#15 古代兵装の修理開始
巨大な魔力核を積んだ台車が。
修復工房へ戻ってきた。
「……重かった」
ダインが肩で息をする。
「これ、二人で運ぶものじゃないだろ」
「でも運べた」
レオンは満足そうに魔力核を見る。
「これで修復炉を動かせる」
「本当に動くのか?」
「ああ」
レオンは修復炉の前に立った。
巨大な炉。
長い年月、火を失っていた古代の設備だ。
その中央には。
魔力核を入れるための台座がある。
レオンは魔力核を確認する。
「純度は十分」
「じゃあ入れるぞ」
ダインと一緒に魔力核を台座へ運ぶ。
――ゴトン。
巨大な魔力核が固定された。
アインが解析する。
『魔力核――接続可能』
『修復炉への供給を開始できます』
レオンは炉を見上げる。
「よし」
炉の起動装置に手を置く。
――カチッ。
最初は何も起こらなかった。
「……?」
ダインが首を傾げる。
「壊れてるんじゃないか?」
「いや」
レオンは炉を調べる。
「魔力は届いてる」
「じゃあ何で?」
「起動するための回路が止まってる」
レオンは小さな工具を取り出した。
「ここも修理が必要だ」
「炉まで修理するのかよ」
「これを動かさないと、古代兵装が直せないからな」
レオンは炉の側面を開く。
内部には。
細い魔力回路が何本も並んでいた。
そのうち一本が完全に切れている。
「これだ」
銀針を取り出す。
――カチッ。
切れた回路を繋ぐ。
そして。
「起動」
レオンが装置を押した。
――ゴォォォォ……。
炉が低い音を立て始めた。
「おお……!」
ダインが目を見開く。
炉の中央に。
青白い炎が灯る。
――ボッ。
そして。
次第に炎が大きくなる。
『修復炉――稼働開始』
アインが告げる。
『出力――十二パーセント』
レオンは笑った。
「十分だ」
「十二パーセントで十分なのか?」
「ああ」
レオンは振り返る。
その視線の先には。
昨日止めた巨大な古代兵装がある。
「こいつを直すには十分だ」
巨大兵装を修理台へ運ぶ。
天井から吊り下げられた鎖を使い。
ゆっくりと巨体を持ち上げる。
――ガシャン。
修理台へ固定する。
「まずは右腕から」
レオンは右腕の装甲を見る。
「ここが一番ひどい」
モノクルをかける。
内部構造が浮かび上がる。
『右腕魔力回路――断裂多数』
『関節部――損傷』
『魔力伝達率――十三パーセント』
レオンは頷いた。
「やっぱりな」
ダインが横から覗き込む。
「直せそうか?」
「部品を交換するだけなら簡単だ」
「じゃあ――」
「でも、それじゃダメだ」
レオンは首を振った。
「こいつは古すぎる」
「古すぎる?」
「長い間、壊れたまま動いてた」
レオンは右腕を指差す。
「だから、回路そのものが変形してる」
「じゃあどうする?」
レオンは工具棚を見る。
そこから細い古代工具を一本取った。
「作り直す」
「作り直す?」
「ああ」
レオンは右腕の装甲を外した。
――ガコン。
内部の魔力回路が姿を現す。
細い管が何本も走っている。
しかし。
その半分以上が焼けていた。
「まず、壊れた部分を外す」
レオンは鑿を使う。
――キィン。
壊れた回路を一本ずつ取り除いていく。
「次」
レオンは素材箱を開ける。
中には。
採掘した古代魔力鉱石。
そして修復工房に残っていた古代銀。
レオンは古代銀を炉へ入れた。
――ボッ。
青白い炎が古代銀を包む。
「温度……ちょうどいい」
レオンは銀を取り出す。
そして。
細い棒状に伸ばしていく。
――カン。
――カン。
――カン。
金槌を振るたび。
古代銀が細く、長くなっていく。
ダインがじっと見ている。
「それが回路になるのか?」
「ああ」
レオンは答えながら手を止めない。
「魔力が流れる道を作る」
細く加工した古代銀を。
右腕の内部へ配置する。
一本。
二本。
三本。
「ここは関節」
「ここは魔力を分岐」
「ここは刃へ送る」
レオンは一つずつ位置を調整していく。
アインが解析する。
『魔力回路――再構築率三十パーセント』
「まだまだだな」
レオンは次の一本を手に取る。
そして。
最後の一本を置いた。
「これで――」
銀針を差し込む。
――カチッ。
「接続」
一瞬。
右腕全体が青白く光った。
――ゴォン。
巨大な右腕が。
ほんの少しだけ動く。
ダインが目を見開いた。
「動いた!」
レオンは笑った。
「まだ終わってない」
「え?」
「動いただけだ」
モノクルを見る。
『右腕魔力伝達率――十三パーセント』
『現在――三十八パーセント』
レオンは頷く。
「半分にも届いてない」
「でも、上がったんだろ?」
「ああ」
レオンは金槌を握り直す。
「ここからだ」
レオンは右腕の関節を見る。
「回路は繋がった」
次に。
刃を見る。
「でも、力を伝える部分が弱い」
さらに。
魔力炉を見る。
「それに魔力の流れも安定してない」
レオンは全体を見渡す。
「一か所直せば終わりじゃない」
ダインが頷く。
「全部繋がってるからか」
「そういうこと」
レオンは工具を置いた。
そして。
巨大兵装の胸部を見る。
「この兵装は、右腕だけが壊れてるわけじゃない」
「全身が壊れてる」
レオンは静かに言った。
「だから、一つずつ直していく」
その時。
古代兵装の胸部が。
――ポッ。
小さく光った。
『修復者』
レオンが振り返る。
『……右腕』
『……動く』
レオンは少し驚いた。
「分かるのか?」
『……分かる』
弱々しい声だった。
だが。
昨日よりは、はっきりしている。
レオンは笑った。
「なら、もう少し待ってろ」
「次はもっと動かせるようにする」
『……了解』
短い返事。
それだけだった。
だが。
レオンには十分だった。
「よし」
レオンは再び金槌を握る。
「修理再開だ」
――カン。
金槌の音が。
静かな古代工房に響く。
一打。
また一打。
壊れた古代兵装の右腕が。
少しずつ。
元の形を取り戻していく。
そして。
レオンのモノクルに。
新しい表示が浮かんだ。
『右腕――修復進行中』
『現在修復率――四十二パーセント』
レオンは目を細める。
「……まだだ」
金槌を構える。
「もっと上げられる」
古代の修復工房に。
再び鍛冶師の音が響き始めた。
――カン。
――カン。
――カン。
その音は。
長い間眠っていた古代兵装たちへ。
少しずつ。
届き始めていた。




