地獄の番犬2
『聞こえてるぞ』
『……』
少しだけ歩く速度を上げる。
けれど、ルナには別の疑問が残っていた。
『なんでタヌキムはケルベロスなんかと仲がいいのよ』
『私よりよっぽどケルベロスの方が怖いじゃない』
『う……うん……
そう……だね』
レッドは答えに困った。
タヌキムには逃げ回られたルナ。
それなのに、この巨大な三頭犬には懐いている。
本人にとっては納得できないのだろう。
『あの子、見る目が変なのかしら……』
『たぶん、そういう問題じゃないと思うけど……』
レッドは苦笑した。
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それからも三人は、地獄の道を進み続けた。
周囲の景色はさらに険しくなる。
赤黒い岩。
流れ落ちる溶岩。
牙のように尖った岩山。
人が暮らす世界とは、とても思えない。
しばらくすると、ケルベロスが苛立ったように声を上げた。
『ったく……
まだ見つからねぇのかよ?
もう帰ったらどうだぁ?』
『地獄はまだ続いてるんでしょ?』
ルナは即座に言い返した。
『ここで帰るなんて出来ないわ』
『ケルベロス、忙しいなら』
レッドが気遣うように言う。
『後は僕らだけで行けるから』
その言葉に、ケルベロスの足が止まった。
『よそ者ほったらかして門に帰れるかよ!
俺は地獄の番犬なんだよ』
『……な、何よ』
ルナは少し身構える。
『脅さないでよ』
『脅しじゃねぇよ』
ケルベロスは前方を睨んだ。
『地獄っつーのは、甘っちょろい場所じゃねぇんだ』
三つの瞳が、険しい地獄の奥を見つめる。
『タダでさえ……
最近はキナくせぇからなぁ』
その言葉に、ルナとレッドの表情が変わった。
また、この世界の「異変」に繋がる話なのかもしれない。
『それって……
"儀式"とかって何か?』
レッドが尋ねる。
ケルベロスは怪訝そうに振り返った。
『はぁ?
儀式?
何の事だ』
『ここに来る前に聞いたのよ』
ルナが説明する。
『儀式をしてるのかもって』
ドロシーと、その教官が口にしていた言葉。
悪魔たちが消えた理由を調べる中で、何らかの儀式が関係している可能性が示されていた。
だが、ケルベロスは鼻で笑う。
『けっ……
馬鹿言ってるぜ。
呪いなんざ回りくどい事、地獄でする訳ねぇだろ』
そして大きな牙を剥き出しにした。
『やるなら直接この牙でだ!
俺たちの世界は弱肉強食。
弱い奴は蹴落とされんだよ』
ルナは呆れたように眉を寄せる。
だが、ケルベロスは本気だった。
『闘争やらなんやらは日常茶飯事だぜぇ?
帰る気になったかぁ?』
『もう……
帰らないわよ!』
ルナはきっぱりと言い返す。
『宝石を見つけないといけないんだから!』
ケルベロスは三つの口から同時に息を吐いた。
そのまま歩き始める。
しばらくして、レッドは疑問を口にした。
『ケルベロスは……
どうしてそんなに僕らを帰そうとするの?』
『ふん!』
ケルベロスは一度立ち止まった。
『わかった。
そこまで言うなら教えてやる』
険しい地獄の奥へ顔を向ける。
『この程度の場所ならまだいいけどなぁ……
奥に行きゃぁ話は別だ。
さっきも言ったが、最近はキナくせぇ……
悪魔が消えてると聞いたが……
地獄の様子もおかしいんだよ』
ルナが目を見開く。
『地獄でも誰か消えてるの?』
『ああ』
ケルベロスの声から、いつもの荒々しさが少し消えた。
『モリガンって女なんだが……
魔界の最奥に行ってそれっきりだ』
モリガン。
新たな名前を、二人は記憶する。
『モリガンはイカれた女だが、実力だけは確かだからなぁ』
『そんな奴が消えた所に行こうってんだ』
三つの顔が、二人を睨む。
『宝石探しもいいが……
それで死にたかねぇだろ?』
一瞬、二人は言葉を失った。
ケルベロスは乱暴だ。
口も悪い。
それでも、二人が危険な場所へ進もうとしていることを本気で心配している。
『……ケルベロス……』
レッドが呟く。
『僕たちの事――』
『俺が通してやったんだからな!』
ケルベロスは照れ隠しのように吠えた。
『それで死んだら寝覚めが悪ぃんだよ!』
ルナは目を瞬いた。
そして――。
『……ふふっ』
思わず笑う。
『なんだ。
あなた、荒っぽいし怖いけど。
結構、優しいのね』
『はぁ!?』
『タヌキムが懐いて頼りにするの、少しわかった気がするわ』
『アイツは偶然拾ってから勝手に頼ってきてるだけだっつの!』
ケルベロスは大声で否定する。
『ちっ……
軟弱そうなくせにめんどくせぇ奴らだな』
だが、歩みは止めなかった。
むしろ二人を守るように、少し前を歩いている。




