意外な一面3
最初に飛び込んできた魔物を、レッドが正面から受け止めた。
鋭い爪と剣が噛み合い、火花が散る。
その左右から小柄な魔物が回り込もうとするが、黄金の翼を持つ英雄が上空から急降下した。
光を纏った一撃が地面へ突き刺さり、二体をまとめて弾き飛ばす。
黒帽子の術士が杖を振るう。
紫色の魔力が足元を走り、起き上がろうとした魔物たちを呑み込んだ。
第一陣が退く。
だが、すぐに次の唸り声が重なった。
第二陣は獣のような魔物を中心に左右へ広がる。
一体が低く身を沈め、レッドの足元へ飛びかかった。
『っ!』
レッドは横へ跳んで牙をかわす。
着地するより早く、別の一体が背後から迫る。
『レッド!』
ルナの杖が青白く光った。
刻ノ力に触れた魔物の動きが、一瞬だけ鈍る。
その隙に黒い翼の少女が割り込み、暗色の刃で敵を薙ぎ払った。
三度目の襲撃では、空中を漂う小さな魔物たちが魔法を放ってきた。
赤い空に光弾がいくつも浮かぶ。
黄金の英雄が翼を広げ、降り注ぐ魔法を受け止める。
黒帽子の術士はその影から杖を突き出し、一発ずつ撃ち落としていった。
『まだ来るよ!』
レッドの声に、ルナは前方を睨む。
最後に現れたのは、それまでとは比べものにならないほど大きな獣だった。
氷のような青白い毛。
背中から突き出した無数の鋭い棘。
灼熱の世界にいること自体が不自然に見える巨体が、地面を震わせながら突進してくる。
その左右には、小さな魔物が二体。
『あれを止める!』
レッドが走る。
大獣は頭を下げ、氷の棘ごと突っ込んできた。
正面から受ければ吹き飛ばされる。
レッドはぎりぎりまで引きつけ、横へ身を投げた。
巨大な身体が脇を通り過ぎる。
そこへ二人の英雄が左右から魔法を叩き込む。
獣が怒りの咆哮を上げた。
振り返った尾が地面を薙ぎ、砕けた岩が飛び散る。
ルナはタヌキムを庇いながら杖を掲げた。
『お願い……今よ!』
刻ノ力が獣の動きを縛る。
ほんの一瞬。
だが、十分だった。
黄金の英雄が高く舞い上がり、背中の棘の間へ光の一撃を落とす。
大獣が体勢を崩した。
黒帽子の術士と翼の少女が続けて魔力を放つ。
最後にレッドが懐へ踏み込み、剣の腹を強く叩き込んだ。
巨体が大きく揺らぐ。
そして――。
『いてぇ!!
もう少しで食えそうだったのに!』
大獣――ウルフは悔しげに吠えた。
『きみゃー!
ぼくちゃんたべられるのはやなのー!』
タヌキムがルナの背後へ隠れる。
その姿を見た途端、ルナの表情が険しくなった。
『こんなふわふわの生き物を食べようだなんて!』
そして胸を張る。
『私、まだ触ってもいないのに!
絶対にさせないんだから!』
『……えっと、ルナ……?』
レッドの小さな声は、届いていなかった。
------------------------------------------------------------
『覚えてろよ!
いつかまとめて食ってやる!』
ウルフは捨て台詞を残し、残った魔物たちを連れて逃げていった。
『きみゃー!
ぼくちゃんたべられるのはやなのー!』
まだ震えているタヌキムへ、ルナは勢いよく振り返った。
『絶対しないわ!
だから、その……』
伸びかけた手を、レッドが無言で見る。
『僕らは君を食べたりしないよ』
そしてルナへ視線を送る。
『ほら、ルナも僕も、もう触ろうとしないでしょ』
『!!』
ルナの手がぴたりと止まった。
『うっ……
そ、そう……ね……』
見るからに残念そうだった。
『きむーん?
そうだったー?』
タヌキムはようやく警戒を緩める。
『つかまったらさいごっておもったんだもんね』
『大丈夫だってば……』
レッドは苦笑し、本来の目的へ話を戻した。
『それより、君は涙の形の宝石を知らないかな?』
『キラキラした、綺麗な石なんだけど……』
タヌキムは首を傾げた。
『しらないのー』
期待は一瞬で崩れた。
だが、タヌキムは続ける。
『そういうのはねー、ゴブリンたちがすきだもんね』
『ゴブリン?』
レッドが顔を上げる。
『この世界にもいるのか……
どこにいるんだろう』
『ぼくちゃんのおうちからちょっとはなれたとこ!』
今度こそ手がかりだった。
ただし、一つ問題がある。
『……えっと……
じゃあ、タヌキムの家を探さないとか』
レッドはタヌキムを見る。
『迷子なんだもんね』
ところが、タヌキムは何を言っているのか分からないという顔をした。
『ぼくちゃんのおうち?
ここだもんね!』
『ついちゃったー!』
『…………』
レッドは周囲を見回す。
確かにタヌキムは逃げ回った末、自分の家の近くまで戻ってきていたらしい。
『……結果オーライって事かな』
追い回したことが正しかったのかどうかは、考えないことにした。
『じゃあ、ルナ……
ゴブリンに会いに行ってみようか』
『うぅ……
わかったわ……』
ルナは頷く。
だが、視線はまだタヌキムの桃色の毛へ向けられていた。
『結局触れないままなのね……
ふわふわのもふもふ……』
『ルナ……』
『ううん、
いつかは絶対……!』
決意を新たにするところが、明らかに違う。
レッドは小さく息を吐いた。
(タヌキムが怖がったの、勘違いじゃないのかも……)
こうして二人は、新たな手がかりを得た。
涙の形をした宝石を好むというゴブリン。
レッドの夢に現れた神殿。
そして、女神ノ涙が示した「鋭いもの」。
次に向かう先は決まった。
燃える魔界の奥へ。
ゴブリンたちを探し、
第二の女神ノ涙へ続く道を見つけるために。




