ゴブリンの企み3
赤い森の奥へ進むにつれ、地面の亀裂は増え、そこから漏れる炎の光も強くなっていった。
やがて三体のゴブリンが、一際大きな岩壁の前で立ち止まる。
『この先がアジトゴブ!
親分をぶっつぶしにいくゴブ!』
『息の根を止めるゴブ!
地獄の軍勢や悪魔のごとく!』
『……言っておくけど、そこまでひどい事はしないよ』
レッドがすぐに釘を刺した。
二人が請け負ったのは、話を聞くための手助けだ。
命まで奪うつもりはない。
『甘ちゃんゴブ!
宝石の情報はいらないゴブ?』
『お前たちに選択肢なんてないんだゴブよ!』
開き直るゴブリンたちに、ルナは冷たい視線を向けた。
『まったく……
私たちには見た事ない親分よりあなたたちの方が悪人だわ』
『ゴブリンには褒め言葉ゴブ~!』
胸を張られてしまった。
レッドは深いため息をつく。
『……もう……
なんだか本当に手伝っていいのか心配になってきた。
親分がゴブリンの言うように悪いかもわからないしなぁ』
『……とりあえず、行くだけ行ってみましょう』
ルナは杖を握り直す。
『どっちが悪いか知らないけど、私たちの事を騙してたなら――』
青い瞳が、三体を真っ直ぐに捉える。
『それこそ復讐してやるだけだわ』
『ゴ、ゴブ……』
ゴブリンたちの勢いが少しだけ弱くなった。
それでも後戻りはしない。
彼らに案内されてアジトへ踏み込むと、待ち構えていた魔物たちが一斉にこちらを向いた。
小柄な悪魔。
丸い身体をした魔物。
杖を持つ者。
そして奥には、青い肌をした大柄なゴブリンの姿も見える。
『来るよ、ルナ!』
『ええ!』
ルナが杖を掲げる。
青白い光が灼熱の地面へ広がり、鏡ノ扉の英雄たちが召喚された。
黄金の翼を持つ英雄。
黒い帽子を被った二人の術士。
第一陣は、小さな悪魔たちだった。
素早く左右へ広がり、空中から一斉に魔法を放つ。
黄金の英雄が翼を広げて光弾を受け止め、その陰から二人の術士が反撃する。
紫色の光が弧を描き、魔物たちを地面へ叩き落とした。
第二陣では、丸い身体をした魔物が地面を跳ねるように突進してくる。
レッドは一体の体当たりを剣で受け流すと、その勢いを利用して隣の魔物へぶつけた。
『今よ!』
ルナの刻ノ力が敵の動きを鈍らせる。
術士の魔法が炸裂し、第二陣も崩れた。
だが、奥からさらに新たな敵が現れる。
第三陣は魔法を使う悪魔と、前衛を守る魔物の組み合わせだった。
前へ出れば魔法が飛び、足を止めれば魔物が押し寄せる。
レッドが前衛を引き受け、黄金の英雄が敵の頭上へ舞い上がる。
二人の術士が左右へ分かれた。
四方向から攻撃を受けた敵陣が乱れる。
そこへレッドが踏み込み、中央を切り開いた。
そして最後。
アジトの奥から、青い肌のゴブリン――親分が進み出る。
その左右には、まだ魔物たちが残っていた。
『あれが親分みたいだね』
『ええ。
まずは話を聞ける状態にするわよ』
親分が吠え、武器を振り上げる。
ルナたちも一斉に地面を蹴った。
親分の一撃は、これまでの魔物より明らかに重かった。
振り下ろされた武器をレッドが剣で受け止める。
鈍い衝撃が両腕へ走り、足元の地面へ亀裂が広がった。
『くっ……!』
親分が押し込む。
左右から取り巻きの魔物まで迫ってきた。
だが、黄金の英雄が上空から飛び込み、その進路を断つ。
二人の術士も同時に杖を掲げた。
紫色の魔法が左右から親分を挟み込む。
親分は咄嗟に身を引く。
その一瞬を逃さず、レッドは懐へ踏み込んだ。
剣の腹で武器を弾き上げる。
続いて黄金の英雄の一撃が足元へ落ち、親分の体勢が崩れた。
『今!』
ルナの杖から青白い光が走る。
親分の動きが僅かに止まる。
その隙にレッドの剣先が胸元へ突きつけられた。
勝敗は決した。




