地獄の番犬4
魔界犬が吠え、尾を振り回す。
術士が弾き飛ばされる。
ルナが杖を握り締めた。
『まだよ!』
刻ノ力が広がる。
倒れかけた英雄の動きが立て直される。
レッドも再び踏み込んだ。
剣と牙がぶつかる。
火花。
咆哮。
魔法。
戦場のすべてが重なり合う。
そして最後の一団。
先ほど儀式について話していた魔界犬たちが、ついに前へ出た。
敵の攻撃を英雄たちが受け止める。
レッドが中央を切り開く。
そこへルナが力を重ねた。
『今よ!』
黄金の光が落ちた。
魔界犬たちが大きく吹き飛ばされる。
戦いは終わった。
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『げっ……
ケルベロス!!』
敗れた魔界犬が、引きつった声を上げる。
『おうおう……』
ケルベロスは三つの顔を近づけた。
『ずいぶん楽しそうな事してんじゃねぇか。
お前らがやってた事は、全部吐いてもらうからなぁ』
『べ、別に俺たちは悪い事なんて……』
『そうだ!』
もう一体が必死に続ける。
『お前だって悪魔は嫌いじゃねぇか!
掃除してやっただけだよ!』
『ほー……』
ケルベロスが低く笑った。
『そりゃぁいい話だなぁ。
俺も悪魔は大っ嫌いだしなぁ』
『ちょっと、ケルベロス!?』
ルナが慌てる。
『何言ってるのよ!』
魔界犬たちは勢いづいた。
『だろ!?』
『お前も協力してくれよ!』
『姉御は受け入れてくれるぜ!』
『いいぜ』
ケルベロスは頷いた。
『その話、乗った――』
一瞬だけ間を置く。
『……なんて言うかよ!!
噛み殺すぞてめぇら!!』
『ぎゃあああっ!?』
魔界犬たちが飛び上がる。
『策略やら儀式やら……
気に入らねぇんだよ!
俺だってあいつらは死ぬほど嫌いだが――
ナメた真似してんじゃねぇ!』
三つの牙が並ぶ。
『お前らも地獄の犬なら、てめぇの牙で勝負しやがれ!
それに何なんだ!?
尻尾振って媚びやがって!
お前らそれでも地獄の犬か!!』
最後には、二体とも完全に縮み上がっていた。
『わかったらとっととその下らねぇ儀式を止めて――
仕事に戻れ、ガキ共!!』
『は、はいっ!!』
魔界犬たちは大慌てで走り去った。
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その頃。
誰もいない暗がりで、一人の女の声が静かに響く。
『……邪魔されちゃったわね……』
『まあ、いいわ』
『私の愛を受け入れない愚か者……』
声の主が誰なのか。
ルナたちは、まだ知らない。
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『……えっと……』
レッドは、魔界犬たちが去った方を見る。
『これで、悪魔たちは……?』
『どうだろうなぁ』
ケルベロスは鼻を鳴らした。
『ま、原因があいつらの儀式なら、その内帰ってくんだろ』
『だったら……』
ルナは少し納得できない顔をする。
『あの儀式を止めなければよかったんじゃ……』
『ふん!
いいんだよ!』
ケルベロスは豪快に笑った。
『このくらいのハンデがあった方が面白ぇんだよ!』
『……地獄って、本当にそういう所なのね……』
ルナは呆れた。
その横で、レッドが何かを思い出す。
『そうだ……』
夢。
神殿。
女神ノ涙。
『夢で見たのは……』
周囲を探す。
黒い柱の陰。
炎に照らされた床の端。
そして――。
青い光が、微かに瞬いた。
レッドは女神ノ涙を見つけ出した。
『……あった!』
『!』
ルナが駆け寄る。
青く澄んだ、涙の形をした宝石。
間違いない。
『レッドの夢……』
ルナは宝石とレッドを交互に見る。
『今度も当たるなんて……
本当に予知夢なのかしら?』
『僕にも……
まだわからないよ』
レッドは静かに答えた。
ルナは女神ノ涙を大切そうに両手で包む。
『でも……
よかった……
やっと……
見つけられたわ』
『見つかったみたいだなぁ!』
ケルベロスが満足そうに吠えた。
『手伝ったかいがあってよかったぜぇ!』
『ええ』
ルナは微笑む。
『ありがとう、ケルベロス。
あなたがいなかったら、見つけられなかったわ』
『いいって事よ』
ケルベロスは少し照れくさそうに顔を逸らした。
『地獄のごたごたにも巻き込んじまったしなぁ。
あいつらは俺がしっかりシメとくから心配すんな』
それから出口の方へ向き直る。
『そんじゃ、また門まで送ってやるよ!
もう来んじゃ――』
そこで言葉が止まった。
レッドは小さく笑う。
『……来たら来たで、迎えてはくれるんじゃないかな。
ケルベロス……
優しいから』
『うるせぇ!』
ルナも笑った。
『ふふっ……
そうね』
女神ノ涙を手にした二人は、ケルベロスとともに地獄の門へ戻っていく。
荒々しく、不器用で。
それでも確かに優しい番犬に見送られながら。




