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地獄の番犬1

火山から立ち上る炎を遠くに見ながら、ルナとレッドは灼けた大地を進んでいた。


悪魔の本拠地を離れ、ドロシーたちから聞いた「地獄」へ向かう道。


その先にある地獄の門も、もう遠くはないはずだった。


『地獄の門……

 そろそろ着くかしら』


ルナは赤い山並みの向こうへ目を凝らす。


『魔界犬っていうのが、ケロちゃんだったりするのかしらね』


タヌキムが助けを求めて何度も呼んでいた名前。


ケロちゃん。


その響きから、ルナは勝手に小さくて柔らかそうな生き物を想像していた。


『うーん……?』


レッドは少し考える。


()()()()って言って出てくるくらいだし……

 乱暴みたいだし……

 タヌキムの友達とは違うんじゃないかなぁ』


『それもそうね……』


女神ノ涙が示した"()()()()"。


ドロシーは、魔界犬の爪ではないかと言っていた。


もし本当にそうなら、この先に女神ノ涙へ続く手がかりがあるかもしれない。


そう考えた、その時。


『グラァァァァ!!』


地面を震わせるような咆哮が響いた。


『!!』


二人が身構える。


黒い木々の奥から姿を現したのは、三つの頭を持つ巨大な獣だった。


黒紫の身体。

背から突き出す鋭い棘。

三つの口には、どれも人の腕ほどありそうな牙が並んでいる。


『てめぇら!

 そこで何してやがる!!』


魔獣は三つの頭を揃えて吠えた。


『ここは地獄の門!

 魔界犬ケルベロスの守る地獄の入口だ!

 用もねぇのに来るんじゃねぇ!

 噛み千切るぞ!!』


ルナとレッドは思わず一歩下がった。


これまで出会った魔物の中でも、明らかに迫力が違う。


だが、ここで引き返すわけにはいかない。


『よ、用ならあるわよ!』


ルナは杖を握り直した。


『探し物があるの!』


『探し物だぁ?』


ケルベロスは三つの鼻を鳴らす。


『こんな所にある訳ねぇだろぉ?』


『探してみなきゃわからないでしょ!』


ルナも負けずに言い返した。


『邪魔するなら……

 力尽くでも通るわよ』


しばらくの睨み合い。


やがてケルベロスが、大きく息を吐いた。


『ったく……

 仕方ねぇなぁ』


意外にも、襲いかかってはこなかった。


『しばらく付き合ってやるよ。

 今回は目ぇつぶってやるけど、ちゃんと上から話を通せよなぁ』


『……な、なんとか先には進めそうだね』


レッドが安堵する。


『ええ……

 荒っぽいんだから』


ルナはケルベロスを見ながら、ふと首を傾げた。


『ケロちゃんって子は、こんな所で大丈夫なのかしら』


その瞬間、ケルベロスの三つの顔がこちらを向いた。


『なんだ、てめぇら……

 その呼び方知ってるって事はチビの知り合いか?』


『え!?』


『……まさか……』


レッドの視線が、巨大な三頭犬へ向かう。


『ケルベロスが……

 ケロちゃん……?』


『けっ……

 そう呼ぶのはあのチビくらいだけどなぁ』


ケルベロスは不満そうに鼻を鳴らした。


『気ぃ抜ける呼び方だが……

 あの顔見てると、怒るのも馬鹿馬鹿しくてよぉ』


『そ、そうだったんだ……

 タヌキム……ケルベロス……』


ルナは目の前の巨体を見上げる。


そして、心の底から残念そうに呟いた。


『そ、そんな……

 可愛いもふもふだと思ってたのに……』


一拍置いて。


『……ちっとも可愛くない!』


『聞こえてんぞ!!』


三つの咆哮が、地獄の門へ響き渡った。


------------------------------------------------------------


文句を言いながらも、ケルベロスは二人を地獄の奥へ案内してくれた。


歩き始めてしばらくすると、彼の方から本題へ触れる。


『宝石ぃ?

 んなモンを探しにこんな所まで来たのかよ』


『どうしても見つけないといけないものなんだ』


レッドが答える。


『ケルベロスは知らない?』


『知らねぇな』


返事は即答だった。


『石なんかにゃ興味ないぜ』


また空振りかと、ルナの肩が僅かに落ちる。


だが、ケルベロスは三つの鼻を鳴らした。


『ま、匂いがわかりゃ一発で見つけてやるけどなぁ』


『……匂い……』


レッドが納得したように頷く。


『そうか、犬だもんね』


『犬扱いするんじゃねぇよ!』


『ええっ!?』


レッドが飛び上がる。


『自分で魔界犬って言ってたじゃない!』


ルナまで思わず突っ込んだ。


『あなたが自分で言ったんでしょ!』


『ちっ……!』


ケルベロスは不機嫌そうに牙を鳴らす。


『付き合ってやるとは言ったが、馴れ合うつもりはないからなぁ。

 あんまり近づくと噛むから、そのつもりでついてこいよぉ』


『……う、うん……』


レッドは少し距離を取った。


その様子を見ながら、ルナは小さく呟く。


『まったく……

 番犬っていうより、ほとんど狂犬じゃない』

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