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ゴブリンの企み1

タヌキムと別れたあとも、ルナは何度となく後ろを振り返っていた。


赤く焼けた大地の向こうに、あの桃色の姿はもう見えない。


それでも、名残惜しそうに小さく息を吐く。


『はぁ……可愛かった……。

 もう少しで触れると思ったのに……』


『……そんなにタヌキムに触りたかったんだ……』


レッドの呟きに、ルナの肩が跳ねた。


『べ、別に……。

 ちょっとした好奇心よ!』


『……今更、そんな事言っても。

 好きなんでしょ?

 ああいう生き物……』


『うっ……』


否定しようとしたものの、どうやら無理だと悟ったらしい。


ルナは少しだけ頬を赤くして、視線を逸らした。


『……ふわふわした生き物にもふもふするのって……

 ずっと憧れだったのよ』


刻ノ大地では、そもそも多くの生き物と触れ合う機会などなかった。


鏡ノ扉を越えて旅に出てから、ルナにとって初めて見るものは増える一方だ。


それは人や街だけではない。


スライムも、森人も、タヌキムも。


使命だけを考えて生きてきた少女にとって、世界そのものが未知で満ちていた。


『なんか……意外だね。

 あんまり可愛いものとかに興味ないのかと思ってたよ』


『失礼ね。

 私だって可愛いものくらい好きよ』


むっとした顔で言い返したあと、ルナは咳払いをした。


『……それより。

 女神ノ涙を探さなくちゃ』


ようやく本来の目的へ意識を戻す。


タヌキムは、宝石のことならゴブリンが好きだと教えてくれた。


女神ノ涙そのものを知っているとは限らない。


だが、この世界へ来てから得られた数少ない手がかりだ。


『えーっと……

 女神ノ涙を見つけたら、また会いに来ればいいんじゃないかな。

 せっかくタヌキムが手がかりをくれたんだからさ』


『……そうね。

 ゴブリン……』


ルナは前方を見据えた。


火の粉が舞う赤い森の奥には、ねじれた黒い木々が密集している。


その間を進んでいくと、やがて複数の影が道を塞いだ。


小柄な緑色の身体。


骨を被ったような兜。


手には剣や盾を持っている。


三体のゴブリンだった。


『ここは通さんゴブよ!

 先に行きたかったら――』


先頭のゴブリンが得意げに胸を張る。


その横では、仲間たちがにやにやと笑っていた。


どう見ても、道案内をしてくれそうな雰囲気ではない。


『ご、ゴブ!?』


ルナとレッドを見たゴブリンたちが一瞬だけ目を丸くした。


見知らぬ旅人が本当に現れるとは思っていなかったのかもしれない。


ルナは三体を順番に見つめる。


『……やっぱり意地悪みたいね』


『うん……。

 タヌキムが言ってたゴブリンとはこの子たちのことかな』


女神ノ涙へ近づくためには、この道を通る必要がある。


そして、目の前には宝石好きだというゴブリン。


面倒な相手であることは間違いなさそうだった。


それでもルナは退かなかった。


『ちょうどいいわ。

 聞きたいことがあるの』


杖を持つ手に力を込める。


女神ノ涙を求める旅は、今度は三体のゴブリンとの奇妙な駆け引きへと繋がっていった。


三体のゴブリンは、ルナとレッドを前にして何やら相談を始めた。


『ゴブ……

 どうするゴブ?

 脅しがきかないゴブよ』


『お前考えるゴブよ!』


『嫌ゴブ!

 めんどくさいゴブ!』


小声で話しているつもりなのだろうが、ほとんど全部聞こえている。


『そもそも、もうこんな事しなくてもいい気がするゴブよ?』


『それもそうゴブ……

 ついにやっちゃうゴブ?

 決起の時ゴブ!』


『…………』


ルナとレッドは、顔を見合わせた。


道を塞いで旅人を困らせているだけだと思っていたが、三体には三体で別の事情があるらしい。


もっとも、今はその事情に首を突っ込むために来たわけではない。


『ねえ』


ルナの声に、ゴブリンたちがびくりと振り返った。


『聞きたい事があるの。

 宝石の場所を知ってたら教えてくれないかしら』


『宝石?』


先頭のゴブリンの目が細くなる。


『知ってたって教えないゴブ。

 俺たちが答える筋合いないゴブ!』


『そうそう!

 タダで何かしてもらおうなんて甘いゴブ!』


『情報料よこすゴブよ!

 取引だったらしてもいいゴブ!』


いかにもゴブリンらしい答えだった。


ルナは眉を寄せる。


『私たち、この世界のお金なんて持ってないわ』


その言葉を聞いた途端、三体の顔から期待が消えた。


『じゃあ諦めるゴブ!

 ゴブブブブ!』


『ちょ、ちょっと待って』


レッドが慌てて間へ入る。


『取引になればいいんだよね?

 お金以外じゃ駄目かな?』


『ゴブブ……?

 どうするゴブ?』


再び三体が顔を寄せ合う。


すると、一体が何かを閃いたように手を打った。


『……だったら……そうゴブ!

 俺たちの復讐を手伝うゴブ!』


『おおー!

 いい考えゴブ!

 こいつらにやらせるゴブね!』


『さっすがゴブ!』


『……復讐って、誰に?』

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