悪魔の住処3
『えへへ……
もう、逃げられないね……』
サッハークは無邪気に笑った。
タヌキムは震えながら後ずさる。
『きみゃぁ……!』
『そんな事言ってもだめだよ』
サッハークは蛇たちを撫でる。
『大丈夫だよ……
この子たちは、痛くないようにぱくっと……』
『大丈夫なわけないでしょ!』
ルナが間へ割って入った。
『悪魔さんたちもいないし……
わたしが用意しないと……』
『どうしてよ……』
ルナは信じられないという顔でサッハークを見る。
一緒に歩き、心細そうな姿を見ていた。
だからこそ、簡単に敵だとは思いたくない。
だが、サッハークにとって蛇たちへ餌を与えることも、生きるために必要なことなのだろう。
『わたしの邪魔をするの……?』
サッハークの表情が曇る。
『だったら、わたし……
お姉ちゃんたちを許せない……』
蛇たちが一斉に身を持ち上げる。
さらに、思いついたように微笑んだ。
『そうだ……
その子と一緒に、お姉ちゃんたちも食べちゃおうか……』
『……!!』
ルナはレッドの腕を掴んだ。
『逃げるわよ!
レッド!』
『う、うん!』
二人はタヌキムを連れ、その場から全力で走り出した。
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どれだけ走ったのか。
サッハークたちの姿が見えなくなったところで、ようやくルナは足を止めた。
『こ、ここまで来れば……!』
息を整えながら後ろを見る。
『レッド!
サッハークは見える?』
『……いない。
追ってきてないみたい』
『そう……
よかった……』
足元では、タヌキムも胸を押さえていた。
『こわかったー!
こわかったー!』
そして突然叫ぶ。
『ケロちゃーん!
ケロちゃーん!』
『ケロちゃん……?』
ルナが首を傾げる。
タヌキムは誇らしげに胸を張った。
『ケロちゃんはクロちゃんなんだもん!
あっちのおやまにいるんだもんね!
あくまなんかにはまけないんだもんね!』
指差したのは、火山の方角。
地獄があるという場所だった。
レッドは遠くを見つめる。
『もう、悪魔の本拠地には戻れそうもないし……』
『そっちに行ってみるしかないかな』
ルナも頷いた。
『!』
そして、タヌキムを見て目を輝かせる。
『ケロちゃんに会いたいんでしょ?』
『私たちと一緒に来れば――』
そこまで言ったところで、タヌキムは嫌な予感を察したらしい。
『もしかしたら、私が触れるチャンスだって……』
『ふふっ!』
『きみゃー!!』
タヌキムは再び全力で逃げ出した。
『あっ!
待ちなさい!』
当然、追いつけない。
レッドは遠ざかる桃色の姿を見ながら苦笑した。
『……逃げられたね』
『サッハークとは反対の方向だし、安全だとは思うけど……』
『……どうしてなの……?』
ルナは本気で落ち込んでいた。
『ただちょっと、触りたいだけなのに……』
しばらく歩いてからも、ルナは何度か後ろを振り返った。
サッハークの姿はない。
追ってくる蛇の気配もない。
ほっとする一方で、胸には小さな引っかかりが残った。
サッハークは悪意だけでタヌキムを狙ったわけではない。
世話をしている蛇たちを飢えさせないため、自分なりに餌を探していただけなのだ。
けれど、だからといってタヌキムを見捨てることもできなかった。
この世界では、誰かが生きるための当たり前が、別の誰かにとっては脅威になる。
古代ノ扉とは違う魔界の理を、ルナは少しずつ思い知らされていた。
それでも今は、立ち止まって答えを出している余裕はない。
女神ノ涙と、消えた悪魔たち。
二つの手がかりは、どちらも火山の先――地獄へ向かい始めている。
女神ノ涙。
消えた悪魔たち。
地獄。
そして、タヌキムが呼ぶ「ケロちゃん」。
新たな手がかりを追い、二人は火山の方角へ進むことになった。




