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魔界の悪魔5

『もう……

 あなた、何よぉ?』


戦いを終えた直後。


ミシェルは目の前の男を、露骨に不満そうな顔で見つめていた。


『私はこれから、この子たちと遊ぶ所だったのに……』


『それはあなたの勝手な予定でしょ』


ルナはきっぱり言う。


『私たちは相手しないわよ』


『私から奪うだけ奪って、捨てていくって言うのぉ?』


ミシェルは胸へ手を当て、大げさに傷ついた顔をする。


『ずいぶんひどいのねぇ』


『変な言い方しないでよ!』


ルナの顔が赤くなる。


『ちょっと話を聞いただけじゃない!』


そのやり取りを聞いていた男が、突然声を震わせた。


『み、ミシェルさん……!』


全員の視線が集まる。


男は緊張しながらも、一歩前へ出た。


『俺はあなたを一目見て虜になったんだ!』


『!』


ミシェルが目を瞬く。


だが男は止まらない。


『地獄の軍勢を敵にしてもいい!

 魂を奪われても構わない……!』


その声には、本気の熱がこもっていた。


『あなたのために全て捨てよう!

 俺を愛して……選んでくれ!』


さらに、ルナとレッドを指す。


『そこの二人より、俺の方が満足させられるはずだ!』


『…………』


短い沈黙。


『……微妙にけなされてるけど』


ルナは小声で呟いた。


『ちょうどいいわ……』


そしてレッドの腕を引く。


『レッド、行くわよ』


『え?

 う、うん……』


二人はその場から静かに離れていく。


止める者はいなかった。


男の視線は完全にミシェルだけへ向けられ、ミシェルもまた、ようやく現れた新しい遊び相手へ興味を移したらしい。


ほんの少し前まで執拗に引き留められていたことを思えば、これ以上ない好機だった。


ルナは足音を立てないように歩きながら、少しずつ距離を広げていった。


レッドも何度か振り返ったが、結局何も言わず、その後を追う。


背後では、ミシェルが男へゆっくり近づいていた。


『……ねぇ』


『本当に私のために、全部投げ出してくれるのぉ?』


『私を……

 あなたで満たしてくれるのかしらぁ?』


『ああ、もちろんだとも……!』


男の返事を聞き、ミシェルは嬉しそうに微笑んだ。


『うふふ……

 嬉しい……』


『なら、今だけは……』


『私はあなたのモノよぉ……』


その先を聞く前に、二人は歩調を速めた。




しばらく進んだところで、レッドが後ろを振り返る。


『な、なんだか異様な雰囲気が漂ってたね……』


『逃げてきて大丈夫かな』


『……あの人は自分から来たんだから』


ルナは前を向いたまま答える。


『相手するのは嫌じゃないでしょ』


それより、と歩みを速めた。


『これ以上いたら、本当に逃げられなくなりそうだし早く行きましょう』


『まったく……

 次に会う人はまともだといいけど』


『……探してるのが悪魔、だからね』


レッドは苦笑する。


『どうだろう……』


だが、すぐに表情を曇らせた。


『でも、ミシェルさんの話じゃ』


『その悪魔もいなくなってるんだよね……』


古代ノ扉。


そして、魔界ノ扉。


二つの異なる世界で、ほとんど同じ時期に異変が起きている。


片方は、人と自然の均衡が崩れ、戦争とドラゴンが現れた世界。


もう片方は、一大勢力だった悪魔たちが、契約に呼ばれたまま戻らなくなっている世界。


起きている現象はまるで違う。


それでも「今までなら起こらなかったことが、急に起こり始めた」という一点だけは共通していた。


『古代ノ扉も異変が起きてて、ここもだなんて……』


レッドは赤い空を見上げた。


『何か、あるのかな?』


『……わからないわ』


ルナは胸元へ手を添える。


『呪いの影響か……』


脳裏に、白い仮面の男――カースの姿が浮かぶ。


そしてもう一人。


古代ノ扉で女神ノ涙を奪おうとした、紫髪の少女。


『それとも……

 カースや、あの子……』


『ヴァイオレットが何かしてるのか……』


答えはない。


カースは女神ノ涙を奪おうとし、ルナへ呪いをかけた。


ヴァイオレットもまた、女神ノ涙を集めさせるわけにはいかないと告げた。


二人の目的が同じなのかさえ分からない。


だが、どちらも鏡ノ扉の世界と無関係な存在ではないことだけは確かだった。


ただの偶然なのか。


女神ノ涙を巡る何かが、世界そのものへ影響を与えているのか。


今の二人には、まだ確かめる術がなかった。


『とにかく……

 今は進みましょう』


ルナは悪魔の本拠地があるという方角を見据えた。


『今度こそ、何か掴まなくちゃ』


『うん』


女神ノ涙が示した()()()()


レッドが夢で見た神殿。


姿を消し始めた悪魔たち。


そして、ミシェルが口にしたベリアルとサタナキアという二つの名。


新たな謎を抱えながら、ルナとレッドは魔界のさらに奥へ進んでいく。


次こそ、女神ノ涙へ続く確かな手がかりを得るために。

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