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魔界の異変2

その時、背後から低い声が響いた。


『……ドロシー』


ドロシーの身体が僅かに固まった。


振り返ると、同じような大きな帽子と杖を持った女性が立っている。


『誰だ……?

 ドロシーさんと同じような格好をしてるけど……』


レッドが小声で呟く。


ドロシーは一瞬、気まずそうな顔をした。


『教官……』


どうやら、ただの知り合いではないらしい。


『教官様の疑うような事は何もないわよ』


ドロシーは先回りするように説明した。


ルナは二人を見比べる。


『ドロシー?

 教官?』


『……途中だったわね』


ドロシーは観念したように息を吐いた。


『言ってなかったけど……

 私は見習い魔法使いなの』


目の前の女性は、その指導役らしい。


教官は厳しい目でドロシーを見つめた。


『自分のやる事も忘れて、余計な事をしてるお馬鹿さんはなおさら……ね』


『私はこの試験に落ちる気なんてさらさらないわ』


ドロシーも負けずに言い返す。


その空気から、どうやらルナたちと話している間も何かの試験中だったことがわかる。


そして話は、いつの間にか実力を示すことへ繋がっていった。


教官の杖が持ち上がる。


魔力が熱風を押し退けるように広がった。


『……来るよ』


レッドが剣を抜く。


ルナも杖を掲げた。


英雄たちが光とともに現れる。


試験を兼ねた戦いが始まった。


最初の魔法が地面を走った。


レッドは横へ飛び、直撃を避ける。


直後、別方向から光弾が降り注いだ。


黄金の英雄が翼を広げて受け止める。


黒帽子の術士たちが反撃する。


魔法と魔法が空中で衝突し、赤い大地を白く照らした。


第二の攻勢では、小型の魔物たちが左右から迫る。


レッドが前へ出て一体を受け止める。


背後へ回ろうとした敵へ、ルナの刻ノ力が届いた。


動きが鈍る。


その隙に英雄の攻撃が集中する。


第三、第四と攻撃は続いた。


教官の試験だけあって、敵は単純に力任せではない。


前衛がこちらを引きつけ、後方から魔法が飛ぶ。


ルナは戦場全体を見ながら、英雄たちへ声を飛ばした。


『右から来るわ!』


レッドが身を翻す。


剣で攻撃を弾き、開いた中央へ踏み込む。


黄金の英雄が上空から追撃した。


最後の敵が倒れる。


『……うふん』


戦いを見届けた教官は、僅かに口元を緩めた。


『遊んでいるからどうかと思ったけど……

 それなりに力はつけてるのね』


ドロシーは得意げに胸を張った。


だが、すぐに本題へ移る。


『それより……

 教官には報告があるの』


『この二人に聞いたのだけど、悪魔たちが消えているって噂、本当なの?』


教官の表情が変わった。


悪魔の異変は、単なる噂ではない。


それ以上の何かを、彼女は知っているようだった。


『……"儀式"……?』


レッドが、教官たちの会話から聞こえた言葉を繰り返す。


『"あの方"……?』


ルナも眉を寄せた。


教官は二人へ詳しく説明するつもりはないらしい。


『儀式については私が調べておくから』


そしてドロシーへ向き直る。


『あなたはもう戻りなさい』


『わかったわ』


ドロシーは肩を竦めた。


ルナたちにはまだ理解できない言葉が多い。


誰が何の儀式をしているのか。


それが悪魔の失踪とどう関係しているのか。


ただ、地獄側も異変を放置しているわけではないことだけはわかった。


『こっちの話よ』


ドロシーは二人へ笑う。


『地獄にも色々あるの』


『あまり気にしないで』


ルナは完全には納得していなかったが、今は自分たちの目的を優先するしかない。


『地獄はまだ探してないから、この先に向かってみる。

 魔界犬の爪も確かめたいし』


ドロシーは頷いた。


『鋭いもの……なら、それが一番可能性はありそうね。

 神殿のことは私にはわからないけど。

 地獄の門に行けば、話を知ってる子がいるかもしれないわ。

 ただ、話のわかる子たちではあるけど、どうにも乱暴だから……

 行くなら、気をつけてね』


『ありがとう、ドロシー』


ルナは素直に礼を言った。


『ドロシーも次の試験、頑張って』


『うふふ。

 もちろんよ』


------------------------------------------------------------


教官とドロシーが去ったあと、二人は再び赤い道を進み始めた。


『魔界犬……か』


レッドは夢で見た神殿を思い出す。


()()()()は、あの爪かもしれない』


『でも、神殿の方はまだわからないね』


『ええ』


ルナは前を見据えた。


『それに……

 悪魔が消えてる理由も』


古代ノ扉で起きた異変。


魔界ノ扉で起きている悪魔の失踪。


地獄の者たちが口にした、謎の儀式。


ただ女神ノ涙を探すだけだった旅の先で、複数の世界の異常が少しずつ重なっていく。


カースの呪いと関係があるのか。


ヴァイオレットが何かを知っているのか。


クロノアの失われた記憶に答えがあるのか。


今はまだわからない。


『行きましょう、レッド』


『うん』


二人が目指すのは、地獄の門。


そこには魔界犬がいるかもしれない。


そして、その先には――。


第二の女神ノ涙へ続く手がかりが待っているかもしれない。


ルナとレッドは、燃える大地のさらに奥へ歩き出した。

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