悪魔の住処2
三人と蛇たちは、本拠地の周辺を歩き回った。
だが、どこへ行っても状況は変わらない。
『……誰もいないね』
『そうね……
失敗したわ』
ルナは肩を落とした。
『もう少しミシェルに話を聞いておけばよかった』
『あはは……
逃げてきちゃったね……』
レッドの言葉に、ルナは嫌そうな顔をする。
『どうしようもなかったら、一旦戻ってみようか』
『……出来れば
戻りたくないけど……
そうしないと駄目かしらね』
それ以上に気になるのは、本拠地の静けさだった。
『でも、こうも見つからないなんて一体どうなってるのよ?』
サッハークが小さく手を挙げる。
『えっと……
悪魔さんたちは、悪魔書契約に呼ばれてどこかへ行く事があるの……
だから、何人かいない事はいつもあるけど……
みんないないのは、初めて……』
普段の仕事なら、全員が同時に戻らなくなることはないらしい。
『難しい契約なのかな……
それとも、地獄の人とケンカしてるのかなぁ……』
『地獄って……
あの火山の方の?』
レッドが尋ねる。
『そっちにも誰かいるの?』
『いるよ……』
サッハークは頷いた。
『悪魔さんたちと敵対してる大きな勢力なんだって……
会うといつもケンカしてるの……』
さらに彼女は、この魔界では力がものを言うのだと話した。
『ここではね、強くなくちゃ生き残れないんだよ……』
少し前にも、恐ろしい女性が現れたことがあったらしい。
悪魔たちが消えたことと関係があるのか。
まだ何も分からない。
ただ、女神ノ涙を追う道の先に、この世界の異変が重なり始めていた。
それからも探し続けたが、成果はなかった。
『はぁ……
人も悪魔も見当たらないわね……』
ルナが息を吐く。
サッハークも周囲を見回した。
『ううん……
ご飯になりそうなものはないみたい……』
蛇たちのための食料も見つからない。
『この子たち、何を食べるの?』
『色々食べるよ……』
サッハークは蛇へ視線を落とした。
『だから、悪魔さんたちに助けてもらってたの……
わたしだけじゃ、難しいから……』
レッドは心配そうに蛇を見る。
『そう……だったら、元気がないのは心配だね』
その時。
小さな足音が、赤い森の向こうから聞こえてきた。
『え?』
茂みの陰から現れたのは――。
『あ!
タヌキム……!
もしかして……』
ルナの顔が一瞬で明るくなる。
以前逃げ回っていた、桃色でもふもふの生き物だった。
だが、サッハークの反応は全く違った。
蛇たちを見て、タヌキムを見て。
『……お肉……』
ぽつりと呟く。
『この子なら、食べれるよね……』
『さ、サッハーク?』
ルナの笑顔が固まった。
『今なんて……
まさか、タヌキムを……』
タヌキムも状況を理解したらしい。
『き、きみゃー!!?』
悲鳴を上げて逃げ出す。
『た、タヌキムを……
タヌキムを食べる……?』
ルナの顔から血の気が引いた。
『ルナ、落ち着いて!』
『とりあえず追うよ!』
レッドが走り出す。
サッハークと蛇たちも追う。
『待って……!
この子たちのごはんにしなくちゃ……!』
『絶対駄目よ!!』
灼熱の大地で、奇妙な追跡が始まった。
やがて逃げるタヌキムの前へ魔物の群れまで現れ、道を塞ぐ。
ルナは杖を掲げた。
『どきなさい!
タヌキムに近づかないで!』
鏡ノ扉の英雄たちが光とともに現れる。
第一の群れへ、黄金の英雄が突撃した。
魔物の爪を翼で弾き、地面へ押し返す。
左右から迫る敵へ、術士の魔法が炸裂した。
第二の群れは獣型の魔物だった。
レッドが剣で牙を受け流し、側面へ回る。
そこへルナの刻ノ力が重なり、敵の動きが一瞬だけ止まる。
第三、第四の群れも続く。
黒い術士。
小さな悪魔。
牙をむく獣。
敵が増えるほど、ルナの焦りも強くなる。
『早く!
タヌキムが食べられちゃう!』
『そっち!?』
レッドの声が響く。
最後の敵を退けると、タヌキムはもう逃げ場を失っていた。
そして、その背後からサッハークがゆっくり近づいていく。




