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力の証明1

灼けた大地を歩きながら、ルナは何度目かのため息をついた。


『はぁ……ミシェルは追いかけてこないわね』


あれほど執拗に絡んできた夢魔の姿は、もう見えない。

ほっとしたのも束の間、胸の奥には別の不安が残っていた。


『ずいぶん時間を取られたわ……。

 早く女神ノ涙を探さなくちゃ』


女神ノ涙を狙う敵は、カースだけではない。


古代ノ扉で現れた、ヴァイオレットという少女。

彼女もまた女神ノ涙の存在を知り、ルナたちから奪おうとした。


『敵はカースだけじゃないもの。

 あのヴァイオレットって子も、女神ノ涙を探してるはずだし……』


レッドも険しい顔で頷いた。


『……ヴァイオレット……か。

 彼女は、どうして女神ノ涙を知ってるんだろう』


鏡ノ扉の向こうの住人たちは、女神ノ涙の名すら知らない者がほとんどだった。

それは刻ノ少女と女神に関わる、特別な存在のはずだ。


『鏡ノ扉の向こうの人たちは誰も知らない』


『ええ。

 知っているのは刻ノ少女(ときのしょうじょ)だけのはずよ』


ルナは胸元の宝石に触れた。


カースも知っていた。

ヴァイオレットも知っていた。


ならば、自分の知らない何かがあるのかもしれない。


『でも、カースも知っていたし……

 私の知らない事があるのかもしれないわ』


『女神様に聞けば、わかるかしら』


その言葉に応えるように、女神ノ涙が光を放った。


『……ッ!』


眩い光が二人を包む。


『この光……!』


光の中から白い羽根が舞い、長い金髪と翼を持つ女性が姿を現した。


『女神様!』


クロノアの記憶の欠片だった。


クロノアの姿を見るのは、これが二度目だった。


古代ノ扉で初めて出会った時と同じ、柔らかな白い光。

けれどルナには、あの時よりも少しだけ彼女を近く感じられた。


最初の女神ノ涙を見つけ、その側に眠っていた記憶を目覚めさせた。

旅を始めたばかりの頃には、本と伝承の中にしかいなかった女神が、今はこうして目の前にいる。


だからこそ、ヴァイオレットのことも聞いておきたかった。


カースとは違う、新たな敵。

自分たちの存在を知り、女神ノ涙を集めさせまいとする少女。


もしクロノアが何かを知っているなら、これ以上ない手がかりになる。


ルナは期待と不安を胸に、女神へ視線を向けた。


旅の中で出会った者たちは、みな女神ノ涙を知らなかった。

だからこそ、それを当然のように知っていたヴァイオレットの存在は異質だった。


敵なのか。

それとも、まだ知らない事情を抱えているのか。


戦って退けた今も、その問いだけは残り続けている。


『……来たのですね』


穏やかな声が、熱風の中でもはっきりと届く。


クロノアはルナの胸元へ視線を落とした。


『その、女神ノ涙……

 すでに記憶を目覚めさせているのね……』


『はい。

 女神ノ涙も、ひとつ見つけました』


ルナの声には、わずかな誇らしさが混じった。


長い探索の末に得た最初の一つ。

けれど、喜びだけを報告することはできない。


レッドが一歩前へ出る。


『でも……

 女神ノ涙を狙う敵にも会ったんです』


『ヴァイオレットという子に』


『ヴァイオレット……?』


クロノアの表情が、僅かに曇った。


しばらく沈黙したあと、彼女は静かに首を横へ振る。


『……わかりません』


今のクロノアは、完全な女神ではない。

散らばった記憶の欠片の一つに過ぎない。


『ですが……

 記憶の欠片がもう少し集まれば、思い出せるかもしれないわ。

 今は役に立てず、ごめんなさい』


『そんな……』


ルナは首を振った。


クロノアはそんな彼女を見つめ、穏やかに言葉を続ける。


『けれど、今はわからずとも進んでいけば、必ず道は開けるでしょう』


そして、槍を静かに掲げた。


『さあ……

 その力を、わたくしに示すのです』


記憶を目覚めさせるための、再びの試練。


ルナとレッドは顔を見合わせ、同時に頷いた。

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