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修理特化の追放鍛冶師  作者: 進藤
第1章 追放鍛冶師と壊れた古代兵装

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#2 壊れた鎧は、まだ終わっていない


「本当に、ここを使っていいんですか?」


翌朝。


俺はベルグ村の古びた工房の前に立っていた。


昨夜、魔物の襲撃を退けたあと。


村長から正式に、この工房を使ってほしいと頼まれた。


「もちろんだ」


村長のグレイは、白い髭を撫でながら頷いた。


「むしろ、こちらから頼みたいくらいだ。村には鍛冶師がいなくなって、もう一年になる」


「一年……」


俺は工房の中を見回した。


炉は壊れている。


ふいごは穴だらけ。


金床には大きなひびが入っていた。


鍛冶屋としては、かなり厳しい環境だ。


だが。


「悪くない」


「悪くないのか?」


「ええ」


俺は壁際に積まれた壊れた道具を見た。


「全部、まだ使えます」


村長が目を丸くする。


「それ、本気で言っているのか?」


「壊れているだけです」


俺はふいごを持ち上げた。


革は破れ、金具は錆びている。


普通なら、新しいものを買う。


だが。


「革は張り替えればいい。金具は磨けば使える」


次に炉を見る。


「炉も崩れているのは外側だけです。内部はまだ残っている」


そして。


金床に手を置いた。


「……これも大丈夫だ」


村長は、しばらく黙っていた。


「お前さん」


「はい?」


「昨日から思っていたが……」


グレイは困ったように笑った。


「壊れたものを見る目が、普通の鍛冶師と違うな」


俺は少し考えた。


そして答えた。


「そうかもしれません」


俺にとって。


壊れている、という言葉は終わりを意味しない。


壊れ方を見ればいい。


どこで。


なぜ。


どうして壊れたのか。


それが分かれば、直せる。


そして。


直す過程で、もっと良くできる。



工房の修理には三日かかった。


正確には。


三日で、工房だけなら直せた。


問題は。


「まだ終わらないのか?」


「終わりません」


村の若者、ダインが呆れた顔で聞いてきた。


俺は床に積まれた大量の武器を指差した。


「こっちがありますから」


村に残されていた壊れた装備。


剣、槍、斧。


防具。


盾。


古い魔導具。


そして、なぜか。


誰も触ろうとしない、大きな鉄の塊。


「それは放っておけよ」


ダインが言った。


「なんですか?」


「知らない」


「知らない?」


「昔から倉庫にあった」


俺は鉄の塊を見る。


身長ほどの大きさ。


人の形に近い。


だが。


鎧にしては分厚すぎる。


「……鎧か?」


「鎧?」


俺は近づいた。


表面は錆びている。


至るところが壊れている。


胸部には大きな穴。


片腕もない。


脚部は半分埋もれていた。


村の若者たちは、それを「鉄くず」と呼んでいた。


だが。


俺は触れた瞬間、違和感を覚えた。


「……これは」


片眼鏡を取り出す。


師匠から譲られた、古びた魔導具。


これを通して素材を見ると。


金属の内部を流れる魔力が見える。


俺は眼鏡をかけた。


そして。


息を止めた。


「どうした?」


ダインが聞く。


「……ありえない」


鉄の塊の内部。


そこには。


細い。


ほとんど消えかけた。


だが確かに存在する。


魔力の流れがあった。


「生きてる」


「は?」


「これ、まだ動くぞ」


村人たちが笑った。


「冗談だろ?」


「そんな鉄くずが?」


「何十年も倉庫に置いてあったんだぞ」


俺は答えなかった。


胸部の穴を覗き込む。


内部には、複雑な魔力回路があった。


普通の魔導具とは違う。


何重にも重なり。


互いに干渉し。


それでも。


かろうじて形を保っている。


「……これを作った奴」


俺は小さく呟いた。


「頭がおかしい」


「褒めてるのか?」


「最高の褒め言葉です」


俺は胸部に手を入れた。


そして。


指先で、内部の金属を軽く叩いた。


コン。


返ってきた音。


俺の背筋に、鳥肌が立った。


「……ダイン」


「なんだ?」


「この鎧、いつからここにある?」


「知らない。俺が生まれた時にはあった」


村長のグレイが近づいてきた。


「それなら、わしが知っているかもしれん」


「本当ですか?」


「ああ」


老人は、しばらく鉄の塊を見つめていた。


「昔、この村の近くには遺跡があった」


「遺跡?」


「山の奥にある。今は崩れて、誰も近寄らん」


俺は鎧を見る。


そして、もう一度魔力の流れを確認した。


「これは……遺跡から?」


「恐らくな」


グレイは頷いた。


「昔、村の者たちが運び出したらしい」


俺は笑った。


「村長」


「なんだ?」


「これ、俺が直しても?」


村長は困った顔をした。


「直せるのか?」


「分かりません」


俺は正直に答えた。


「でも」


胸部の内部を見つめる。


「こいつは、まだ壊れたことを認めていない」



その日の夜。


俺は一人で工房に残った。


鎧の前に座る。


魔力炉に火を入れる。


しかし。


ハンマーは握らなかった。


まだ叩く段階ではない。


まず。


知る必要がある。


俺は鎧を分解していく。


錆びた装甲。


壊れた関節。


複雑な魔力回路。


そして。


胸部の奥。


俺は、奇妙な部品を見つけた。


小さな黒い球体。


手のひらに収まるほどの大きさ。


だが。


それを持ち上げた瞬間。


――ピクリ。


球体が動いた。


俺は固まった。


「……今、動いたか?」


次の瞬間。


球体の表面に。


青い光が走った。


《識別中》


「……は?」


頭の中ではない。


工房の中に、声が響いた。


《識別完了》


《所有者情報、確認》


俺はゆっくりと後ずさった。


「おい」


《鍛冶師》


「いや、待て」


《技術者権限を確認》


「待て待て待て」


《再起動条件を満たしました》


鎧の残骸が。


ガシャン、と音を立てた。


村の外では、夜の風が吹いている。


誰もいない工房。


壊れたはずの鎧。


そして。


俺の目の前で。


片腕のない鉄の指が。


ゆっくりと動いた。


「……冗談だろ」


俺は思わず笑った。


王都では。


「修理しかできない」と笑われた。


だが。


目の前にあるのは。


何百年。


あるいは何千年も前の遺物。


誰も直せなかったもの。


誰も価値を理解できなかったもの。


俺はハンマーを握った。


「いいだろう」


鎧の胸部に手を置く。


「お前がまだ動きたいなら」


壊れた鎧の青い光が、強くなる。


「俺が直してやる」


その瞬間。


工房の外から。


大きな鐘の音が響いた。


カン。


カン。


カン。


村の見張り台から、叫び声が聞こえる。


「魔物だ!」


「また来たぞ!」


俺は窓の外を見た。


遠く。


森の中。


無数の赤い目が、こちらを見ていた。


昨日のゴブリンとは違う。


明らかに。


数が多い。


そして。


村の武器は、まだ全て直し終えていない。


「……最悪だな」


俺は鎧を見た。


鎧も、俺を見るように青く光っている。


《警告》


《戦闘機能、使用不能》


「だろうな」


《武装、欠損》


「分かってる」


《右腕、欠損》


「それも見れば分かる」


少しだけ沈黙。


そして。


《技術者へ提案》


「なんだ?」


《修理を要求します》


俺は笑った。


「……そう来ると思った」


工房の外から、村人たちの叫び声が響く。


残された時間は少ない。


だが。


俺は鍛冶師だ。


戦えない。


魔法も使えない。


だからこそ。


戦える奴を作ればいい。


俺は工房の扉を閉めた。


「よし」


炉の火を最大まで上げる。


「徹夜だ」


壊れた古代兵装と。


追放された鍛冶師。


辺境の小さな工房で。


二人の再起が、今始まろうとしていた。



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