すぎる。


「アイン!」


俺は工房から飛び出した。


《危険です》


「知ってる!」


《鍛冶師は戦闘員ではありません》


「それも知ってる!」


魔狼が一体。


俺へ向かって飛びかかってくる。


「レオン!」


ダインの叫び。


その瞬間。


俺は地面に落ちていた折れた剣を拾った。


戦うためじゃない。


俺は剣を。


地面へ突き刺した。


そして。


「アイン!」


叫ぶ。


「こっちを向け!」


アインが振り返る。


俺は、折れた剣の柄を叩いた。


カン!!


金属音が響く。


その瞬間。


アインの胸部の青い光が強く反応した。


《……共鳴を確認》


「やっぱりか」


俺は笑った。


昨日から気になっていた。


アインの魔力回路。


そして。


俺が作った再生腕。


その二つは。


俺のハンマーで叩いた時だけ、反応が強くなる。


「お前の右腕!」


俺は叫んだ。


「まだ完全には壊れてない!」


《損傷率、四十七パーセント》


「半分以上残ってる!」


《楽観的判断です》


「鍛冶師はそういう生き物だ!」


俺は、もう一度。


剣を叩いた。


カン!


アインの右腕が青く光る。


カン!


砕けた装甲の隙間から。


魔力が走る。


カン!!


《未登録機能を確認》


「何だ?」


《外部技術者による、遠隔調整……?》


「そんな機能、知らないぞ!」


《本機も知りません》


「お前も知らないのか!」


だが。


右腕が。


再び動いた。


砕けた金属片が。


まるで意思を持つように集まり始める。


「……戻ってる?」


《再生腕、自己修復を確認》


俺は目を見開いた。


違う。


自己修復じゃない。


壊れた武器を繋いだ。


俺が繋いだ。


その時。


俺は金属同士を、ただ溶接したわけじゃない。


素材の流れ。


魔力の流れ。


音。


全部を聞いて。


「……戻りたい形を、残していたのか」


俺は呟いた。


壊れたものには。


壊れる前の姿がある。


そして。


それを覚えているものもある。


《再生腕、再構築》


アインの右腕が。


完全に形を取り戻す。


いや。


違う。


以前の腕より。


大きくなっていた。


《未登録武装、進化》


アインの右腕に。


新しい青い線が走る。


再生腕リバース・アーム・第二形態》


俺は笑った。


「第二形態?」


《名称登録を確認》


「俺、そんな名前付けたか?」


《技術者が以前、名称を叫んでいました》


「あれは勢いだ!」


《登録済みです》


「消せない?」


《不可能です》


「……まあいい」


俺は魔狼を見る。


「アイン」


《はい》


「今度こそ、行けるか?」


アインは、巨大な右腕を握った。


《戦闘継続可能》


そして。


少しだけ。


声の調子が変わった気がした。


《技術者》


「なんだ?」


《修理を感謝します》


俺は一瞬、言葉を失った。


古代兵装。


戦うためだけに作られた存在。


そんな奴が。


俺に礼を言った。


「……礼はまだ早い」


俺はハンマーを握り直した。


「戦闘が終わったら、もっと直す」


《了解》


アインが前へ出る。


その背中を見ながら。


俺は村人たちへ振り返った。


「武器を持て!」


ダインが剣を抜く。


村人たちも。


槍を構える。


「アインが道を作る!」


俺は叫ぶ。


「俺たちが、それを守る!」


《訂正》


アインが言った。


「何だ?」


《技術者も、戦闘に参加しています》


「俺は鍛冶師だ!」


《では》


アインの青い目が、こちらを向く。


《戦場の鍛冶師ですね》


「……」


俺は少しだけ笑った。


「悪くない」


その瞬間。


アインが地面を蹴った。


ドンッ!!


巨大な身体が。


魔狼の群れへ突っ込む。


《リバース・アーム》


青い光が走る。


《第二形態、起動》


次の瞬間。


壊れた武器から生まれた右腕が。


夜の闇を切り裂いた。


そして。


辺境の小さな村で。


戦えないと追放された鍛冶師の。


初めての戦場が始まった。



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