ゴブリンの企み4
『悪魔の取り立てがなくなったゴブ!
稼ぎ時だっていうのがわからないゴブか!!』
敗北してなお、親分は部下たちへ怒鳴りつけた。
すると、三体のゴブリンも一斉に反発する。
『お前の命令なんてもう聞かないゴブー!』
『俺たちは独立するゴブ!
地獄に送ってやるゴブよ!』
『嫌ゴブ!
俺は悪魔派ゴブ!
おねーさんと遊びたいゴブ!』
『うっさいゴブ!
好きにすればいいゴブ!
とにかく親分の座は降りるゴブ!』
どうやら彼らの争いには、ルナたちが想像した以上にくだらない事情も混ざっているらしい。
親分は悔しそうに部下たちを睨んだ。
『卑怯者ゴブ……!
お前ら、なんでこいつら手伝ったゴブ!?』
恨まれる覚え……
あったっけ?
何かした気はするけど忘れたゴブよ!』
『……あなたとは初対面よ』
ルナは呆れたように答える。
『覚えてないくらい、悪い事はしてるみたいね』
それから、三体のゴブリンへ向き直った。
『とにかく、これでいいでしょ?
私たちは手伝ったんだから宝石について教えなさい』
だが返ってきたのは、耳を疑う言葉だった。
『知らんゴブ!
ざまぁみろゴブー!』
沈黙。
親分が目を丸くする。
『何ゴブ?
こいつらに騙されたゴブか!
馬鹿ゴブー!!』
三体が笑い始める。
『ゴブブブブ!』
レッドは恐る恐る、隣を見る。
『……れ、ルナ……』
『……騙してたら、私も復讐するって言ったでしょ』
ルナの声は静かだった。
だからこそ怖かった。
次の瞬間。
『い、痛いゴブ……!
騙される方が悪いゴブ!』
『……まだ、足りないみたいね?』
『ひっ!?
すいませんゴブ!
手がかり教えるから勘弁するゴブ!』
『……手がかり?
本当は知ってたの?』
レッドが問い詰める。
『ほ、宝石は知らないゴブ。
でも、この先に悪魔っていうのがいるゴブ!』
『そいつなら知ってるかもゴブよ!
俺たちよりずっと偉い奴らゴブ!』
『……悪魔……か』
レッドは赤い大地の先へ目を向ける。
『なんだかその人も簡単には教えてくれなさそうだな』
『でも、他に手がかりもないわ』
ルナは杖を下ろした。
『これ以上ゴブリンに復讐しても仕方がないし』
そして三体を睨む。
『あなたたち……
また騙したりしたら、……覚えてなさいよ』
『は、はいゴブ!
心しておきますゴブ!』
ゴブリンたちは何度も頷いた。
その姿を見ながら、レッドは思う。
(……ここに来てから、ルナの知らない一面をよく見るなぁ……)
可愛い生き物へ目を輝かせる姿。
そして、騙した相手には容赦なく報復する姿。
刻ノ大地だけにいた頃には見えなかったルナの一面が、旅をするたびに少しずつ現れている。
背後ではゴブリンたちが小声で何かを話していた。
『……悪魔って、あの人ゴブ?』
『……やられっぱなしはゴブリンだって嫌ゴブよ!
精々振り回されればいいゴブ!』
また何か企んでいるらしい。
だが、ルナとレッドはまだそれを知らない。
しばらくして、アジトの騒ぎを背に二人は歩き出した。
これまでの世界では、誰かの善意や助けによって次の手がかりへ辿り着くことが多かった。
だが、この魔界では少し勝手が違うらしい。
タヌキムには逃げ回られ、ゴブリンには取引を持ちかけられ、そのうえ平然と嘘までつかれた。
それでも、遠回りの果てに「悪魔」という新しい言葉へ辿り着いた。
『……悪魔、ね』
ルナは赤い空を見上げる。
女神ノ涙が示したのは「鋭いもの」。
レッドの夢に現れたのは神殿のような場所。
そしてゴブリンが示したのは、この先にいるという悪魔。
まだ三つの手がかりが一つに結びついたわけではない。
けれど、この世界で初めて進むべき方向が見えたことだけは確かだった。
レッドも剣を背へ戻し、ルナの隣へ並ぶ。
ゴブリンたちを完全に信用する気にはなれない。
それでも立ち止まっていては、何も確かめられない。
二人は再び歩き出した。
次なる手がかりは――悪魔。
二人は灼熱の大地をさらに奥へ進んでいく。
女神ノ涙へ続く道を求めて。




