ゴブリンの企み2
レッドの問いに、ゴブリンたちは一斉に顔をしかめた。
『俺たちの親分ゴブよ。
もう我慢の限界なんだゴブ』
『俺たちばっかり嫌な目に遭うゴブ!』
『自分だけぐーたらしてるゴブ!』
話を聞けば聞くほど、雲行きが怪しくなっていく。
三体は、自分たちを従えている親分に不満を溜め込んでいるらしい。
命令ばかりする。
面倒な仕事は下っ端へ押し付ける。
自分たちだけ損をしている。
そんな愚痴が次々と飛び出した。
『下克上ゴブ!
アイツの天下はもう終わりゴブー!!』
『ゴブリン同士の争いか……』
レッドは困ったように頭を掻く。
『それなら手伝う事は出来そうだけど……』
『……本当に宝石について知ってるんでしょうね?』
ルナは疑いを隠さず問い返した。
『信じないならいいゴブよ~』
『そうそう、教えないだけゴブ!』
『せいぜい見つからなくって泣けばいいゴブ!』
明らかに足元を見られている。
ルナの額に青筋が浮かんだ。
『……この子たち……』
『ま、まあ、ルナ。
落ち着いて』
レッドが慌てて止める。
だが、女神ノ涙へ繋がる可能性がある以上、簡単に立ち去るわけにもいかない。
ルナは深く息を吐いた。
親分への復讐。
宝石の情報。
どう考えても、まともな取引とは思えなかった。
『……だったら……そうゴブ!
俺たちの復讐を手伝うゴブ!
そしたら教えるゴブ!』
改めて条件を突きつけられ、ルナは腕を組んだ。
『復讐って言われても……
その親分が何をしたのよ』
『俺たちの親分ゴブよ。
もう我慢の限界なんだゴブ』
一体が大げさに両手を振り上げる。
『俺たちばっかり嫌な目に遭うゴブ!
自分だけぐーたらしてるゴブ!』
『この間の宴会の時なんてひどかったゴブ……』
別のゴブリンが悔しそうに拳を握った。
『俺たちには腹踊りさせて、自分は可愛い子とイチャイチャしてたゴブ!』
『今だって俺たちに命令だけして自分は何もしてないゴブ!』
『「今がチャンスゴブ!」とか言うなら自分だって働けゴブ!!』
怒りは本物らしい。
だが、訴えている内容があまりにもゴブリンらしく、ルナは何とも言えない顔になった。
『……結局、手伝う事になったね』
レッドが小声で言う。
『仕方ないじゃない。
宝石について知ってるなら聞かないと……』
ルナはまだ不満そうだった。
『……私だって、出来るならこんな事、手伝いたくないわよ。
どうせ親分が悪いってこの子たちだって似たようなものでしょ』
『そんな事ないゴブ!
アイツは俺たちよりもワルさは上ゴブよ!』
『そうゴブ!
この間の宴会の時なんてひどかったゴブ……』
同じ話を蒸し返しながら、三体はますます親分への怒りを募らせていく。
『……まあ、
理由はそれなりにあるみたいだね……』
レッドも完全には納得していないようだった。
『悪い事してたのも親分の命令なのね』
ルナが確認する。
『そうゴブ!
俺たちは命令されてただけゴブ!』
『だったら……』
ルナは三体をじっと見る。
『倒せば、この子たちもいい子になるかしら』
一瞬、ゴブリンたちが固まった。
そんなことは考えていなかったらしい。
だが、すぐに調子を合わせる。
『も、もちろんゴブ!』
『親分がいなくなれば俺たちは生まれ変わるゴブ!』
『だから早く行くゴブ!』
胡散臭さは増すばかりだった。
それでも、ほかに手がかりはない。
レッドは剣の柄へ手を置きながら尋ねる。
『親分はどこにいるの?』
三体のゴブリンは、赤い森のさらに奥を指差した。
『この先ゴブ!
アジトまで案内するゴブ!』
木々の奥には、炎のように尖った岩山が連なっている。
女神ノ涙が示した「鋭いもの」。
その言葉を思い出し、ルナは目を細めた。
偶然かもしれない。
だが、進む理由はまた一つ増えた。
『わかったわ。
案内しなさい』
『ゴブブブ!
親分め、覚悟するゴブ!』
嬉々として歩き出す三体。
その後ろを追いながら、レッドは小声で呟いた。
『……ゴブリン同士の争いか。
それなら手伝う事は出来そうだけど……』
『ええ』
ルナは前を向いたまま答える。
『ただし――』
その声に、先を行くゴブリンの耳がぴくりと動いた。
『もし私たちまで騙してたら、その時は覚えてなさいよ』
三体の歩みが、一瞬だけ速くなった。




