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修理特化の追放鍛冶師  作者: 進藤
第1章 追放鍛冶師と壊れた古代兵装

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3/5

#3 戦えない鍛冶師は、英雄の代わりに武器を作る


「徹夜だ」


俺は炉の火を最大まで上げた。


ゴォォォッ――!


赤く燃え上がった炎が、暗い工房を照らす。


その中央には、分解された古代兵装。


右腕はない。


胸部の装甲は大きく割れている。


関節の半分は動かない。


戦闘機能は使用不能。


どう考えても。


「……一晩で直せる状態じゃないな」


《肯定》


「お前、会話できるならもう少し早く言え」


《起動直後のため、発声機能が不安定でした》


「そうか」


《申し訳ありません》


「素直だな」


俺は、思わず笑った。


しかし。


笑っている場合ではない。


村の外では、鐘が鳴り続けている。


カン。


カン。


カン。


「魔物の数は!?」


外から誰かの叫び声が聞こえた。


「まだ分からない!」


「森から次々に出てくる!」


「村の防壁まで、あと少しだ!」


俺は古代兵装を見る。


「名前は?」


《個体識別番号、A-07》


「呼びにくい」


《……》


「A-07以外にないのか?」


少しの沈黙。


《ありません》


「じゃあ、アインでいいか」


《……》


「嫌か?」


《否定》


青い光が、わずかに揺れた。


《個体名を受領。以後、アインと名乗ります》


「よし、アイン」


俺は金床の前に立った。


「まず、右腕を作る」


《不可能です》


「なんでだ」


《専用素材が存在しません》


「専用素材がなければ作れない?」


《肯定》


俺は工房の隅を見る。


そこには。


折れた剣。


曲がった槍。


砕けた斧。


穴の空いた盾。


村人たちが「もう使えない」と捨てた武器が積まれていた。


「素材ならある」


《それらは低品質の鉄です》


「知ってる」


《本機の装甲とは適合しません》


「それも知ってる」


《では――》


「だから」


俺はハンマーを握った。


「合わせる」



「鍛冶師さん!」


工房の扉が勢いよく開いた。


入ってきたのはダインだった。


「何してるんだ!? もう魔物が――」


彼は途中で言葉を失った。


工房の中央。


分解された巨大な鎧。


そして。


青く光る魔力回路。


「……なんだ、これ」


「アイン」


《個体名、アイン》


「しゃべった!?」


ダインが飛び上がった。


「しゃべる鎧!?」


「鎧じゃないらしい」


《古代戦闘兵装です》


「もっと怖い!」


俺は言った。


「ダイン、ちょうどいい」


「何が!?」


「村にある壊れた武器を全部持ってきてくれ」


「は?」


「全部だ」


「今から武器を直すのか?」


「違う」


俺はアインを見る。


「こいつの腕を作る」


「……」


ダインはしばらく黙っていた。


「鍛冶師さん」


「なんだ」


「頭、大丈夫か?」


「急げ」


「大丈夫じゃなかった!」



十分後。


工房の前には、大量の壊れた武器が積まれていた。


村人たちが、家に残っていたものまで持ってきた。


「これも使えるか!?」


「折れた斧だ!」


「こっちは祖父の剣なんだが……」


「返せるなら返します!」


俺は叫んだ。


「全部、元の形では返せない!」


村人たちが静かになる。


「でも、無駄にはしない!」


俺は一本の折れた剣を炉に放り込んだ。


次に。


槍。


斧。


盾。


「今必要なのは!」


金属が赤く染まる。


「剣を一本直すことじゃない!」


俺はハンマーを振り上げた。


「村を守ることだ!」


カン!


工房に、音が響く。


「そのために!」


カン!


「使えなくなったものを!」


カン!


「もう一度、使える形にする!」


カン!!


金属が混ざり合う。


普通なら、ただの粗悪な合金になる。


だが。


俺には見える。


鉄の流れ。


魔力の癖。


それぞれの金属が、どこなら混ざり。


どこなら反発するのか。


「ここだ」


俺は金属を折り重ねた。


「お前はこっち」


カン!


「お前は中心だ」


カン!


「そして」


俺は炉の奥にあった、小さな金属片を取り出した。


アインの壊れた右肩から外した部品。


「お前が、全部を繋ぐ」


金属片を中央に置く。


その瞬間。


バチィィィッ!


魔力が走った。


《警告》


アインの声が響く。


《未確認素材による武装製造を確認》


「そうだ」


《安全性、保証不能》


「分かってる」


《破損の可能性、九十七パーセント》


「低いな」


《……?》


「三パーセントは成功するんだろ」


俺は笑った。


「なら、十分だ」



村の外壁が。


ドォンッ!


と、大きく揺れた。


「来たぞ!」


「魔物だ!」


「壁が!」


工房の外で、悲鳴が上がる。


「レオン!」


ダインが叫んだ。


「もう時間がない!」


「分かってる!」


俺は最後の一撃を振り下ろした。


カァァァン!!


工房の中に、澄んだ音が響いた。


その瞬間。


俺は分かった。


「……完成だ」


そこにあったのは。


剣でも。


槍でもなかった。


巨大な右腕。


複数の剣を芯にし。


槍の柄を骨格に。


盾の金属を外装に。


そして、アインの部品を魔力回路として組み込んだ。


本来の右腕とは似ても似つかない。


粗雑。


不格好。


だが。


「アイン」


《確認》


「腕を上げろ」


《右腕、接続》


俺は肩部に腕を取り付けた。


ガシャン。


ガシャン。


金属が噛み合う。


一瞬。


何も起こらなかった。


村の外から、再び轟音。


ドォン!!


壁が壊れた。


「……頼むぞ」


俺は、アインの肩に手を置いた。


そして。


最後の魔力回路を繋ぐ。


バチィィィッ!


《未登録武装を確認》


青い光が、右腕を走る。


《適合率――》


光が消える。


《計測不能》


「……は?」


俺とダインが同時に言った。


《原因》


アインの頭部が、ゆっくりとこちらを向く。


《本機の設計データに存在しないため》


「そりゃそうだろ」


俺は額を押さえた。


「俺が勝手に作ったんだから」


《しかし》


アインの右腕が動いた。


ギギギ……。


巨大な指が。


一本。


また一本。


ゆっくりと握られる。


《動作確認》


アインは拳を作った。


《成功》


「……成功?」


《はい》


俺は大きく息を吐いた。


「よし」


ダインが恐る恐る聞く。


「これ……戦えるのか?」


アインは答えた。


《戦闘機能、部分的に復旧》


「どれくらい?」


《通常性能の、推定十八パーセント》


「十八!?」


ダインが叫ぶ。


「全然ダメじゃないか!」


俺はアインを見る。


「十八パーセントで何ができる?」


少しの沈黙。


《村を守る程度なら》


アインは答えた。


《問題ありません》



工房の扉が開いた。


夜の空気が流れ込む。


そして。


村の外壁。


すでに、一部が壊れていた。


そこから。


大型の魔狼が、何匹も村へ入ってくる。


その数。


十。


二十。


さらに。


森の奥には。


もっと大きな影が見えた。


「……あれが群れのボスか」


四本の脚。


黒い毛皮。


人間の二倍以上の体。


「ブラックファングだ……」


ダインの声が震えていた。


「なんで、こんな辺境に……」


俺は答えなかった。


戦うのは俺じゃない。


俺は。


アインの背中を見た。


「行けるか?」


《問題ありません》


「無茶するな」


《理解不能》


「壊れたら困る」


《……》


アインは少しだけ沈黙した。


《了解しました》


そして。


一歩。


地面を踏みしめる。


ドン!


二歩。


ドン!


村人たちが、道を開けた。


「なんだ、あれ……」


「鎧が動いている?」


「いや……人形か?」


アインは、村の外へ歩いていく。


その右腕は。


俺が作った。


壊れた剣。


壊れた槍。


壊れた盾。


村人たちが捨てようとしていたもの。


それらを繋ぎ合わせた、不格好な腕。


だが。


アインが右腕を握った瞬間。


青い魔力が走った。


《武装名称、未登録》


「名前?」


俺は少し考える。


そして。


叫んだ。


「――再生腕リバース・アーム!」


アインの右腕が。


強く輝いた。


次の瞬間。


ブラックファングが吠える。


「グォォォォォッ!!」


巨大な魔狼が、アインへ飛びかかった。


村人たちが悲鳴を上げる。


だが。


アインは動かなかった。


ただ。


右腕を。


後ろへ引く。


そして。


「……?」


俺は気付いた。


俺の作った腕。


壊れた剣を芯にして作ったはずなのに。


剣の魔力が。


一本ずつ。


別々に動いている。


「まさか」


アインが拳を振った。


ドォォォン!!!


爆音。


次の瞬間。


ブラックファングの巨体が、夜空へ吹き飛んだ。


「……」


誰も声を出せなかった。


アインの右腕から。


無数の金属片が飛び出している。


それは。


村人たちが持ってきた。


折れた剣の破片だった。


《戦闘機能、確認》


アインが呟く。


《未登録武装》


右腕が、再び形を変える。


《性能、極めて良好》


俺は。


ゆっくり笑った。


「そりゃそうだ」


俺が直した。


俺が繋いだ。


「壊れたものはな」


アインの背中を見ながら。


俺はハンマーを握り直した。


「まだ終わってないんだよ」


その夜。


辺境の小さな村で。


誰も見たことのない古代兵装が目を覚ました。


そして。


追放された鍛冶師が作った。


世界に一つしかない武器が。


初めて。


魔物の群れへと牙を向けた。



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