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魔界の悪魔1

赤黒い空の下を、ルナとレッドは黙々と歩いていた。


足元には溶岩のような光を宿した亀裂が走り、ねじれた黒い木々の隙間を、熱を帯びた風が吹き抜けていく。


魔界ノ扉へ来てから、それなりの時間が経っていた。


だが、女神ノ涙へ直接繋がるような手がかりは、まだ得られていない。


『ここに来てから、ロクな手がかりがないわ』


ルナは不満そうに辺りを見回した。


『タヌキムは可愛かったけど……

 ゴブリンは揃いも揃ってどうしようもないし』


タヌキムの姿を思い出したのか、声が一瞬だけ柔らかくなる。


その隣で、レッドは苦笑した。


『あはは……

 ()()()()も、神殿みたいな景色も見当たらないね……』


女神ノ涙が示した「鋭いもの」。


そして、レッドが夢の中で見た神殿のような場所。


どちらも、この灼けた大地のどこに繋がっているのか分からない。


『エスみたいに、木々に話を聞ければよかったんだけど……』


そう口にしたあと、レッドは改めて周囲へ視線を巡らせた。


『そういえば、人にも会わないね。

 タヌキムやゴブリンみたいな生き物しかいないのかな?』


『……どうかしら。

 わからないけど……

 そういう世界もあるかもしれないわ』


ルナは鏡ノ扉について思い返すように目を細めた。


『鏡ノ扉はそれぞれで全然違う世界に繋がってるの』


『見た目もルールも、

 世界によって違ってくるし……

 そんな世界があってもおかしくないわ』


古代ノ扉では、人も森人も魔物も同じ世界に暮らしていた。


森には森の理があり、人里には人の暮らしがあった。

同じ鏡ノ扉の向こうでも、場所が変わるだけで景色も常識も大きく違っていた。


ならば、この世界には魔の者ばかりが住んでいたとしても、不思議ではないのかもしれない。


そう頭では理解していても、ルナにはまだ実感が追いつかなかった。


刻ノ大地しか知らなかった頃なら、赤い空も、溶岩の走る地面も、悪魔が暮らす世界も、本の中の話でしかなかっただろう。


旅を始めてから、知らなかったものが次々と現実になっていく。


それは驚きでもあり、同時に、自分たちがどれほど広い世界を守ろうとしているのかを思い知らされることでもあった。


『ゴブリンの言ってた悪魔が、まともに話の出来る相手って事を祈るしかないわね』


ルナがそう呟いた、その時だった。


『あらん……

 悪魔にそんな事、期待するだけ無駄だわぁ』


背後から、艶のある女の声が落ちてきた。


『!』


二人が振り返る。


そこにいたのは、紫色の髪と大きな黒い角を持つ女だった。


背には小さな蝙蝠のような翼。


身体を包む衣装も紫を基調としており、人間に似た姿でありながら、漂う気配は明らかに異質だった。


女は二人を上から下まで眺め、愉しそうに微笑む。


『久々に、カワイイ子が来たわねぇ.

 悪魔に何かご用かしらぁ?

 ここにいるのは私だけよぉ』


ルナは警戒しながら杖へ手を添えた。


『あなたが……悪魔?

 見た所……人間とあまり変わりがないみたいだけど』


『見た目で判断しちゃダメよぉ』


女は指先を口元へ添える。


『私はミシェル……

 夢魔の一人だもの』


"夢魔"


初めて聞く言葉に、レッドがわずかに眉を寄せる。


人の姿に近いからこそ、かえって判断が難しい。

タヌキムやゴブリンなら、一目見ただけで人間ではないと分かった。


だがミシェルは違う。


角と翼さえ除けば、古代ノ扉で出会った人々と大きく変わらない。

それなのに、彼女の笑みの奥には、どこか相手を弄ぶような色があった。


ルナは警戒を解かないまま、女神ノ涙のことを聞く機会だけは逃すまいと考えていた。


ミシェルはそんな二人の反応を楽しむように、さらに笑みを深くした。


『退屈していたところなのぉ。

 せっかくだから、遊んであげるわぁ』


そして、二人へ一歩近づく。


『でも……

 油断してると、あなたのぜーんぶ、もらっちゃうわよぉ……?』


甘い声とは裏腹に、その言葉には悪魔らしい危うさが滲んでいた。


ようやく出会えた、まともに会話のできる悪魔。


だが――。


どうやら、素直に情報を教えてもらえる相手ではなさそうだった。

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