魔界の悪魔2
『私たちは、遊びに来たわけじゃないの』
ミシェルの誘うような視線を受けても、ルナは一歩も引かなかった。
『聞きたい事があるのよ』
『あらん……なぁに?』
ミシェルはつまらなさそうに肩を竦める。
『私と遊ぶよりタノシイ事なのかしらぁ?』
レッドがルナの隣から尋ねた。
『涙の形をした宝石を探しているんです。
ミシェルさんは、知りませんか?』
『そぉねぇ……』
ミシェルは顎へ指を当て、少し考える。
だが答えはあっさりしていた。
『知らないわぁ。
私、宝石にはあんまり興味がないもの』
また手がかりが途切れた。
ルナが僅かに肩を落とす。
タヌキムからゴブリンへ。
ゴブリンから悪魔へ。
出会う相手を辿るたび、少しずつ前へ進んでいるようには見える。
しかし、肝心の女神ノ涙そのものを知る者には、まだ一人も出会えていない。
胸元の時計が急に重く感じられた。
焦っても仕方がない。
それは分かっている。
けれど、自分に残された時間が限られている以上、空振りのたびに不安が積み重なっていくことまでは止められなかった。
しかし、ミシェルはそんな彼女を見て、愉しげに続けた。
『宝石なんかより、カワイイコの方がよっぽど魅力的なのよぉ。
例えば……あなたたちみたいな、染めがいのありそうなコ……』
その紫の瞳が、二人を舐めるように見つめる。
『なんて、とっても美味しそう……』
『!!?』
二人の身体が同時に固まった。
『あなた……
人を食べるの!?』
ルナは即座に杖を構えた。
『レッド、行くわよ!』
『う、うん……』
二人がその場から離れようとすると、ミシェルは声を上げて笑った。
『あら、やだ。
うふふ……!
そういう意味じゃないわよぉ』
『どういう意味でもいいわよ』
ルナは振り返りもせず言い切る。
『あなたが宝石を知らないなら、ここにいても仕方がないし』
そこで足を止め、ようやくミシェルへ振り返った。
『ここ以外にも悪魔はいるんでしょ?
その人に会いに行けばいいわ』
『あん、つれない子ねぇ……』
ミシェルは残念そうに唇を尖らせた。
『他の悪魔なんて、そう簡単に会えないわよぉ』
『会えないって……
どういう事ですか?』
レッドが問い返す。
『あらん、そんなに会いたいの?』
ミシェルはわざとらしく胸へ手を当てる。
『妬けちゃうわねぇ』
『もう、はぐらかさないでよ』
ルナの声に苛立ちが混じる。
『あなたが知らないなら、他の人に聞かなきゃいけないの』
『うふふ……』
ミシェルはその反応すら面白そうだった。
『オネダリされたら、答えてあげなくちゃねぇ?』
ようやく、彼女の表情がほんの少し真面目になる。
『ここにいる悪魔が、減ってるのよぉ』
『同じ悪魔の私でも、ほとんど出会えないのぉ』
『数が減ってる……?』
ルナは眉をひそめた。
『元々、数が少ないって事?』
『違うわよぉ』
ミシェルは首を横へ振る。
『私たち悪魔は、この世界の一大勢力のひとつ……
ほんとだったら、大勢いるわぁ』
それなら、今の静けさは異常だ。
ここまで歩いてきても、人影どころか悪魔らしい姿すらほとんど見ていない。
時折聞こえるのは、地面の奥で溶岩が弾ける音と、熱風に黒い枝が軋む音だけ。
この世界に来たばかりの時は、それが魔界では当たり前なのだと思っていた。
だが、本来なら大勢いるはずの悪魔が姿を消しているのなら、この静寂そのものが異変の証拠なのかもしれない。
ルナとレッドは顔を見合わせた。
二人とも、古代ノ扉で聞いた「異変」という言葉を思い出していた。
世界が違っても、平穏だったはずの日常が崩れ始めている。
女神ノ涙とは別の問題が、この世界でも起きている。
しかも、それは決して小さな変化ではない。
そんな予感が、二人の胸に生まれ始めていた。




